えっ?って・・・
山小屋に沈黙が下りる。
アリスちゃんは硬直しているし、ウルシュ君は苦笑いで黙っているし、第二王子は言うだけ言ったら押し黙るし。
とりあえず、もう少し詳しく話を聞こう。
「え~と・・・・何故、正義の騎士に?それと”正義の騎士”とは?」
少しだけ考える素振りを見せた第二王子は、ぽつぽつと語り始めた。
「・・・・・ずっと幻聴だって言われてたんだ・・・」
日中は、音の奔流に飲まれ、何一つ聞き取る事が出来ない。
だけどその音の奔流は、日が落ちて行くと、少しずつ落ち着いて来て、聞こえているのは、人の声だと分かる。
そして、人が寝静まると、さらに声は減り、一つ一つの声を聞き取れる様に成った。
「・・・・・”助けてっ”て言うんだ・・・・」
自分と同じ子供の声だったり、女の人の声だったり。
「・・・・・楽しい声も有るけれど、夜遅くの声はだいたい、泣いてたり、苦しんでいたり・・・・・」
『ここから出たい』『なんで、この子だけ・・・』『痛い・・・痛い・・・』『お母さん、どこに居るの?』
『誰か助けて・・・』『お腹空いた』『寒い』『もう逃げたい』『苦しいよぅ』
「・・・だから、何度も護衛に、お願いに行ったんだ。誰かが”助けて”って言ってるから、助けに行ってあげてって・・・・」
ずっと聞こえ続ける、沢山の助けを求める声。
だけど、他の皆は聞こえないと言う。
何度、護衛や従者に訴えても、気のせいだと言う。幻聴だと言う。
「・・・・・だから、ボクも、ソウなのかな、幻聴なのかなって・・・・」
皆が言う様に、自分が変なのかもしれない。
自分が、その声について話すと、周りの皆は悲しそうな顔をする。
だから聞かない様にした。意識を遠くに向けて、声を聞かずに済む様に。
「・・・・・・でも、今日、声が聞こえるのは、スキルの能力だって事が分かったんだ・・・・」
ボクは、おかしくなんてなかった。
あの声は、ボクにしか聞こえないけど、本物だった。
「・・・・・幻聴じゃないなら、本当に、どこかに助けを求めている人が、居るって言う事でしょ?」
でも、他の皆は気付かない。
「・・・・ボクにしか聞こえて無いなら、ボクが助けに行ってあげなくちゃ。」
「と、言う事らしいんだよねぇ~。自分もその”声”で、長年、眠れない位苦しんでいたのに、助けに行ってあげたいんだってぇ。」
「・・・・国中の人を助けに行けるとは思って無い。せめて王都内だけでも・・・・」
ふおぉぉぉ・・・私には重い話が来たわ。
こういう若干シリアス(?)な流れは苦手なんだ・・・。
だけど、第二王子の主張はよく理解できたから、まさかアリスちゃんのレベルを超えないようにする為に、その夢を諦めろとは言えないし、応援するべきだろう。
アリスちゃんには、正義の騎士を超える”覇者”に成って貰う必要が有るけど・・・。
しかし、第二王子の事情を聞くと、”正義の騎士”を目指すって言う心意気は素晴らしいな。
自分も苦しんでいたけど、それ以上に、他の苦しんでいる人達の為に何とかしたいと言う信念は、メイン攻略者を張るだけ有るんじゃないか。
ふむ。なるほど、助けを呼ぶ、弱き者の心の声に駆けつける、正義のヒーロー。良いんじゃない?
見方を変えれば、もしかすると、その為に備わった能力かもよ『傲慢の耳』。
「良いと思うよ。全ての声を救うのは難しいかも知れないけど、”弱者の叫び有る所に、第二王子見参!!”って広まれば、多少の犯罪抑止力に成ると思うし。」
ただ、邪魔に思う奴らが、常に命狙うだろうから、返り討ちに出来るくらいの圧倒的な能力が居るけどね。
「わ、わた、私も、正義の味方をしますぅっ!!」
アリスちゃんが身を乗り出して、高く手を挙げて参加を表明する。
・・・・・待ってっ!!待って、アリスちゃんっ!!
君は街中での戦闘には向かないと思うよっ?!
なんてったって、『爆撃狂』なんだからっ!!
かえって被害が甚大になる可能性が有るからっ!!落ち着いてっ!!
第二王子も、アリスちゃんを巻き込んだら駄目だよっ?!色んな意味でっ!!
「・・・・有難う。仲間が居れば、心強いよ・・・・」
うああああ・・・第二王子。
爆撃狂を、巻き込みやがったっ!!
どっちかって言うと、『爆撃狂』って響きが、正義の味方より、悪役側っぽいっ!!
仲間に爆撃狂が居るだけで、イメージが『ヒーロー』から『ダークヒーロー』へと変わるから、あら不思議。
それに、彼女は『侯爵令嬢』なんだから、あまり無茶させないでぇ・・・・。
だけど、アリスちゃん本人は、殿下の仲間に成れる事に感激している様子で・・・もう何も言えないなぁ。
「ふぇ・・・殿下のお力に成れるのなら嬉しいですぅ。そうだっ!!ベラちゃんも一緒にどうですかぁ?」
誘うなぁぁぁぁっ!!
なんだ、そのキラーパスっ!!
