どの位の地位が必要ですの?
ちょっ!!第二王子の母親である、王妃様の主催するお茶会で
”第二王子は狂っている”発言はヤバいんじゃないか?大丈夫なのか?
そして、ほかの令嬢方も、その事を当然のように受け止めていますけど、この状況は良いのか?
例え本当の事だったとしても、不敬罪とか侮辱罪とか何かそんなので、投獄されても文句は言えないレベルの暴言なんですけどっ!!
予想外の情報にオロオロしていると、ポカンとしていたアマリリス嬢が正気に返ったのか、会話に入ってきた。
「”くるっている”って言うのは何ですの?”ゆうへい”と言うのも分かりません。クリストファー殿下に何が有るんですの?」
うん。6歳児は普段”狂っている”とか”幽閉”とかを含んだ会話は、聞かないよね。分かんないよね。
特に良い所のお嬢さんなら尚更。
周囲が耳に入れないように気を付けるよね。
アマリリス嬢の質問に、どう答えて良いのか悩んでいた令嬢達だったが、アマリリス嬢の近くに座っていた年長の令嬢が説明を始めた。
「え~と・・・狂っているというのは、心が病気に成っている状態の事ですわ。幽閉というのは、閉じ込められてしまう事ですのよ。第二王子は心の病気を患っていらっしゃるのですが、その病気が酷くなると、王宮の塔の中に閉じ込められてしまうのです。」
話を引き継ぐように、他の令嬢も口を開く。
「実は、我が国の王家には、物心つく頃から酷い幻聴に悩まされ、心を病んでしまわれる王族の方が、時々現れるのですわ。その方がご存命の間は、他の幻聴に悩まされる王族の方は御生まれになりませんの。」
「第二王子の前は先代国王の妹君でしたの。その方がお亡くなりになった後に生まれてきた第二王子に、その”狂われた血”が引き継がれたのですわ。」
何だそれ・・・。
前世のゲーム情報も含めて、初めて聞いたぞソレ。
・・・・・・・・・いや、待てよ?
なんか、引っかかるような・・・。
うん?そう言えば・・・
確かゲームで、周囲から大反対されていたのにかかわらず、イザベラが第二王子と婚約する事が出来たのは、第二王子に「特殊な事情」が合ったからだった。
その「特殊な事情」とやらが、王家に引き継がれていると言う、”呪われた血”だとしたら?
そうだ、私さっき馬車の中で、クリストファールートの設定について、整理するために思い出していたばかりじゃないかっ!!
その中に、これに当てはまりそうな内容が有ったはずだっ!!
頑張れっ!!もう一度思い出すんだ私っ!!
そう、確かこうだ!!
①第二王子に「特殊な事情」が有る為、国王の指示により、イザベラと婚約するかどうかは、第二王子の判断に任せられる事になった。
②「特殊な事情」っていうのが、本編で詳しく語られてない。
③ 多分、ゲームでの会話や、やり取りで察するに、王子に呪いか何かが有るが、本編で呪いを解くイベントなんて無く、伏線ばかりで結局「特殊な事情」とは何か。の答え合わせが無かった。
こ・・・これか。
ならば、更に細かく思い出そう。
第二王子に”呪いか何か”が有ると、察するに至ったゲーム会話は、誰と誰の会話だったか?
・・・・・。
確か・・・主人公と────
そうっ!!アマリリス嬢だっ!!!
あれは、『ラブ☆マジカル』Ver3の会話だっ!!
私が退場した後の話だったから、情報として深く考えて無かったっ!!
