あ・・・。これは世に言う、チート系の転生だわ。
まだ混乱覚めやらぬ大広間で、ウルシュ君と立ち尽くす。
「イザベラのお父さん、倒れちゃったねぇ。頭を打っていたみたいだけど、大丈夫かなぁ・・・」
ウルシュ君は眉を八の字に下げ、お父様が引きずられる様にして運び出されて行った、扉の方に視線を向ける。
お父様は身長2M超え、体重100Kg超えの大男だ。
太っているのではなく、筋肉の塊。
公爵や宰相として書類仕事に追われているよりも、アクス(斧)系武器やハンマー(鎚)系武器を持って、戦場の前線を駆け抜けている方が似合うと思う。
そんな体型なので、倒れた時の音と衝撃は大きく、さらに使用人達が数人がかりでも持ち上げられず、引き摺って行く羽目になった。
そんな見た目のお父様なので、まさか娘の一言で倒れる程のショックを受けるとは、誰が予想するだろう。
少なくとも、私は予想できなかった。
きっと直ぐには賛成して貰えないだろうと思い、説得するためのプランを練っていたのだが、それどころでは無さそうだ。
こんな状態だと自分に出来る事は無い為、心配した様子のウルシュ君を安心させる事を優先させる。
え?お父様の様子を見に行けって?
それは後回しでいいよ。うん。後回しで。
「お父様の事でしたら大丈夫ですわ。ご覧になった通り、丈夫な体を持ったお父様ですもの。倒れて頭を打つくらい、たいしたダメージでは有りませんわ。」
「身体にダメージは無くても、心にダメージを受けてるんじゃ無いかなぁ・・・。」
「うっ!かも・・・しれませんわね。心配をお掛けして申し訳無いですわ。」
「心配はするよ。イザベラのお父さんだもん。結婚を認めて貰わなくちゃいけないんだし。」
ウルシュ君!!私との結婚に乗り気なんだねっ!!嬉しいよっ!!
「も、もしもですけど・・・。もしお父様のお許しが貰えなかった時は・・・。」
「2人で逃げちゃおうねぇ~。すぐには無理だけど、自分達で生活できるようになったら、王都から出て行こうか。それまでにイザベラを養っていけるように成っておくよ~。」
あぁ、さっき言っていた「逃げる?」って質問は本気だったんですね!!
ウルシュ君と暮らせるなら、貧しくても平気ですよ!
ゲーム通りに進んで居たら、処刑か中年男の後妻なのを考えたら、ウルシュ君との逃避行なんてパラダイスじゃないか!!
ゲームだと私もウルシュ君も魔術学院に通っていた事を考えると、2人共魔法が使えるはずだから、逃避行生活も何とかなるんじゃない?
「でしたら、2人で行商をいたしましょうっ!!」
「わぁ、それは良いねぇ。じゃぁ、今日から父さんのお店でお手伝いして、お小遣いを貯めておくよ。始めは小さな荷馬車からに成るけど良いかなぁ?」
「もちろんですわっ!!やはり始めは薬草や香辛料からかしら?今から薬草についての勉強を始めますわね!!」
どんなゲームでも、初めのクエストは薬草採取から始まるからねっ!!
『ラブ☆マジカル』でのミニゲームでも、薬草やキノコの採取があったから、需要は有るんだと思う。
「薬草については、僕に任せて~。調合も出来ると思うよ。」
ふふふ・・・、と笑いながら頼りになりそうな発言をするウルシュ君。
さすが商人の息子なだけあって、詳しいんですね。素敵!!
でも”出来ると思うよ。”って、なんだろう?
方法は知っているけど、実際にはした事が無いっていう事かな?
良く分からないけど、ゲームでは回復薬とか売ってたから、問題は無いんだと思うんだけど
なんか含みのある言い方だったわね。
・・・・ミステリアスさも兼ね備えたウルシュ君っ!!素敵っ!!
そんなこんなで未来の行商生活計画を立てていると、這うようにして一人の男性が近づいてきた。
「まって・・・待ってくれ2人共、その計画は待ってくれ・・・・。」
あ、この人、さっき崩れ落ちていた、ウチの馴染みのスネイブル商会の会長さんだ。
ん?と、いう事は?
