お姫様が、王子の呪いを解く旅に出る物語。
アマリリス嬢の視点です
「アリスちゃん、行くわよっ!!ドアを閉めて、どこかに、しっかり掴まってて!!」
「はいっ!!」
ベラちゃんに言われて、慌てて扉を閉めると、私は手すりにシッカリと掴まりました。
ベラちゃんが引っ張る馬車は、馬が引くより跳ねるんですっ!!
さっきも、騎士様たちが停めるまでに、座席の上で絶え間なくバウンドしていたので、お尻が痛いのですっ!!
でも、我慢ですっ!!
今度は私が、大好きなクリストファー殿下を助ける番なのですからっ!!
気合を入れ直した時、馬車が急に傾きました。
「ふえっ?あわわわわ!!馬車が倒れちゃ・・・」
「3・2・1・0!!テイクオフっ!!」
「へ?ベラちゃん何か言っ・・───っぴぃ!!」
馬車が傾いたかと思うと、今度は身体が座席に、押し付けられる様な感覚に襲われました。
背中が椅子に張り付いていて、身体が起こせませんっ!!
なんか、息も苦しい気がしますっ!!
と、思ったら、今度は座席から身体が離れて行きますっ!!
「へ?あれっ?あれっ?身体が浮いてるっ?!」
浮遊感と、浮いて行く身体に慌てていると、視界の端で・・・・
『殿下を詰めた袋』も、座席からユラリと浮いていました
「ふぇぇぇぇぇぇっ!!殿下がぁっ!!殿下がっ!!浮いてるぅっ!!」
大変ですっ!!殿下が袋に入ったまま飛んでいますぅっ!!
それなのに、何故か気品にあふれていますっ!!
凄いですっ!!凄いですっ!!
流石クリストファー殿下ですっ!!
袋に入って浮いている時でさえ、優雅さを忘れていませんっ!!
───って!!そうじゃないですっ!捕まえなきゃっ!!
慌てて手すりから手を離すと、殿下入りの袋を両手で掴む、と・・・・
その瞬間、前の座席に、全身を叩き付けられました
「っぷぎゃぁ!!」
『ぐがっ!!』
さらに、竜巻の中に入ったように、馬車の中で揉みくちゃに成りながら、転がります。
「あばばばばあばば。」
大変ですっ!!出発の段階から大変ですっ!!
ベラちゃんの言う『物語』は、始まりの導入部分から、意味が分からないまま過酷ですっ!!
さっきまで、のんきにお茶会してたのに!!
急に大冒険ですっ!!
大冒険だけど、全く状況が分かりませんっ!!
私いま、どうなっているんですかぁ・・・
そもそも、プロローグから唐突過ぎたのです
そうっ!!ベラちゃんとの、出会いのシーンから既に、唐突だったのですっ!!
「私っ!!クリストファー殿下の妻に成りますっ!私は、クリストファー殿下を、ずっと傍で支え続けますっ!!」
大好きなクリストファー殿下が、大人になったら、塔に閉じ込められちゃう。
そんな事知りませんでした。
でも、私が助ける事が出きるかもしれない。
お茶会の席で、私は決めました。
たとえ、一緒に閉じ込められる事になっても、クリストファー殿下を独りぼっちにはしません。
「ごきげんようっ!!アマリリス様っ!!私と恋バナしませんかっ?!」
「うひゃあっ!!」
考え事をしていたら、急に真横に、金色のモフモフが飛び出してきたので、飛び上がってしまいました。
そして、その衝撃で、持っていたクッキーが発射っ!!
─────・・ぽふんっ。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
・・・・っ!!
はっ!はわわわわっ!!
どどどどどうしようっ!!
く、クッキーが、金色のモフモフの中に入っちゃいましたっ!!
それに、よく見ると、金色のモフモフは、女の子でした。
その女の子は、まるで陶器の様な白い肌に
いたずら好きの子猫を思わせる、少しつり目気味のアーモンド型。
その中に嵌まっているのは、グラデーションがかった、深いブルーの宝石の様な瞳。
そして金色のモフモフ・・・じゃなくて、金色のクリクリ・モフモフした巻き毛。
この・・・私の顔を、鏡の様に映し出しそうな、キラキラと反射する黄金色の髪は・・・
────間違いなく、王家の血筋の方です。
「ふぁぁまぁぅっ!!スミマセン!スミマセン!申し訳有りませんっ!!」
「ふ、ふぁぁまぁぅ?あ、いえ、お気に為さらないで。驚かせてしまって、ご免なさい。クッキーも私の髪が横取りしちゃいましたわね!」
そう言うと、その令嬢は金色のモフモフ・・じゃなくて、
ご自分の髪の中に手を入れると、クッキーを探し始めました。
令嬢が髪の中をゴソゴソかき混ぜるたびに、金色の巻き毛がモフモフと揺れます。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
周りに居た他の令嬢方も、クッキーが頭の中から出て来るのを、真剣に見守っています。
────・・・・中々、クッキーが頭から出て来ません。
「うんっ!見つかりませんわっ!!諦めましょう!!」
「「「「「えっ?!」」」」」
「ひぇっ?!」
えっ?えっ?諦めるんですかっ?!
