始めて良いよーーっ!!
「凄いよっ!!流石ウルシュ君っ!!たったあれだけの情報で、そこまで絞り込めるなんてっ!!」
手を握り心の限り誉め讃えると、照れ笑いをしながらウルシュ君は謙遜する。
「そんな事無いよぉ。多分、ゲームでもギースが保護された後に、騎士団や憲兵も同じ事を考えて、捜査したと思うよぉ?」
「いやいや、実際に保護した場所から絞りこんで行くのとは、全然違うよっ!!」
王都周辺の山や森が、どれだけ有ると思っているんだ。
今の話だけで、3ヶ所に絞るって本当に凄いよ。高スペックすぎるよ。
「まぁ、監禁場所の特定は僕に任せて貰うとしてぇ・・・いざとなったときに犯人と戦えるように、戦闘訓練はしておいた方が良いねぇ」
そうだよね、戦闘前に勝敗をつけるだけの下準備をしておくと言っても、いざ戦闘に成ったときに瞬殺されるようじゃ、元も子もないもんね。
「具体的に、私はどんな戦闘訓練をしておいたら良いかな?」
「物理攻撃の練習だねぇ。たぶん話を聞いた感じだと、魔法攻撃は悪手だよぉ。これはあくまで僕の予想だけど、被っている豚の皮は、呪術系のアイテムじゃないかなぁ?かなり高度な呪術具で、中々手に入らない代物だけど」
そう言いながら、ウルシュ君はメモに豚の顔のイラストを落書きする。
丸っこくて可愛い豚だ。
「あれ呪術系のアイテムだったんだ。私はてっきり、カラーズコレクターの頭がおかしくて、趣味で被っているのかと思ってたよ」
「呪術系アイテムっていうのは、あくまで僕の予想だけどねぇ。でも、本当に呪術アイテムだったとしても、豚の頭の皮を被るのは、ちょっと頭おかしいよねぇ。僕だったら被るの嫌だなぁ」
ウルシュ君は豚の頭に人間の身体を描き足す。
可愛い豚の頭に9頭身モデル体型の体を持つキャラクターのイラストが完成した。
顔は可愛いけど、精神的に不安を煽るような、何か不気味な絵だ。
「カラーズコレクターに攻撃が当たらないって言っていたけどぉ、ちゃんと当たってたんじゃないかなぁ?もし豚の頭の皮が、僕の知っている呪術具なら、受けた攻撃魔法の7割を吸収して自分のMPを回復させる物なんだよねぇ。しかも、吸収したMPで放った攻撃は、そのMPの元々の持ち主だった相手に、戻っていくかのように直撃するんだよねぇ」
「そうなのっ?!だから攻撃魔法が当たっている筈なのに全然HP削れないし、広範囲の攻撃魔法をバンバン撃ってるし、直撃してくるんだっ!!倒せない筈だよ・・・」
カラーズコレクターの当たり判定の低さのカラクリに脱力し、テーブルに頭を打ち付けるようにして突っ伏す。
その私の背中をウルシュ君が撫でてくれる。
「ウルシュ君、実はカラーズコレクターへの対抗メンバーが7人中、5人が魔術メインだったんだよ。残りの2人も剣が使えるタイプの魔術師だからね」
「あはは~。そりゃ倒せないよねぇ~。なんでそんな偏ったメンバー編成したのぉ?」
「そもそもゲームの登場人物が魔術学院の生徒だし、カラーズコレクターの広範囲攻撃っていうのが、鬼畜シューティングゲーム並の弾幕で、画面が見えなくなるレベルだったんだよね。接近が出来ないから魔法による遠距離攻撃しか攻撃方法が無かったのよ」
成る程、カラーズコレクターの一番効率の良い倒し方は、魔術師メンバーを補佐に回して、ブライアンに特攻させれば良かったのか。
「よく分からない単語が多くて、話を正しく理解できているか不安だけどぉ、つまり魔法を使わずに遠距離攻撃を仕掛けて、広範囲攻撃をかわしながら接近する練習が必要な相手って事だねぇ」
どんな練習すれば良いだろう?
ウルシュ君と頭をひねっていると、山小屋の戸が開きアリスちゃんが帰って来た。
「ふえぇ。弓矢は爆発しないからつまらないですぅ。ベラちゃん、爆発する弓矢持っていませんかぁ?」
「あ。」
「ふぇ?」
思わずアリスちゃんを指差す私に、アリスちゃんは首をかしげる。
そうだ、アリスちゃんがいたっ!!
攻撃方法は広範囲爆撃が主で、超加速が使いこなせれば素早く動けるし、子供だから的が小さく、こちらからの攻撃が当たりにくい。
「広範囲攻撃」で「接近困難」「速い」「当たりにくい」と、もろに戦闘スタイルが、カラーズコレクターと被っているっ!!