「あれぇ~?どうしたのお父さん。四つん這いで手足をプルプルさせて・・生まれたての小鹿の真似?」
ウルシュ君が首を傾げながら、目の前に這いつくばる男性に声をかける。
そうよね、スネイブル商会の会長さんっていう事は、ウルシュ君のお父様でも有りますよね~。
ちゃんとご挨拶しておかなければ・・・。
「改めまして、こんにちは。私、ロッテンシュタイン公爵家3女の、イザベラ・アリー・ロッテンシュタインと申しますわ。義父様にお会いする事が出来て光栄です」
「え・・義父様・・・、いや、うん。それは置いといてですね、イザベラお嬢様・・・。私はそこに居るウルシュの父、ネイサン・スネイブルと申します。スネイブル商会の商人として、何度かお会いした事がございますね。」
「えぇ、いつも素敵な髪飾りやドレスを作って頂いて、感謝していますわ。」
スネイブル商会は、素敵な生地や素敵なアクセサリーを取り揃えていて、ドレスのデザインも素敵。
製作、納品も早いと貴族女性に評判の商会でもある。
ただ、スネイブル商会をロゼリアル王国でも一二を争う大商会に押し上げている商品は別だ。
スネイブル商会の真髄は、『マジックアイテム』である。
なんでも、錬金術師の才能がある者の育成、雇用に力を入れ、マジックアイテムの工房を沢山持っているとか。
「いえいえ、こちらこそロッテンシュタイン公爵家には贔屓にして頂き、有り難いです。・・・・ところで、そこに居るウチの息子と、少々話したい事が御座いまして・・・お借りしても宜しいですか?」
何の話かな?やっぱり結婚についての話し?
自分のお父様だけ説得できれば良いつもりでいたけれど、よく考えればウルシュ君のご家族の説得も必要だよね。
説得方法を考えておかないと。
「かまいませんわ。ウルシュ君、私は向こうで待っているから、義父様とゆっくりお話ししていらして。」
「分かったぁ。すぐ戻るから待っててねぇ~。」
ほわほわとした空気を撒き散らすように笑い手を振るウルシュ君に、癒されながらその場を離れる。
大広間から外へ出るテラスにスネイブル商会の従業員さん達が集まっているのを見つけ、近づいていく。
もしかしたらウルシュ君の義父様について、何か知る事が出来るかもしれない。
説得をするにはまず、情報収集が大切ですよね~。
「じゃあ、撤収作業に入るぞ~、公爵夫妻が候補に絞っていた10点と、悩んでいた5点は、後日持って来やすい様に第一倉庫、それ以外は第二倉庫へと運んでいく。」
どうやら持って来た商品を全部持ち帰るらしい。
ドレッサーや、鏡台、巨大な姿見といった家具物も多いので、荷馬車に運び込むのも一苦労そうだ。
ちょっとした展示場程の商品数が有るので、何往復になる事やら・・・。
「【クローゼット】が使えればいいのに・・・・。」
【クローゼット】とは、ゲーム『ラブ☆マジカル』における『アイテムボックス』の事だ。
だったら『アイテムボックス』で良いじゃん、と言いたいところだが
女性向けの乙女ゲームらしい演出?なのか【クローゼット】と呼ばれている。
多分、この【クローゼット】は『空間魔法』に分類されるんだろう。
この世界で過ごした6年の間に、そんな魔法が使える人なんて見た事が無いので、ゲームだけの仕様でしょうね。
「【クローゼットオープン】!!なんちゃって☆」
・・・・・・・って・・・え?
え?はぁ?・・いやいやいや・・・・
駄目もとで、もはや、おふざけのつもりで言ってみただけなんですよ。
まさか、あなたが本当に存在とは思わなかったんですよ、【クローゼット】さん。
自分の目の前30Cm程の所に、コマンドの様に現れた半透明の【クローゼット】さんに動揺する。
結構な大きさが有る【クローゼット】さんだが、周りの人達が気が付いている様子は無い。
どうやら私にしか見えて無い様だ。
首を左右に振ると【クローゼット】さんは一緒に移動し、目の前のポジションをキープしている。
・・・・なんで開いたの?ゲームの仕様じゃないの?
そして、生まれて初めて開いたのに、なんでアイテムが詰まっているの?
っていうか、これどうやって操作するの?
タッチパネル式?それとも意思に反応する系?
じっと、現れた【クローゼット】さんを見つめる。
何もない空中で手を動かしている姿は、周りから見たら滑稽だろうと、意思での操作を試みる。
え~と・・・・。中身は分類分けされているのね。
回復系アイテムを開く。よし、開いた。
回復薬系と、装備系、お守り系にまた分類されているわね。
回復薬はポーション類だと思うから・・・装備系を見てみよう。
・・・・・・・・。
あぁ、これ、私が前世でゲームで手に入れたアイテムだわ。
食費を削ってまで課金し続けたそのすべてを、私は転生先に持って来たらしい。
あ・・・。これは世に言う、チート系の転生だわ。
ブクマ、感想有難うございます!
主人公を可愛いと言って下さり有難うございます!!
・・・・・・・可愛いか?
仕事の関係で、更新が途切れる事も有ると思いますが
最低でも月2~3回は更新するつもりですので、よろしくお願い致します。
またもや誤字!!申し訳ないです!!誤字報告有難うございます!!
そしてお父様を素敵だと言って下さり有難うございます!!