『貴女の様な身分の者では、クリストファー殿下を支える事も、守る事も・・・・殿下を取り巻く悲しい血の牢獄から救い出す事も、そう、何も出来ませんわっ!!平民の貴女は大人しく身を引きなさい。殿下の傍に立つには貴女は相応しくないの。』
『確かに私には、アマリリス様の様に、家格などの強い後ろ盾は有りません。でも、殿下を支えたい、守って行きたいと言う気持ちは強く持っていますっ!!殿下の心を支えるのに、そんなに身分は必要でしょうか?本当に必要なのは・・・身分では無く、どんな時も寄り添い、支え合う覚悟や、強い信頼と言った”心の繋がり”では無いでしょうか?』
『殿下にはそれだけでは駄目なのよっ!!彼を救う為には後ろ盾が必要なのっ!!』
『身分や後ろ盾が、殿下を救うと考えていらっしゃるのですか?殿下の、あんなに追い詰められてしまった心をっ!!身分や後ろ盾が救うと?!それは、違うと思いますっ!!人の心を救えるのは、その人を真に思いやる温かい心だけですっ!!』
『何も知らないくせに、何も分かっていないくせにっ!!分かっている様な事を言わないで頂戴っ!!殿下の心を追い詰める呪いもっ!!殿下が負う事に成る、不自由な人生も・・・”温かい心”だけじゃ、どうにもならないのよっ!!』
『どうにも成らないかどうかは、まだ分かりませんっ!!どんなに辛くて苦しい道のりだったとしても、支え合い、前に進んで行けば、いつかは打ち勝ち、乗り越えられますっ!!それが貴女の言う、どんな呪いや不自由であってもっ!!私は決して諦めませんっ!!』
これ、友人との会話や、ゲームの掲示板でも話題になったんだけど、結局アマリリス嬢の言う
”血の牢獄”とか
”殿下の心を追い詰める呪い”とか
”殿下が負う事に成る不自由”というワードの答えと言った物は、本編に出て来なかったのよねぇ?
掲示板では、アマリリス嬢の言葉通りに、クリストファー殿下が呪われている説と、
”呪い”と言うのは”比喩表現”であって、実際に呪われているのではなく、支配階級の思惑や陰謀の渦巻く世界に苦しんでいて、心が追い詰められている事を指している説に、大きく分かれていたのよね。
ちなみに私は、”本当に呪われている派”だったのよね。
だって、第二王子のキャラデザ・・・王子キャラのクセして、尋常じゃなく目が闇堕ちしてたし。
普通なら、王子キャラって”キラキラ優しい紳士系”か、”俺様系”じゃ無い?
なのに、”闇堕ち系王子”が登場して来たら、一体どんな設定が付いているんだ?って、思うじゃない?
まさか、過去に大切な人の命にかかわる様な事件にでも、巻き込まれたかい?って予想するじゃない?
さらに、フラグ回収したら、ヤンデレ化しそうで警戒するじゃない?
そもそも、主人公が第二王子の心を開かせるポイントに成る設定が
”支配階級の思惑や陰謀の渦巻く世界に苦しんでいて、心が追い詰められている”程度の設定なら
やっぱり”紳士系王子キャラ”でも十分なんだよねぇ?
キラキラしていて優しい紳士な王子は、優しいからこそ、貴族達との腹の探り合いをする日々に疲れているんだよ。で、良いじゃん。
ゲームの脚本的に、メイン攻略者キャラが闇堕ちするには、設定として弱いよね?
