乗せて貰お。
すみません、前話から2週間も空きました。覚えていない方のために前回のあらすじを・・。
ウルシュ君が、誘拐犯カラーズコレクターの正体が、ヒロインの父親である子爵だという事を突き止め、被害者達の監禁場所の情報をもとに、騎士団が誘拐されている人達を開放する。
イザベラは、子爵と繋がりのある呪術師達の潜伏先を探す為に、誘拐されるために髪を染め、ポールさんとおとり捜査に乗り出した。
背後から声をかけられ、ポールさんと振り返ると憲兵が3人立っていた。
「奥さん失礼致しますが、この辺りの方でしょうか?」
憲兵の1人がポールさんに問いかける。
それに対してポールさんは、声帯模写を使って女性の声で返す。
「いいえ、観光のために北東の港町から来ましたの。ディアナ王国との国境の近くの町です。それが何か?」
あ、これ、この声はマリーちゃんの声だっ!!
ポールさん、マリーちゃんの声を再現してる。凄いっ!! このスキル欲しいっ!!
感動している私をよそに、ポールさんと憲兵の会話は進んでいく。
「あぁ、そうでしたか。どうりで。実は今、王都では珍しい髪色の人を狙った誘拐事件が多発しているので見回りをしているんです。奥さんと娘さんは、特に珍しい髪色をしているので気を付けて頂きたいと。もう日が傾いて来ているので直ぐに宿泊先の宿に戻った方が良いでしょう。」
おぉう。仕事熱心な憲兵さん達に当たったようだ。
誘拐される事が目的です、とも言えないので、素直に今日の囮捜査は終わりにするかなぁ。
「まぁ、そんな怖い事件が王都で起こっていたのね~。知らなかったわ。娘が幼いから心配ね。ご親切にどうも有難うございます。」
ポールさんが憲兵にお礼を言って、その場を離れようとすると、呼び止められる。
「あぁ、奥さん。お子さんが幼いようですし、すでに日も暮れてきていますので我々の馬車で宿まで送りますよ。こちらに馬車を停めていますのでどうぞ。」
はい。ダウト。
我々の馬車ってなんだ。
王都内を馬車で優雅に見回りする憲兵がどこにいるんだよ。
大通りしか見回れないだろソレ。
日本のパトカーによるパトロールとは違うんだぞ。
ポールさんと繋いでいた手を、軽く3回握って合図する。
それに返事を返すようにポールさんも手を2回、握り返してくる。
「あら、どうしましょう? あと少し見て回りたいものがあるのだけど・・・」
ポールさんが話を引き延ばしてくれている間に、憲兵らしき3人の鑑定をする。
3人に呪術系スキルは無し。
呪術を掛けられている様子も無い。
・・・だけど憲兵に必要そうなスキルも無いんだよなぁ。
怪しいと言えば怪しいんだけど、呪術師や子爵と関わっているか判断が付かない。
困ってポールさんを見上げると、ポールさんは、握った手を軽く振って合図する。
たぶん合図の意味は、”判断が付かないなら、判断がつくまで相手してみれば良いじゃん。”って感じだろうな。
どうやら付いて行ってみるらしい。
確かに、今のところ何の手掛かりも掴めて無いので、怪しい餌が有るなら、片っ端から食い付いて行くしか無いわね。
「ママ、私もう足が痛いから帰ろ。憲兵さんに馬車に乗せて貰お。」
その私の言葉にポールママはニコニコと笑顔を返す。
「そう? 足が痛いの? じゃあ、送って貰おうか?」
そしてポールママは憲兵らしき人達に向き直り、お言葉に甘えてお願いしますと、頭を下げた。
そのまま馬車まで案内されながら手を繋いで歩いていると、私達の周囲を憲兵がさりげなく囲んできた。
横目で憲兵の動きを確認していると、憲兵の一人と目が合ったので、試しにニッコリ笑いかけてみて反応を見るが、無表情でスルーされる。
憲兵としても、そして誘拐犯だとしても、愛想が無いわね。
特に、誘拐犯には愛想は大事だと思うよ。
そのまま無言で案内について行くと、歩いて5分ほどの距離の人目につきにくい場所に、馬車が停めてあった。
馬車の中を[色欲]で確認する。
ビンゴ。
繋いでいる手の人差し指と中指の2本でポールさんの手を3回叩き、合図を送る。
(馬車の中に2人。当たり。)
馬車の中に男が2人、青い布と紫の布を用意して潜んでいる。
あれが被害者達を誘拐する時に包んでいる布かしら?
