・・・ん?なんて?
今回お試しに、読み辛そうな漢字に振り仮名付けてみました。
「別に無くても問題無いよ」って言う声が多かったら、中止する予定。
一通りの家事を終えたところで、平原でポール達と合流する為、身支度を済ませたマーキスは、玄関を出たところで、作業場の方向から歩いて来るウルシュの姿に気付いた。
「ウルシュ坊っ!!・・・・何故ここに居るんだ!?」
声をかけたマーキスに、ウルシュは、のほほんとした笑顔を返す。
「作業場に、完成したアイテムを置いて来ちゃったんだぁ~。第二王子が起きる前に装備させとかないと、意味ないでしょ~?」
確かにそうかも知れないが、マーキスが聞きたかったのはそんな事では無い。
ウルシュは婚約者のイザベラ嬢に、麻酔針で刺されて眠った筈だ。
やり方は強引だったが、普段から寝食を忘れてマジックアイテムの開発に勤しむ坊ちゃんには、皆が心配していたので、イザベラ嬢の行動には感謝していた。
それなのに何故ここに居る?
「坊、休息は取らなくて良いのか?って言うかいつ起きた?」
「イザベラ達が平原に着く位までは、ちゃんとベッドに居たよぉ?」
どういう事だ?もしや、イザベラ嬢に奪われる事を見越して、麻酔針を偽物と入れ替えていたのか?
そんな疑問が表情に出ていたのか、ウルシュは続けて種明かしをする。
「流石に、麻酔針を奪い取られるとは思ってなかったから、何の対策も取って無くて、刺された時は一瞬昏倒したけどねぇ~。僕『全状態異常耐性』持ってるんだぁ~。その中の『毒”耐性”』スキルが、イザベラが麻酔針で刺したお蔭で、めでたく『毒”無効”』スキルに進化したんだよぉ。これでやっと『全状態異常”耐性”』が『全状態異常”無効”』へと進化する事ができたよぉ~。ついでにレベルも上がったから良い事尽くめだね~。」
ウルシュのネタ晴らしを黙って聞いていたマーキスだったが、ふと我に返る。
「坊、何で自分のスキルが進化した事や、レベルアップが分かったんだ?」
自分で自分のステータスを見る事は出来ない筈。
それどころか、ウルシュは『看破』スキルを弾いてしまう為、今までどんなスキルを持っているのか、不明だった。
そんなマーキスの疑問に、ウルシュは自分の人差し指につけた指輪を見せる。
「これ、僕が新しく創ったマジックアイテムだよぉ。コレで自分のスキルの確認を、わざわざ『看破』して貰わなくても分かるように成るんだぁ~。まだ数は出来て無いから、市場に出るにはもう少しかかるけどねぇ。」
マジックアイテムには魔石が必須で、装備系のアイテムには宝石の様に魔石が飾られているが、その指輪は、金属やその他の素材を一切使わず、魔石その物を輪に加工した指輪だった。
魔石を綺麗にリング状に加工するだけでも技術が要るのに、更に細かく高度の魔術付与の術式が彫り込んであり、指輪の内部で光が蠢いているのが肉眼でも確認できる。
本当は、そんな指輪など無くても、既にウルシュは自身のステータスを確認する魔法を編み出していたが、その魔法と、イザベラの【ステータスチェック】スキルの存在を隠す為に、わざわざ同じような効果を持つアイテムを創り出したのだった。
これでイザベラが、うっかり人前で【ステータスチェック】をしても、このアイテムを使っているからと誤魔化す事が出来る。
他の人が持たない様な”レアスキル”を持っている事が周囲に知られたら、どんな厄介事に巻き込まれるか想像に難く無い。
全ては”規格外”なイザベラが、何者にも煩わされず、自由に伸び伸びと過ごせるようにするため。
そして、何物にも囚われず、自由に過ごすイザベラの笑顔を、隣で眺め続ける為。
その為の苦労や労力は惜しむつもりは無いし、厭わない。
一方、指輪の開発に至る理由を知らないマーキスは、単純に指輪の効果に感心していた。
「すげぇアイテムだな・・・・。俺も欲しいが、市場に出たところで高価過ぎて、金持ちしか買えねぇんだろ?」