だけど結局は、呪いを解く系のイベントも無く、伏線回収と言った答え合わせも無いまま、エンディングを迎えるから、脚本家は一体どうしたかったんだっ?!ってなったのよね~。
「ひっ・・・ひっく。クリしゅとファー殿下ぁ・・・閉じ込められちゃうんですの?・・っうぇぇ・・どうしてぇ?・・ひどいですわぁ。ふぅえぇっぇぇんっぐ・・うっ・・うぇぇぇぇ」
お、ぉおう・・・・
第二王子の事情を知ってしまったアマリリス嬢が、ショックで泣き出してしまった。
ゲームでは妖艶系美女だったけど、幼い頃のアマリリス嬢は、まだ純粋そうで可愛いな。
先輩令嬢達は泣き出してしまったアマリリス嬢を宥めようと、オロオロしてしまっている。
アマリリス嬢はまだ幼女とはいえ、侯爵令嬢と地位が高いので、周りにいた令嬢達は泣かせてしまった事に焦り、皆で口々に慰めているが、一度泣き出した幼女を泣き止ませるには、誰も経験が足りなかった。
慌てた、アマリリス嬢の隣に居た令嬢が、咄嗟に言い放った。
「そっ!!そう!!クリストファー殿下が将来、幽閉されずに済む方法が、無い訳では有りません事よ?」
その言葉に、アマリリス嬢は期待を込めたキラキラした瞳で、その令嬢を見上げる。
「ほっ・・・ほんとぅ?」
「えぇ、本当ですわ。・・・王妃様が、第二王子の後ろ盾に成りそうな、権力を持った家の令嬢と、第二王子を婚約させたがっていると言う話は、ご存知?」
そう言えばそんな話が有ったな。
だから、私とウルシュ君が、王妃を警戒しているのだけど。
「基本的に、心の病を受け継いだ王族の方は結婚せずに、塔の中で、独身のまま生涯を終えるのですが、例外がございますのよ。それが”後ろ盾のある、権力を持った家の者と結婚する事”ですわ。何故なら、伴侶となった、権力を持った家の出身である方を、一緒に幽閉するわけには行きませんもの。」
「クリストファー殿下は、うしろだてがあったり、みぶんの高い人と結婚したら、助かりますの?」
「そうですわ。過去に、そう言った方と結婚できた王族の方は、塔に閉じ込められる事は無く、相手の方の領地や、王家の持つ療養地の邸を与えられて、そこで静養目的という名目で暮らしましたのよ。」
なるほど・・・。塔の中に幽閉されるよりかは、マシと言ったところかな?
そして、少なくとも王妃はそう考えているのか。
王妃が、第二王子と権力の有る令嬢との婚約を狙っているのも
ゲームで、アマリリス嬢が、王子の相手に身分と後ろ盾を求めていたのも、全てこの為だったのか。
でも、ゲームでのクリストファールートの、ハッピーエンドと、トゥルーエンドの後日談も、それなりに幸せそうだったように記憶しているぞ?
そう確か内容は・・・・。
『■■■■と、クリストファー王子は、花に囲まれた、白く美しい塔を夫婦の新居に与えられ、そこで生涯寄り添いあい、暮らしました。』
ほら、幸せそうな────・・って!!・・・とっ、塔?!
ちょっ!!ヒロインっ!!
お前、一緒に幽閉されとるやないかーーいっ!!
あ、あれか?平民だからか?平民だから、一緒に塔にぶち込んでもOKってな判断が下された訳か?
ヒロインっ!!らめぇぇぇぇぇ!!クリストファールートは選んじゃいけないっ!!
折って!!ぶち折って!!クリストファーとのフラグは全て叩き折ってっ!!
そして、私も絶対にクリストファーとの婚約は全力で回避だっ!!
正直、私には第二王子の設定は背負いきれないし、そもそもウルシュ君以外はお呼びで無いっ!!
「クリストファー殿下を、助けるには、どの位の地位が必要ですの?どんな方でしたら、殿下にふさわしいですか?」
アマリリス嬢は期待を込めて、テーブルの皆に質問して来た。
直ぐに、一番年長と思われる令嬢が答える。
「第二王子と年齢の近い方で、王都に近い領地を持つ貴族で、尚且つ殿下を幽閉させずに済む程の家格を考慮すると、公爵家のイザベラ嬢。侯爵家のアマリリス嬢。侯爵家のマリアンヌ嬢。伯爵家のナンシー嬢。ですわね。年齢層を広げたり、王都から離れた辺境の領地の令嬢も含めたら、もう少しいますわ。」
サラッと一番に、私の名前を挙げないでぇぇっ!!!
そして後の二人は、他の攻略者の婚約者候補じゃねぇかっ!!