まさか、第二王子の?
「・・・・・えーと。ボクのお母様は・・・冒険者?・・・。お母様は王妃なのに?・・・・」
第二王子は、無表情、半目のまま首をかしげる。
確かに、王妃が冒険者っていうのは、不思議だよね。
実家が伯爵家って事なので、独身の頃だとしても、冒険者に成るのは難しい。伯爵令嬢なんだから。
その辺の説明は私から出来ないので、ウルシュ君の方を見る。
話を振ってきたと言うことは、ウルシュ君はその事について、何か知っているんじゃない?
私の視線を受けて、ウルシュ君は、ふにゃっと笑うと、頷いた。
やはり知っているらしく、説明をしてくれるらしい。
「王妃の実家が、ランバート伯爵家って言うことは知ってるかなぁ?そのランバート伯爵家の領地についても。」
いや、領地については分かんないです。王妃の実家が伯爵家だっていうのも、鑑定で知ったわけだし。
代わりにその質問に答えてくれたのは、王子だった。
「・・・・この国最大のダンジョンがある土地だよね。・・・・お祖父様のランバート伯爵は、その地を領地としていて、ダンジョン都市を管理している・・・んじゃなかったかな?・・・」
へー。王妃の実家にはダンジョンが在るのか。
この国最大って言う事は、他にも在るって言う事かな?
今度調べてみよう。
「だけど、それがどう王妃と繋がるの?」
例え領地にダンジョンが在るからと言って、伯爵令嬢がソコに入る許可は勿論、冒険者に成るのも、なかなか認めて貰えなさそうだけど。
アリスちゃんも同じように感じたのか、何度も頷いていた。
「ソレはねぇ。魔物が大量発生して溢れてくる、モンスターテンペストって言うのが有るんだけど、歴史的にランバート領のダンジョンはソレが多くてねぇ。溢れてきた魔物達が他所に出ないよう食い止める役割を、ランバート伯爵家とそこに連なる5家が担っているんだぁ。前線で正面切って戦うらしいよぉランバート家。」
「つまり王妃も、王家に嫁入りする前は、ランバート家の人間として魔物とソレなりに戦えるように、鍛えられてきたって事?」
いざという時は、令嬢であっても魔物退治に駆り出すつもりでいるって言う事?
カッケェな、ランバート家。
「そうだよぉ、ランバート家とそこに連なる5家に生まれて来た子供達は、男女関係なく、物心ついた頃にはダンジョン都市の別宅に移されるんだよぉ。5歳で冒険者の準登録が出来る様に成ると、ダンジョンの一階層で薬草とかの素材採取をしたりして、8歳に成る頃にはダンジョン内に月単位で放り込まれるんだぁ~。一応、護衛は付くけど、半数が成人前に脱落するらしいよぉ~」
どういう脱落の仕方なのかは怖くて聞けないけど、王妃の実家が、戦闘方面で、異常なまでにスパルタだって言う事は理解出来たわ。
児童福祉法が来い。ある意味虐待だよそれ。
「ふぇぇ・・・どうしてそこまでしないと、いけないんですの~?」
ランバート家の実家のスパルタ具合には
ワームを殲滅するアリスちゃんですら、引いている。
「あそこのダンジョンは、特殊でねぇ~。この大陸で唯一、一階層の迷宮が地上に露出しているんだぁ~。だから魔物がダンジョンから出て来やすくてねぇ、ダンジョンを高い防壁とシールドで囲っているんだよねぇ。」
一階層が地上に露出しているって、どういう事だろう?
想像が付かなくて困惑していると、それが表情に出ていたのだろう。
ウルシュ君はダンジョンについて補足してくれる。
「え~とねぇ。普通のダンジョンは、洞窟みたいな入り口から始まっている事が多くて、地下と言うか、地中に一階層が在るんだけどぉ、ランバート伯爵領のダンジョンは、地上がクレーター状に凹んでいて、そこが一階層として始まっているんだぁ、ちなみに迷宮型と言うか、迷いやすい森と遺跡みたいな感じ。屋根と言うか、天井が無いから、他のダンジョンと比べて魔物が領地に出てくるわけ~。」
ソレって大変な事なんじゃないの?