頭の中にクッキーが入ったままなのにっ?!
「わっわた、私もさがっ探しますぅっ!!」
「大丈夫ですわっ!!直ぐに腐る物では無いですし、”自由に取り出せない非常食”だと思えば良い事ですわっ!!」
──・・凄く自由な発想な方です。
常識に縛られていない、自由気ままな妖精さんみたいな人です。
「ところで、アマリリス様っ!私と恋バナ致しません事?・・あっ!!失礼いたしました。私、ロッテンシュタイン公爵家の3女、イザベラ・アリー・ロッテンシュタインと申しますわっ!!」
イザベラ・アリー・ロッテンシュタイン。って・・・さっき話題に出ていた
小説みたいな大恋愛の末、スネイブル商会の次男さんと婚約した、あのイザベラ様っ?!
そして、第二王子のクリストファー殿下の、従兄妹様っ!!
「はわっ!!わたくしは、ブルネスト侯爵家次女、アマリリス・エリー・ブルネストですわ。」
「アマリリス様、私達、同い年ですの。仲良く致しましょう?」
そう言うと、イザベラ様はニッコリと笑うと、手を差し出してきた。
笑った顔が、とても可愛いです。妖精みたいっ!!
是非、お友達に成りたいですっ!!
喜んで手を握り返しました。
「はいっ。よろしくお願い致しますっ!!」
「では、交友を深めるために、二人で恋バナ致しましょうっ!!」
「え、えっと、”こいばな”って何ですか?」
「恋のお話しの事ですわっ!!」
すると、テーブルの他の令嬢達が、興味津々で、身を乗り出して来ました。
当然です。さっきのイザベラ様の恋愛小説みたいなお話を、本人から詳しく聞けるかもしれないのですからっ!!
でも・・・・
「イザベラ様、私の方からお話し出来る、”こいばな”は御座いませんが、それでもよろしいですか?」
私は、イザベラ様みたいに、物語に成る様な大恋愛はしていません。
私は、イザベラ様にお聞かせできるような、恋物語なんて無いのです。
「いいえ、『物語』ならありますわ。それも今から始まるんですの。」
「い、今から始まるんですか?」
「ええ、ですので、ついて来て下さい。今から、貴女の『物語』がハッピーエンドで終わるように、大事な協力者に力を貸して貰いに行くんですの。」
「協力者・・・・。」
「どんな物語にも助っ人は必須ですわ。魔法使いとか、賢者とか、王様や王妃様。妖精やドラゴンとかっ!!アマリリス様?『物語』は、お好き?」
「───っはい!!」
何でしょう、ドキドキしてきました。
私の『物語』。
そんな物が本当に始まるんでしょうか?
でも、この妖精さんについて行けば、本当にハッピーエンドへと、辿りつけそうな気がしますっ!!
もう一度、差し出された手を握り返します。
今度は握手では無く、繋ぐように。
その後の事は、訳も分からないまま、目まぐるしく進んでいきましたっ!!
イザベラ様と一緒に、まず協力をお願いしたのは、イザベラ様のお母様と、クリストファー殿下のお母様である、王妃様。
そして、私のお母様も。
私のお母様は、始めはとても心配して、涙ぐんでいらしたけど
最後は”アマリリスがそれで本当に、幸せになれると信じているなら”と許して下さいました。
お母様。私は必ず、幸せになります。
絶対にハッピーエンドを手に入れて帰って来ます。
イザベラ様のお母様は、”恋する乙女は、時々思いがけない行動を取ったりする物”と言う、持論を持っているそうで、全面協力をして下さるそうです。
王妃様は、イザベラ様の説得に半信半疑でしたが、
イザベラ様が『えーきゅうぼうけんしゃ』が何とかとか
『くりむぞんぺるそな』とか、『とうぞく』?とか色々な事を言うと、協力して下さる事に成りました。
なんなんでしょう?
妖精の呪文でしょうか?