「うぇあ・・・いや・・・ふっ・・その、私は」
うおぉぉぉ・・・・アリスちゃんよぉ・・・
驚きすぎて、あきらかに挙動不審に成っちゃったでしょうがぁ
挙動不審の私を見かねたウルシュ君は、私の代わりにアリスちゃんへとお断りを入れる。
「え~と、イザベラは学院を卒業したらぁ、僕と結婚して、商人として行商に行くんだぁ~。世界中を旅する予定なんだよねぇ。だから王都の平和を守るのは難しいかなぁ?ごめんねぇ?」
有難うウルシュ君。そして卒業後は行商に行くんだね。
世界中のどこまでも、地の果てだって付いて行くよ。
「ふぇ~。世界中を旅するんですねぇ~。凄いです。ベラちゃん、ちゃんとお手紙下さいね?」
「うん。珍しい物とか見つけたら、一緒に送るよっ!!だから、一緒に王都の正義のヒーロー出来なくてごめんね?」
そう謝ると、アリスちゃんは勢いよく横に首を振ると、満面の笑顔を私に向ける。
「いいえ!!よく考えたら、ベラちゃんは王都の中だけに留まるのは勿体無いですぅ。世界中の色々な町や国を自由に駆け回っている方が、ベラちゃんらしいですわぁ。とっても寂しいですが、私は世界中で色々な噂や騒動をたてるベラちゃんが、友達だって事を、王都で誇りに思う事に致しますわぁ!!」
おい、ちょっと待て。
「アリスちゃん。なんで私が、世界中で噂や騒動をたてる事を前提で、話しをしているのかな?」
「ふぇ?だってベラちゃんだもの。」
どんな理由だよっ?!
いやいや、たてないよ?騒動なんて。
私は、ただの商人の妻に成るんだから。
騒動や噂をたてるのは、多分ウルシュ君の方だと思うので、楽しみにしていてね。
ウルシュ君なら、騒動どころか、伝説をたてると思うから。
そんな私達のやり取りを眺めていたウルシュ君は、ふと思いついたように、第二王子に声をかける。
「僕たちの事は置いとくとしてぇ・・・騎士団での訓練は10歳からじゃないと始められないけどぉ、それまでの訓練は誰から受けるのぉ?もしかして、王妃様からぁ?もしそうなら、アマリリス嬢も一緒に参加出来ないかなぁ?」
その質問に第二王子は首をかしげる。
「・・・・・お母様から?・・・・どうして?・・・ボクは剣の先生を付けて貰うつもりだったけど・・・お母様?・・・なんで?・・・・」
その、第二王子の反応に、私も首をかしげる。
「なんでって、王妃様は『A級冒険者』じゃない。」
「「えっ?」」
ん?
第二王子とアリスちゃんが、目を丸くしている。
「えっ?って・・・第二王子からしたらお母様の事だし、アリスちゃんは、お茶会で第二王子を連れ出す説明をする時の、王妃様と私のやり取りを聞いていたでしょ?」
そう言うと、アリスちゃんの眼が泳ぐ。
「ふぇぇ・・・お話が難しくて、よく聞いてませんでしたが、そう言えばベラちゃんが『えーきゅうぼうけんしゃ』とか『とうぞく』とか『くりむぞんぺるそな』とか言っていたのを、聞いたような気がしますぅ。」
そう。あのお茶会で私は王妃に、第二王子の呪いが、本当はスキルの暴走であると説明し、そのスキルを直ぐに制御する訓練をしないと、このままでは本当に心が壊れてしまう、と言う内容の事を訴えた。
しかし過去に、王妃は第二王子の呪いを調べるために、何度も『看破』を行ったが、どんなに高レベルの『看破』でも弾き返されていたので、私の言う第二王子のスキルの存在に半信半疑だった。
そこで私は、王妃自身が『看破』スキルを持っている事を確認し、王妃に私のステータスを『看破』する事を提案した。
もし『看破』が成功したら、『強欲王』のスキルで納得してもらえるし、例え失敗したとしても、第二王子と同じく弾き返す事で、王子と同じ、”特殊なステータス”を持っている事が証明できる。
結果は『看破』は失敗。
それにより、今度は王妃が、第二王子を『看破』出来る様なスキルが有るなら、試しに自分のステータスを読んでみて欲しいと言われた。
その結果の一部がこれ。
《ステータス》
人族:メルセデス・ベガ・ロゼリアル(36) Lv:42
HP:166/166
MP:81/82
身分:
ロゼリアル王国 王妃
ロゼリアル王国 ランバート伯爵家 長女
A級冒険者▽
深紅の役者/パーティー架空の騎士団リーダー
《職業スキル》 *レベル最大:Ⅹ
[盗賊Ⅸ][斥候Ⅷ][剣士Ⅶ][魔術師Ⅵ]
[闘拳士Ⅵ][治癒士Ⅱ][神官Ⅱ]
《特殊スキル》 *レベル最大:Ⅹ
[スキル隠蔽Ⅷ]
・・・・・以下省略。
王妃の実家を修正しました。
誤:ランバート公爵家 正:ランバート伯爵家
30話と34話の伏線やっと回収。
レベルとHPについてですが、現在(仮)状態でお願いします(汗)
と、言うのがですね、計算をミスってました。
計算し直して差し替えると思いますが、今の所はだいたいこの位かな?程度で見ていて下さい。
計算ミスの敗因は、レベル・HPを主人公であるイザベラを中心に計算していた為です。
[強欲]の時点ではそこまで問題無かったんですが、[強欲王」に変わって数値の狂いが目立ちやすくなりました。
冷静に考えたら、”規格外”のイザベラを”基準値”にしてザックリと逆算する計算方式にしたら、そりゃ数値も狂うわって話です。
数字が苦手だから、計算が得意な人に丸投げしたい・・・