「う~ん。出始めの頃はそうだろうけどぉ・・・。術式の簡略化は既に出来ているから、製作者の育成が済めば手が出せない程では無くなると思うよぉ?」
じゃないと、その高価なアイテムを狙って、イザベラに近づく盗人が現れるかもしれない。
実際にはイザベラには、アイテムは必要ないし、所持していないのだが、周りはそんな事を知らずに狙いを付けるだろう。
出来れば半年以内には、”ステータスチェックの指輪”の大量生産が、可能になる所にまで持って行きたい。
「ところで、マーキス。出掛けるんじゃないのぉ?」
「おぉ~とっ!そうだった!!イザベラお嬢様が、アマリリスお嬢様のレベル上げの為に、一角ウサギ狩りに出たんだよ。見つかれば良いけどな、一角ウサギ。」
その言葉に、ウルシュは首をかしげる。
「あそこの平原でしょ?一角ウサギなら、いつも居るよねぇ?」
だが、マーキスは首を振って、否定した。
「それがよぉ、ここ5日ばかり一角ウサギの姿が見えねぇんだよ。何か一角ウサギが減る原因がねぇか調べるつもりだったんだけどよ、ここんところ忙しくてな。今からお嬢様方の付き添いのついでに、調べようかと思ってたんだ。」
「ふ~ん。ワームの所為だと思うよぉ?」
「・・・ん?なんて?」
「だから、ワームだよぉ。平原の地中にワームが居るんじゃないの?」
この世界にはワームと呼ばれる生き物が2種類存在する。
一つは、足の無い蛇の様なドラゴンで、アジア圏で描かれる竜に似ている。
ワニの様な顔で、地べたを這い、凶暴で炎や猛毒を吐く。
基本的には、ダンジョンの奥深くや、火山地帯に住処を持つため、高位の魔術師や高ランクの冒険者しか遭遇する機会が無い。
もう一つは、農地や平原、砂漠地帯の地中を移動する、ミミズや芋虫を掛け合わせた物や、沼地などの湿地の地中から出現するミミズとヒルを掛け合わせたような、巨大で長い魔物全般を指す。
これらは、人里近い場所にも出現する為、一般人も目撃する機会がある。
ウルシュが言ったのは後者の方だ。
ワームは地中を移動し、時々地上に出ては、そこに居る生き物を飲み込み捕食していく。
農場の牛や馬、そして平原の一角ウサギや羊、中には巨大猪すら一飲みにする巨体もいる。
確かに、一角ウサギが見えなくなった原因として、無い話では無い。
一角ウサギは危機察知能力が強く、逃げるのも早い為、自分達を捕食するワームが地中に住み着けば、あっという間に逃げ出して、居なくなるのも不思議ではない。
だが、調査をしてみないと、実際の所は分からない。
ワームは地中から出て来るとはいえ、出てきた穴を綺麗に塞いで潜って行くので、平原に住み着いているのか、その土地を見て一目で分かる様な物では無いのだ。
それに、ウルシュ達が来たのは昨夜遅くだ。平原の様子が見えていたとは思えない。
「なんでワームが居ると、そう思ったんだ?」
「最近の天候や気温と、ココより南の地域の目撃証言かなぁ。ここ数日、商業ギルドに、移動中の商隊や行商人から、ワームの目撃報告が寄せられるように成ったんだよねぇ~。最近温かくなって来たから、この辺にまで来たのかも~。あと2週間もすれば、冒険者ギルドに討伐依頼が入るかもね~。」
おっとりと話すウルシュとは反対に、焦燥感をあらわにしたマーキスは平原に向かって駆けだした。
本当に平原にワームが居るなら、小柄な少女2人は危ない。
大型犬サイズの一角ウサギを丸呑みするワームだ。
6歳児の少女2人なんて、あっという間に丸呑みにされてしまう。
一緒にポールが付き添っているが、少女2人を守りながらワームを相手にするのは、彼には荷が重い。
「嬢ちゃん達、無事でいてくれよ・・・。」
山道を駆け下りて行くマーキスの背中を見送ったウルシュは、山小屋に向かって歩き出す。
スキル封じの腕輪を片手に、微笑みを浮かべる。
「さて、そろそろ第二王子から『傲慢』のレシピを貰っちゃお~と。」
ワームの画像検索は、しちゃ駄目。絶対。(とくに虫嫌いの女の子)