商人が一番羨む魔法だねぇ~
【クローゼット】の中に入っている物が、前世のゲームで手に入れたアイテムだと気づいたところで
中に何が入っていたかをチェックする。
アイテムの内容よりも、アイテムを手に入れる際の、ウルシュ君との交流を重視していたせいで
自分がどんなアイテムを持っているかなんて、覚えていなかったのだ。
装備アイテムの、『魅力を上げるドレス』と言ったガチャのノーマル品は、ダブりが多く
希望する他プレイヤーさんに、ポーション等の使い切りアイテム1個と、ドレス10種類で交換を行っていたので、数が少ない。
ちなみにポーションは、ポイントで購入するか、課金で150円で手に入る物。
ガチャは200~500円なので、破格の交換だと、かなり売れた(?)
課金ガチャを回し過ぎて、【クローゼット】の容量が一杯になるのを防ぐ為の行為だったが
転生先に持って来るのなら、同じドレス複数より、ポーションの方が使い道が有るので
前世の自分に、良くやったと言いたい。
当然その代わり、ポーションが、異常なほど有った。
ポーションは、2種類『魔力回復ポーション』と『体力回復ポーション』で
レベルが4段階、低(30%回復)・中(50%回復)・高(80%回復)・神(全回復)
多分、戦争とかが無い限り、定価で売ったとして、5年分くらいの在庫が有る。
「よし、ウルシュ君と行商する事になったら、これを売ろう。元手がタダだし、いい稼ぎになるわ。」
消失しているアイテムも多数あった。
まず『エフェクト系』
ホーム画面で自分の周りにハートを浮かせたり、キラキラさせたり出来ると言う物なんだけど・・・。
物じゃないから【クローゼット】に入って無くて当然だよね。
実体の無い物質じゃ、取り出しようが無いわ。
あとは、「隠れSSSレア」だった整形アイテム『七大罪の魔眼』
「隠れSSSレア」って何ぞ?と思われるだろうけど、
どのイベントの、どのガチャに、何の大罪の眼が出現するか分からない、幻のレアと言われていた。
公式でも、『七大罪の魔眼』シリーズについての発表は何も無く
公式が存在を明言していないので「景品表示法なんか知った事では無い」とでも言うかのように
出現率が驚くほど低く、さらに交換不可のアイテムの為、欲しければ自力で出すしか無いのだ
それ故、七大罪すべてをコンプするのは不可能と言われた品だった。
え?私?
私は7大罪すべてコンプしましたよ?
瞳の色を変えられるってだけで、何の効果も無いアイテムでしたが。
その上、当ててもウルシュ君から、何の反応も返って来ないのだ。なんやねん。
まぁ【クローゼット】に残っていなかったけどね。
直に眼球が入っていたところで驚くし、困るから、入って無くて良かったけど。
さて、他に確認するものと言えば、武器と食べ物系なんだけど・・・。武器は今はいいや。
むしろ6年間、一度も開けた事の無い【クローゼット】に入っている、食べ物の状況が怖いんだけど。
え~と、『ジャイアントフロッグのホットサンド』
ジャイアントフロッグって何?巨大蛙のホットサンドって事?
そんなの入れたっけ?怖いわぁ~。
んっ?あぁ、そうそうっ!!『ラブ☆マジカル』のVer3のイベント
『ジャイアントフロッグ大量発生ハーベストイベント』で、作った料理だ。
うん?・・・あっれぇ~?
悪役令嬢イザベラは、Ver1の悪役の1人で、Ver3には居ない筈だけど?
これ、持ってても良いのか?おかしくないか?
・・・良く分からないけど、それについては、後で考えよう。
とりあえず、『ジャイアントフロッグのホットサンド』とやらを取り出してみる。
よし、腐ってないし・・・・出来立てほやほやで、まだ熱い。
どうやら【クローゼット】さんは『空間魔法』ではなく、さらに上の『時空間魔法』のようだ。
中に入れた物の時間が止まるっぽい。
もう一度仕舞ってみる。もう一度取り出す。また仕舞う。
よし、出し入れは問題なく行えるね。
では、元々中に入って無かった物はどうだろう?