話がまとまると、直ぐに王妃様は、庭師達が道具を置いてある小屋に、クリストファー殿下の首根っこを捕まえて、運んできました。
まさか王妃様が、殿下を子猫にする様な運搬方法で運ぶとは思いませんでした。
そして王妃様は、庭師達が刈り取った雑草が集められた袋を、ひっくり返して空にすると、その中にクリストファー殿下を詰め込みました。
クリストファー殿下は、されるがままでした。
「ど、どうしましょう。クリストファー殿下が、土で汚れた袋の中にっ!!」
「アマリリス様、確かに、あの袋には土が付いているかもしれませんが、それ以上に夢が詰まっている袋なのです。」
「イザベラ様・・・。夢、ですか?」
「正しく言うなら、殿下が詰まった事で、土の付いた小汚い袋から、夢のある袋へと昇華されたのですわ。」
「殿下が詰まった事で、夢のある袋へ?」
ごめんなさい。イザベラ様、私には良く分かりません。
「そうですね・・・。『王子、詰め放題っ!!』っていう煽り文句を付けてみたらどうでしょうか?」
お・・・王子、詰め放題?・・・ですか?
王子は、クリストファー殿下の事ですわね。
詰め放題。は、何でしょう?
好きなだけ好きな物を、詰めて行って良い感じで、少し心が踊ります。楽しそうです。
大好きなものと、楽しそうなことが合体して・・・・
あ、なんか、夢が有る様な気も・・・・・して来た?かな?
そんな話をしているうちに、王妃様が使用人が使う、一台のシンプルな馬車に、王子が詰まった袋を乗せました。
「あ、あのぉ・・・イザベラ様。どこかに行くんですの?」
恐る恐る、イザベラ様に聞いてみます。
一体何が始まっているのか、全然わかりません。
「アマリリス様、これから私達は一つの『物語』を作る仲間ですわ。私の事は、ベラと呼んで下さいなっ!!」
「えっ!!でも、イザベラ様・・・」
そう言われても、私は侯爵家の娘で、イザベラ様は公爵令嬢です。
馴れ馴れしく、ベラだなんて、しかも呼び捨てる事なんて出来ません。
「身分の事でしたら、お気になさらないで。私はいずれ、商人の妻に成るんですのっ!!その時はアマリリス様の方が、身分が上ですわ。」
「でも、・・・その。」
「でしたら、こうしましょう!!私、アマリリス様の事、今日から”アリスちゃん”と呼ばせて頂きますわっ!!だから、アリスちゃんは私の事を”ベラちゃん”と呼んで下さいっ!!仲間なのですから、それ位近い方が良いですわ。」
仲間。
イザベラ様の言う、今から始まる『物語』の仲間?
どうしよう。とっても嬉しいです。
これを断ると、私の人生の一生の宝物になる物を、手に入れそこなう様な気すらします。
「はいっ!!私がアリスで、イザベラ様がベラちゃん。ですねっ!!」
その後は王妃様が、”クリストファー殿下が体調を崩して、お茶会を途中退席し、後宮の一つで療養する事に成った”事にする為に、走り回っている間に
ベラちゃんと、足止め用の必殺技?を考えました。
なんでもベラちゃんが言うには、私は『魅了スキル』が飛び抜けて高いそうです。
今はまだ、子供なので、発動する事が有りませんでしたが、
大人になって無意識に発動すると大変なので、今から扱い方を練習しておくべきと言う事で
まずは、瞬間的に発動させる練習をする為に、必殺技を作ってみました。
練習は凄く恥ずかしかったけど、直ぐに成功させる事が出来て良かったです。
ちなみに、必殺技を発動させるタイミングの合図は
”萌えキュン”と言う、単語になりました。
妖精の呪文でしょうか?
すべての、準備が整ったところで、出発となりました。
お母様との約束通り、幸せな結果を持って帰れるでしょうか。
少し不安になっていると、ベラちゃんが手を握ってくれました。
「大丈夫ですわ。既に沢山の協力してくれる仲間が居るんですもの。この『物語』は必ず、ハッピーエンドに成りますわ。いえ、必ずハッピーエンドにするんですの。」
「はい。必ず、ハッピーエンドにしてみせますっ!!」
「さぁ!!始めますわっ!!『お姫様が、王子の呪いを解く旅に出る物語』の開幕ですのっ!!」
アマリリス嬢「──・・凄く自由な発想な方です。常識に縛られていない、自由気ままな妖精さんみたいな人です。」
妖精「えっ?!」
────────・・
第二王子の初台詞「ぐがっ!!」