その領地に住んでいる人は、魔物の危険と隣り合わせな生活しているって言うことだよね。
「おかげで、領民も何だか強い地域でねぇ・・・・ランバート領の兵士はこの国でも特に強いよぉ~。反乱を起こされたら、下手すると国が終わるレベルで強いから、王家としてはランバート家と繋ぎを作りたかったわけ。それが、現国王と王妃の婚姻に繋がっているんだぁ。王妃は冒険者続けたくて、王家に嫁ぐの、最初は嫌がっていたみたいだよぉ~。」
領民も環境に鍛えられてんのか・・・。
そして、やっぱり王家や貴族の婚姻には、そういう思惑とかがいろいろ絡むわけね。
「ほぇ~。でも、今は国王陛下と王妃様は仲睦まじいですよねぇ?」
「うん。国王陛下は・・・・こう言うと不敬かも知れないけどぉ、変わり者だからねぇ・・・。王妃が冒険者活動を続けるのを許可してるみたいだしぃ、最近は王国騎士もランバート方式の鍛え方しているみたいで、新兵をダンジョンに放り込んでいるみたいだしぃ・・・多分、王妃の考えを陛下が採用したんだろうけど。そんな感じで、気が合ったみたいだよぉ?」
そう言えば、元王女のお母様も、少し変わり者の様な・・・・。
まぁ、政略結婚だとしても、結果的に上手くまとまったのなら良かった。
ただ一つ気になる事が有るとすれば・・・・
「ウルシュ君・・・王妃は、いまだに冒険者やっているの?現役で?」
「そうだよぉ、大々的にはやってないけどねぇ。お忍びって言うか、正体を隠して活動しているよぉ。仮面被って、男装して。変装しているつもりだろうけど、バレバレだよねぇ・・・ランバート家の独特の髪の色で。」
そう。王妃様は美しく珍しい、ピンクゴールドの髪色をしている。
なるほど、あの髪の色はランバート家の特有の物らしい。
ん?そういえば男装で仮面って、どこかで聞いたな。どこだっけ?まぁ良いか。
「だから、第二王子は王妃様に、騎士団に入るまでの指導を受けるのかと思っていたんだぁ~。」
成る程、確かに騎士団の訓練に一枚噛んでそうな王妃なら、第二王子の訓練もしてくれるんじゃないかな?ランバート家方式で。
それにしてもダンジョンか~。せっかくのファンタジー世界なんだから、ダンジョンにも行ってみたいな
ドラゴンも見てみたいし、スライムやワーム以外のモンスターも見てみたい。
よし、ウルシュ君を誘おう。
「ウルシュ君。いつかダンジョンデートしようよ。」
「良いよぉ。何か良いアイテム素材が見つかるかなぁ?」
「ダンジョンでしか食べられないような、ダンジョングルメとかあれば良いねっ!!」
ウルシュ君とダンジョンデートの計画を立てていると、マーキスさんとポールさんが帰ってきた。
「戻ったぞ~。おい、イザベラお嬢様よ、あのワームの量は流石に無理だ。捌ききれねぇから、ほとんど燃やしてきたぞ。ほれ、取り損ねてた魔石だ。」
マーキスさんは帰ってくるなり、まくし立てて、魔石の入った袋を投げて寄越す。
私とアリスちゃんもワームの量に途中で嫌になって、魔石の回収を諦めたのだけど・・・
そうか、燃やせば良かったのか。
マーキスさんに魔石のお礼を言っていると、ポールさんが近づいて来る。
「ウルシュ坊っちゃん・・・もしよければ、治癒をお願いできませんか?」
「ポールの?良いよぉ。怪我?どうしたのぉ?」
ポールさんは右胸を押さえている・・
あ、そういえば私、ポールさんを蹴り飛ばしたわ。30M位・・・
「うわぁっ!!そうだった!ポールさん御免なさいっ!!大丈夫だった?!いや、大丈夫じゃないから治癒が必要なのかっ!!どうなったの?」
ポールさんは苦笑いを浮かべながら、手を振る。
「いえ、咄嗟に受け身をとったので、心配する程では無いですよ。あのままだったら、ワームに丸飲みされていたので、助かりました。有り難うございます。」
「ん?イザベラ、ポールと何かあったのぉ?」
不思議そうにしているウルシュ君に、ポールさんを蹴り飛ばした時の経緯を説明する。
「イザベラ、ポールさんは戦闘要員じゃないけど、咄嗟に護身が出来る人で良かったねぇ。普通の人なら多分、怪我じゃ済まないから。」
「本当に申し訳無いです。」
ポールさんへの治癒魔法は、私が責任もってかけさせて貰いました。
ポールさんはアバラが4本逝ってたよ。ポールさん本当にゴメン。
治療が終わる頃、ポールさんが急に思い出したように、聞いてきた。
「そういえばイザベラお嬢様、昨日、城壁の内側から外に向かって馬車を投げたり・・・しました?」
「へ?したけど・・何で?」
返事を返すと、ポールさんは、やっぱり話に出て来ていた令嬢は、イザベラお嬢様だったかと、頭を抱えガックリしていた。
昨日の馬車投げの件と言えば、第二王子を誘拐したときの事だよね?
誘拐といっても、王妃様協力の元だから、ある意味お忍び外出?
気を取り直したポールさんは、顔を上げて話し始めた。
「先程、スネイブル商会の奥様から、連絡が有ったんですけど、昨日の王宮のお茶会で誘拐事件が有ったそうなんですよ。それで、ひと騒動有ったそうで、」
「まさか、第二王子の?」
思わずポールさんの言葉に被せる様に質問してしまったが、今はそれどころじゃない!!
なんてこったい!!第二王子の誘拐は王妃様の協力を得ていたし、王妃様が後は誤魔化してくれるって言っていたから、安心していたけど・・・・馬車を投げた事で目立ってしまったか?!
そう言えば、近衛騎士の人に呼び止められて、袋詰めに成った王子を見られているし・・・・
やばい、どうしよう。王族誘拐って大犯罪だよっ!!
だが、私の内心の焦りを他所に、ポールさんの返事は予想外の物だった。
「へ?いや、誘拐されたのは魔術師団長のご子息の、ギース様です。お茶会の途中から姿が見えなくなっていたそうです。でも落ち着いて下さいね?大丈夫ですから。それで、馬車の件なんですけど・・・」
魔術師団長子息のギース?
彼なら、お茶会の途中で、図鑑片手にどこか行ってたよ?
ん?そう言えば・・・・いつまでたっても帰って来なかったような・・・
もうすぐ一章が終わります。
感想欄でご質問いただきました。
Q:なんでステータスの身分に、イザベラは公爵令嬢があるのに、アマリリスちゃんは侯爵令嬢ってないの?
A:うっかりしてたーーーーーーっ!!ここ、もうすぐ重要に成る所だったのにっ!!ご質問・ご指摘、有難う御座います!!本当にっ!!
アマリリスちゃんと第二王子のステータスの身分を、慌てて修正を行いました。
(連鎖で、第二王子のステータスのミスにも気づいた。)
ふぉーーー!!変換ミスや打ち間違え乱立っ!!
ご指摘有難うございましたっ!!