大広間に飾ってある、花の活けられた花瓶に触れてみる。
【クローゼット】に収納する。よし、出来た。
「花の活けられた豪華な花瓶」が【クローゼット】の中に確かにある。
今度は取り出す。もう一度仕舞う。取り出す。
よし、問題は無いな。
問題が無い事を確認した所で、商品を運んでいるスネイブル商会の従業員さん達に接近する。
「イザベラお嬢様っ!!どうされましたか?今、商品の移動中で危険ですので、あちらの方でお話を伺いましょう。」
作業中の従業員さんの1人が駆け寄って来て、私を安全な位置に誘導しようとする。
「いいえ、私は皆さまが商品を運ぶのが大変そうでしたので、手伝いに来たんですの。」
私の発言に、他の従業員さんまで振り返り、ギョッとした表情を向ける。
確かに公爵令嬢が、荷運びを手伝うのは珍しいと思うけど、そんなに驚かなくても・・・。
「お嬢様がですかっ?!いえいえっ!!重たいですし、お嬢様にそのような事はお願いできませんっ!!」
「持ち上げる訳じゃないから、平気ですわ。こうすれば沢山運べますし。」
そう言うと、試しに近くにある鏡台に触れると、【クローゼット】に仕舞う。
目の前から突如消失した鏡台に、周りにいた従業員さん達の動きが、時間が停止したかのように止まる。
「「「「・・・・・・・え?」」」」
その一声を発した後も、固まって動こうとしない従業員さん達。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
従業員さん達が困惑して動けないでいる様なので
一度、鏡台を取り出し、鏡台が無事である事を確認して貰う事にしよう。
そりゃ、大切な商品が消えれば、不安にもなるわよね。
【クローゼット】から鏡台を取り出す。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「「「「「「・っつ!!っえええええぇぇぇぇええっ??」」」」」」
再び出現した鏡台に、喉が潰れるのでは無いかと言う位に叫ぶ、従業員さん達。
魔法のある世界なんだから、そんなに驚く事でも無いと思うんだけど。
「えっと、私は多分『時空間魔法』の一種だと思うんですけど、品質を保ったまま収納出来る魔法が使えるんですの。その魔法で、商品を運ぶ手伝いが出来ますので・・・どうかしら?」
私の提案に、口をパクパクさせながら、返事が出来ないでいる従業員さん達を前に
どうしたら良いかと悩んでいると、後ろから声をかけられる。
「お前達、一体何を騒いでいるんだ。イザベラお嬢様が困惑しているだろう。」
振り返ると、ウルシュ君と義父様、そして何事かと集まって来た、我が家の使用人達が居た。
「っつあ!!だだだ旦那様!!そのっ!そ、そのっ!こちらのイザベラお嬢様はそのっ!!」
声をかけられた従業員さんが、事情を説明しようとしているが、動揺しすぎて何の説明も出来ていない。
いつまでたっても状況が説明出来そうに無いので、私から説明をする。
「運ぶものが多く、大変そうなので、私の『時空間魔法』で運びましょうかと提案していたのですわ。」
実際【クローゼット】が『時空間魔法』と分類されるのか確認はとっていないが、言い切ってしまう。
他に説明のしようがないし。
「え?『時空間魔法』ですか?・・・どういった魔法でしょうか?」
義父様が首を傾げて聞いてくる。
記憶が戻る前に、何度かお会いした時は全く気付かなかったけど
ウルシュ君は義父様に似ているんですね。
成長したウルシュ君を痩せ型にしたら、義父様だ。
大商会の会長をやって行くには、気苦労が多くて痩せるんだろうか?
そんな事を考えつつ、義父様に視線を向け説明を続ける。
「品質を保ったまま、時間の止まった空間に物を収納する魔法ですわ。ほら、この様に。」
そう言うと鏡台やチェスト、姿見といった物に次々触れて行き【クローゼット】に収納していく。
大広間に残っている商品をすべて収納し終わると、義父様の前に戻って行く。
ポカンとして動かない義父様と、我が家の使用人達。
唯一、普通に反応を返してくれたのは、愛しのウルシュ君ただ一人だった。
「わぁ~。イザベラは凄いねぇ。ところで、その時間が止まっているって言う空間から、どうやって取り出すの?」
パチパチと手を叩き喜んで見せた後、コテンと首を傾げて不思議そうにするウルシュ君の動きの可愛さに、悶えながら、商品を2~3点取り出して見せる。
「この様に、収納と取り出しは自由自在ですわ。」
「わぁ!!商人が一番羨む魔法だねぇ~。大きな荷馬車が無くても商品を運べるから輸送が楽々だよ。」
そんな会話をしていると、ようやくスリープモードから再稼働したらしい我が家の使用人が、大広間から飛び出して行く。
「おおおお奥様ぁっ!!旦那様ぁっ!!一大事に御座いますぅぅぅぅ!!」
使用人の叫びが廊下を駆け抜けて行くのを見送って、視線を前に戻すと
満面の笑みを浮かべた、ウルシュ君親子がこちらを見ていた。
舞台となっている国の名前が、話数によってコロコロ変わっていると言う
致命的なミスに気付き、修正いたしました。
正しい国名はロゼリアル王国です!!ちゃんと設定をメモする事にします~!!
(今までメモしていなかった。)