しーーっ!! じゃないですよっ!!
・・・・ん?何か違和感。
目の前にいるポールさんを、よく観察する。
青い髪の美女に変装した・・・・ポールさん・・・に、変装した・・・・
誰だコレ?・・・・[強欲王]発動。
・・・・おい。なんでアンタがココに居るんだ。
「・・・・あの~。・・・何してるんですか?ルーシーお義姉様・・・・。」
「何の事でしょう?イザベラちゃん。」
「「・・・・。」」
二人の間に、変な沈黙が流れる。
鑑定した結果、目の前にいる『青髪の美女に変装したポールさんに変装した女性』は、ルーシーお義姉様。
彼女はロゼリアル王国、魔術師団長のご息女で、ギースの姉。
そして我が家の長兄の婚約者で、未来のロッテンシュタイン公爵夫人だ。
ちなみに元の髪色は焦げ茶色に、琥珀色の瞳だ。
なぜ姉弟で、ココまで色味が違うのか。
「ルーシーお義姉様っ!! 結婚の準備期間中なのに、いったい何をしているんですかっ?!」
私の叫びに、ルーシーお義姉様は大慌てで、人差し指を唇に当てる。
「イザベラちゃんっ!! しーーっ!! しーーっ!!」
「しーーっ!! じゃないですよっ!! 貴女が毎年、毎年、予定が悪いだ何だと言って、ノラリクラリと結婚式をかわしまくるから、次兄のダイモン兄様が、兄を差し置き結婚できなくて、いまだに実家に居るんですよっ!! 早くあの鬼は外に出したいんですよっ!! こんなところで暗躍してないで、結婚準備を優先して下さい!! お願いですからっ!! 」
涙目でルーシーお義姉様に掴みかかり、ガクガク揺さぶる私を、お義姉様は必死でなだめる。
「落ち着いてっ!! 落ち着いてっ!! その話はまた後日しましょうっ! ひとまず今は、私はココに居ないことにしてっ!! 私の名前を連呼しないでっ!! とにかく私に、ついて来て欲しいのっ!! 今はソレどころじゃないからっ!!」
そうだった。教会が襲撃されたんだ。
偽ポールさんと、その正体がルーシーお義姉様だと言う、二重の驚きで頭からその情報が吹っ飛んでた。
でも、ルーシーお義姉様とウルシュ君が協力しているのは初耳だわ。
ウルシュ君ってば、どこまで人脈を築いているのかしら。
顔が広すぎて、ウルシュ君の関係者や繋がりを把握出来る気がしないわね。
ルーシーお義姉様が言うには、仲間が憲兵を回収してくれると言う事なので、そのままルーシーお義姉様について行く事にした。
「クリス様、お久し振りです。今日はアマリリス嬢も来てたんですねぇ。お元気でしたかぁ?」
僕は、ポールと別れた後、クリス様に呼ばれていたので、王宮へと足を運んだ。
王宮の従者に案内されて図書室に行くと、クリス様と一緒にアマリリス嬢がお茶をしている所だった。
図書室って普通は飲食禁止じゃないのかなぁ・・・・。
「・・・・やぁ。ウルシュ、久しぶりー・・・・呼びつけてごめん・・・」
「ふわぁ~! ウルシュ君、お久し振りなのですっ!!私は元気ですわぁっ!!あ、そう言えばクリス様の事は親しげに呼んでいるのですね。ずるいですぅ・・・私の事も、ベラちゃんが呼んでるみたいに、アリスって呼んで下さいっ!!」
クリス様が、いつもと同じ脱力したような話し方で挨拶をすると、それを聞いていたアマリリス嬢が、駄々をこねるように上半身を左右に振って、僕に親しげに呼ぶことを要求する。
僕としてはアマリリス嬢よりも、イザベラを親しい呼び方で呼びたいんだけど。
何で僕より先にアマリリス嬢が、イザベラをベラって呼ぶことが許されているんだろう、と少しイラっとする。
表情には出さないけど。
「え~と・・・ではアリス様で。それにしても、お二人はずいぶん仲良くなったんですねぇ。」
そう二人に声をかけると、アリス様は恥ずかしそうに笑う。
意外にもクリス様の口元にも、うっすらと笑みが浮かんだ。
どうやら色々と上手くいっている様だね。イザベラが見たら喜ぶよ。
あの山小屋でクリス様の[傲慢の耳]スキルが[傲慢王]へと進化したことによって、常時発動が解除され、スキル封じのアイテム無しでも日中の会話が可能に成り、クリス様の精神状態や体調は日に日に回復していった。
そして王宮への帰還後、アリス様との婚約話が持ち上がっているらしい。
僕には、相手がイザベラじゃないならどうでも良い話だけど、イザベラがアリス様とクリス様が婚約するのを期待していたので、喜ぶんじゃないかな?
「そう言えば、今日はベラちゃんは来てないんですの? 久しぶりにベラちゃんに会いたかったのに残念ですぅ・・・」
「イザベラは、誘拐犯らしき馬車を走って追いかけて行ったから、一緒には来てないですよぉ。戻って来たら合流できるように、協力者に案内をお願いしておいたから、そのうちココに来るんじゃないですかねぇ」
多分、イザベラはアジトまで辿り着けずに、途中で馬車を横転させるとかして、誘拐犯を捕獲する事態に成るだろうし、早めに合流出来るんじゃないかな?