馬車の中の男達が持っている布に対して[強欲王]を発動。
『眠りの呪い織』
意識消失の呪いが織り込まれた布地。
染められた色と同じ色彩を身体に持つ者が、この布に包まれると意識消失する。
それ以外の者には効力が無い為、他の布に紛れ込ませる等、潜ませるのに有利。
あーー。私とポールさんには効かないわ、この布。
今は髪染めているから紫だけど、実際は髪も目も紫じゃないし、ポールさんは髪も目も茶色だから青い部分無いなぁ。
布に包まれた時に、気絶した振りをすれば良い話なんだけど、そんな事を知らないポールさんに、布に包まれたら気絶した振りをするように伝えるには、どうした良いかな?
馬車に乗り込む前に、ポールさんに作戦をどうにか伝えないと。
と、そんな事を考えていると急に馬車の扉が開き、布を持った男達が駆けだして来た。
私とポールさんが逃げない様に、憲兵(偽)が背後を塞ぐ。
・・・いや、ちょっと待ってお前ら。
なんで、馬車から出て来た?
人目が付くかもしれない外じゃ無くて、私達が馬車に乗り込んだ時にその布で捕獲しろよっ!!
さてはお前ら素人だな?!
誘拐犯の余りのずさんさに、ポールさんと思わず呆然としていると、その隙に男の1人が青い布をポールさんに被せた。
当然、ポールさんには効果が無い為、布を被せられたポールさんは、キョトンとしたまま立っている。
なんてこったいっ!! まだポールさんに、この布の効力を説明出来ていなかったぁぁぁっ!!
お前らが、ずさんな誘拐をしようとするから、説明する暇が無かったでしょっ!!
説明出来ていたら、気絶した振りして上手く誘拐される事が出来たのにっ!! 誘拐が成功したのにっ!!
呪い布が効かない事に動揺する誘拐犯達。
ポカンとしたまま、頭に中途半端に引っかかった布を取るポールさん。
その時、布と一緒にポールさんが被っている青毛のカツラが、一緒に取れた。
私とポールさん、憲兵(偽)と馬車から降りて来た誘拐犯達の空気が凍り付く。
「あ・・・外れちゃいました。」
こわばった表情で、ポールさんは思わず地声でつぶやく。
その声で誘拐犯達は、我に返った。
「おとり捜査だっ!!」
その瞬間、馬車から出て来た二人の男は、口から血を吐き崩れ落ちる。
しまったっ!! 憲兵には口封じの呪いが掛かっていなかったけど、後の布を持っていた二人には呪いが掛かっていたのかっ!!
憲兵(偽)の男達はポールさんを突き飛ばすと、馬車に飛び乗り、すぐに馬車を走らせた。
まずい、このまま逃げられたら、せっかくの手掛かりを無くしてしまうっ!!
「ポールさんっ!! その人達をお願いっ!! 私はあいつ等を追うわっ!!」
そのまま、血を吐きながら苦しむ誘拐犯と、ポールさんをその場において、走り去る馬車を追いかける。
「ちょっ!! お嬢様っ!! 待って下さいっ!!」
背後でポールさんの呼び止める声が聞こえるが、気にせず走る。
私達を誘拐しようとした事で、監禁場所を騎士団に暴かれても、奴らに大人しくするつもりが無い事は分かった。
なら、他にも誘拐しようと目を付けられた人や、ここ最近に誘拐された人が居るかもしれない。
そして、材料と成る犠牲者を補充する事に、こんなに早く動き出したところを考えると、すぐに材料を必要としている可能性が有るので、誘拐された人達が居るなら、その人達が危ない。
だったら、ここで手掛かりを逃がす訳にはいかないっ!!
全力で走り馬車に追いついた私は、馬車の後ろにしがみつくと、そのまま馬車を静かに登る。
そのまま体を伏せて、爆走する馬車の天井に張り付いた。
このまま、アジトまで案内させるわよ。
補足。マリーちゃんはイザベラの家のメイドです。最近出番がないから忘れられていますが(笑)