その事に気づいた私は、アリスちゃんに駆け寄り手を握ると、キョトンとしているアリスちゃんに、そのまま交渉を始める。
「私の所持している爆撃アイテムの半分をあげるから、私の戦闘訓練に付き合ってっ!!」
とたんにアリスちゃんの表情が、ぱぁっ!と明るくなった。
「ふえぇぇぇぇ♡本当ですかぁ?!ちなみに半分ってどのくらいですの?!」
ほっぺをほんのりピンク色に染め、テカテカさせたアリスちゃんは、軽くピョンピョンしながら、ちゃっかり量の確認をしてくる。
「王都位の広さなら、更地に出来るくら・・」
「わあっ!!素敵ですわっ!!是非、戦闘訓練のお手伝いをさせて下さいっ!!」
言い終わる前に、被せるようにして返事をしてくるアリスちゃん。
そんなに爆撃アイテムが好きか。
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ウルシュ君が平原に防御壁を張る。
聖属性魔法のシールドと結界系マジックアイテムを組み合わせた、混合型2重構造だ。
戦闘訓練を始めた当初は1時間で壊れていた防御壁だったが、日に日に強固に改良されていき、ウルシュ君いわく、今日の防御壁なら理論上、ドラゴンブレス5発分の攻撃に耐えられるそうだ。
ウルシュ君、簡単に言ってるけど、それ、商人の領域じゃないよ。
「はい。直径10Kmで防御壁、張り終わったよぉ。そっちは準備出来たぁ?」
広い平原のど真ん中に、蔦模様の様な幾何学模様の様な、ドーム型の蒼白い光の檻が出来ている。
その外側から手を振るウルシュ君に、内側から手を振り返す。
「ウルシュ君お疲れ様~。こっちは大丈夫だよ!身体強化も万全だし、防御アイテムもフル装備済み。では!!アリスちゃん、第二王子、始めて良いよーーっ!!」
「はーい。ベラちゃんっ!!それではっ、行っきまっすよ~っ!!」
「・・・・・・いくよー・・」
同じくドームの内側にいるアリスちゃんが遠くで大きく手を降り、第二王子は弓を構える。
はじめの頃はアリスちゃんと二人で行っていた戦闘訓練だったが、そのうち第二王子も参加するようになった。
第二王子を爆撃に巻き込んで死なせるわけにはいかないので、彼はいろんな作用のあるアイテムを、悪趣味な成金みたいにジャラジャラと重ね付けさせられている。
その装備品の中に、ガチャの『SSレア』である『反魂の首飾り』が有る。
コレを付けていると、死亡もしくは即死攻撃を受けても一瞬で完全復活出来る、使い切りアイテムだ。
ゲームだとその効果を聞いても『ふーん。』みたいな反応だけど、現実世界で存在しちゃうと、ちょっと恐ろしいものが有るよね。
ウルシュ君ですらその首飾りを見て、顔を引きつらせていた。
本当にゲームのウルシュ君何者やねん。15歳かそこらで完成させて良い代物じゃないよ。
そのアイテムの効果・作用どころか、所持している事ですら他言しない方が良いと言うウルシュ君の忠告に従い、第二王子には『超凄い治癒アイテム』と言って装備させた。・・・5本。
そう、初日に5本重ね付けで装備させたのだ。
しかし、どういう事か、今は3本しか第二王子の首に残っていない。
いや、本当はどういう事かは分かっている。
第二王子はアリスちゃんの広範囲爆撃に、これまで2回巻き込まれて即死しているのだ。
内容としては、アリスちゃんの爆撃によって、ヒビの入った防御壁を内側から修理しようと走り回っていたウルシュ君が、視界が悪いせいか第二王子とすれ違いざまに衝突し、そのまま第二王子が転倒。
そこに偶然アリスちゃんの爆撃弾が第二王子に直撃し即死。『反魂の首飾り』が発動される、というのが1回。
ちなみにウルシュ君は無傷。その日から内側からの防御壁の補修を禁止した。
もう一つは、ジャラジャラと付けさせた物理攻撃耐性のアイテムが、爆撃弾の流れ弾によって、ことごとく破壊されて無くなり、とうとう爆撃弾の衝撃波に巻き込まれ吹っ飛び、全身を強く打って即死。『反魂の首飾り』が発動される、と言うのが1回。合計2回。
念には念を入れてって言う感じで、保険のつもりで付けさせてたんだけど、まさか、本当に戦闘訓練で第二王子が死ぬとは思わなかった・・・・。それも2回。
流石のアリスちゃんも、第二王子が加わったら控えめに成ると思っていたんだけど、『爆撃狂』の称号はダテじゃ無いわ。
開始直後のアリスちゃんは落ち着いているんだけど、途中からテンション上がって第2王子の居る位置を忘れて爆撃する。
アリスちゃーーーーーん!!君っ!!好きな男の子、2回爆撃してるからねっ!!
ちゃんとアイテムが作動して良かったよっ!!本当にっ!!じゃないと私達3人共王族殺害で極刑だよっ!!
チートアイテム様様!!私、今回本当にチート転生で良かったって思えた。【クローゼット】有難うっ!!
でも、一度死亡して復活する際に、第二王子のステータスが爆上がりするから、ある意味アリスちゃん自分の首を絞めているのよね。
そして、レベルが爆上がりし、爆撃に慣れた今の第二王子、結構厄介だったりする。
爆撃と飛び散る石礫、舞い上がる粉塵などをアクロバティックな宙返りで軽々と回避しながら、スナイパーの様に確実に狙って矢を放って来る。
2M近くの高さを軽々宙返りしながら、矢を放つ王子(6)って何だ。出て来るゲーム間違えてるだろ。
しかも矢に風魔法を乗せているのか、どんなに逃げても避けても、追尾ミサイルの様に追って来るんだ。矢が。
第二王子、大罪王スキルの操作訓練の為に弓矢を習い始めたっていう、本来の目的忘れて無い?
弓矢自体をそんなに極めてどうする。どこへ向かっているんだ、君は。
そんなこんなで戦闘訓練により、意図せぬ形で4人全員がレベルとステータスを爆上げして、3週間。
明日には一度、王都に帰らなければいけないと言う事で、今回の山小屋合宿最後の戦闘訓練が始まりました。
第2王子を迎えに来ている、護衛の近衛騎士と騎士達と・・・王妃達に見守られて。
第二王子が、予定とは違う方向に進化していく。本当にどこへ向かっているんだ、君は。
しばらくは、毎週月曜日の0時に投稿する予定。投稿したい。
次回は6月12日の月曜0時更新・・・・出来たら良いなぁ。