「そう言えば、クリス様は王妃様に訓練してもらう事に成ったそうですねぇ。どうですかぁ? 冒険者流の訓練は」
「・・・・・うん。・・・・・・・そのうち訓練で、ボク死ぬかも知れないから、一週間おきに遺書を書いてる・・・・」
「・・・・・・・。」
どうも、山小屋以上のしごかれ方をしているらしい。
「ふぇ・・。私も、書いてますぅ・・・」
「あぁ、そう言えばアリス様も実家での教育の合間に、王妃様からの訓練を受けてるんでしたねぇ」
「そうなのですぅ。ちっちゃな爆発の練習ばかり何千回もさせられて、死にそうなのですぅ。でも練習しないと、来年ダンジョンに入れられた時に、爆発を使えないのですぅ。・・・・・だって、生き埋めに成っちゃう」
来年ダンジョンに放り込まれるのが、すでに決定しているんだね。
頑張って、アリス様。
そして、王妃様もアリス様の訓練を頑張って下さい。
王都内とダンジョン内の安全の為に。
「ところでクリス様。急な呼び出しでしたけどぉ、もしかしてお願いしていた、王宮内に居る誘拐犯の協力者を見つける事が出来たんですか?」
実はクリス様には、王宮内に呪術師組織や子爵の協力者が居ないか、秘密裏に調べて貰えないかお願いしたのだ。
ギースは、王宮の温室で誘拐されそうになった。
そして、誘拐実行犯の女性は、王宮メイドの制服を着ていた。
ならば、必ず王宮内に協力者や、手引きをした人間が居るはずだ。
僕の質問に、クリス様は小さく頷く。
「・・・・ボク、お喋り苦手だから・・・・人に話を聞く事が出来なかったんだぁ・・・・それでね、王宮内にある、悪い感情だけを察知する事にしたんだ・・・」
クリス様は、進化した[傲慢王]スキルを利用したらしい。
ちなみに[傲慢王]スキルは、望遠の能力、地獄耳の能力、読心の能力、感情の察知能力、その場に残った感情の残滓を把握する能力、と言った多彩な能力を持っていた。
こんな能力を持っているんじゃ、クリス様とはカードゲーム出来ないねぇ。
手の内や、イカサマがばれちゃうから。
う~ん。今の僕には調べる事は出来ないけど、クリス様の能力を考えると、[強欲王]スキルにも、精密鑑定、絶対鑑定、看破の他にも別の能力が有るかも知れない。
・・・・イザベラが、使いこなせるかどうかは置いといて。
僕が考え込んでいる間にも、クリス様はゆっくりと話を続けた。
「・・・・・それでね、そう言った悪い感情を辿って行った先で、読心を繰り返したら・・・・・誘拐された人達が保護されている教会を・・・・・襲撃して、彼らを奪い返す計画が有る事を知ったんだ・・・」
「凄い情報を手に入れましたねぇ・・・その計画、他の人には伝えましたぁ?」
「・・・・・騎士団長は、綺麗で真っ直ぐそうな、強い感情しか持ってなかったから、信用して話したから、襲撃を防ぐ為に動いてくれているよ・・・・・」
レベル差の為にクリス様は、騎士団長の読心までは出来なかったと。
だけど、感情程度ならばレベル関係なく読めるらしい。
ちなみに好奇心で、どんな風に感情が読めるのか聞いてみると、感情は、気配やオーラの様な感じで把握が出来るとの事。
「でも、騎士団長だけ? 魔術師団長は? 信用できない感じでしたぁ?」
「・・・・・・ううん・・・・魔術師団長は・・・・・・変わり者だけど信頼は出来る・・・・でも」
クリス様はそこまで話すと言いよどみ、視線をあちこちに彷徨わせる。
アリス様も、詳しい話は聞いていなかったようで、不思議そうに首をかしげたまま、クリス様が口を開くのを待っていた。
しばらく思案して、話す決意が固まったのか、ゆっくりとクリス様は口を開く。
「・・・・誘拐の協力者が・・・魔術師団に・・・・居るのがわかったんだ・・・だから、魔術師団長には言えなくて・・・・」
「あぁ~。それなら仕方が無いですねぇ。魔術師団長が、魔術師団に指示や命令を下す段階で、一味に情報が洩れるかもしれないですもんねぇ。」
「ほぇぇぇ~。魔術師団は王宮内に研究所や訓練場が有りますものねぇ。そこに悪い奴の協力者が居るなら、王宮内に侵入するのは簡単ですわねぇ。・・・・・ふえぇ・・ソレ、よく考えると凄く怖いですぅ。」
真っ青になったアリス様の頭を、よしよしと撫でながら、クリス様はつらそうな表情を浮かべ話を続けた。
「・・・それも有るんだけど・・・・その協力者っていうのがね・・・・魔術師団長の娘さんなんだ。・・・だから・・・なんだか言えなくて・・・」
「え? 魔術師団長の娘? ・・・・魔術師団長に娘さんは・・たしか一人しか居なかったですよねぇ?」
「・・・・・うん。・・・ギースの姉上のルーシーだよ・・・きっと魔術師団長は自分の娘が、自分の弟を呪術師に売ろうとしたことを知ったら・・・・・きっと悲しむから・・・・ボクからは、どうしても言えなかった・・・・」
アリスちゃん、始動準備中。