私達!結婚しますわ!!
目線が、ウルシュ→イザベラ→ロッテンシュタイン公爵 の順で変わっていきます。
僕の母さんは弟を産んだ後、『さんごのひだち』が悪いらしくて、ずっとベッドから出られない。
兄さんは商店を継ぐために、勉強しに小学校に行ってるんだ。
弟は赤ちゃんだから乳母さんが見てる。
僕も10歳になったら小学校に行くらしい。
でも、今はまだ6歳だから家でお留守番。
だから父さんが、僕が一人で寂しいんじゃないかって、商談に連れて行ってくれるんだけど・・・
正直、家か店に残っていた方がマシだと思ってる。
連れて行かれても結局は馬車の中でお留守番だし、馬車の中は退屈。
だけど馬車から出た時に、ウッカリ商談相手の貴族の子供に見つかったりしたら、庶民だからって散々馬鹿にされたり、酷い時には暴力を振るわれたりする。
イジメられ続けて、最近自分の見た目が嫌いにもなって来た。
目が細いから、目が開いてるのかどうか分からないって馬鹿にされるし。
フワフワとまとまりの無い髪も、中に何か住んで居るんじゃないかって揶揄われて、掴まれるし。
もう貴族なんて偉そうだし、意地悪だし、嫌いだ。
そう言って父さんに行きたくないって言えれば良いんだけど、父さんが僕たちの為に、一生懸命に仕事をしている事も、3人兄弟の真ん中で放置されがちの僕を心配している事も知っているから、父さんに心配をかけたくなくて言えずにいる。
今日、父さんに連れられて来たのは、ロッテンシュタイン公爵のお屋敷だった。
敷地が広く、門を通ってからお屋敷まで馬車で10分もかかる。
門の中なのに林と森が有る。あ、小川も流れてる。
これは、もはや『庭』では無いよね。
何でも公爵というのは爵位の中で一番上らしくて、王家の次に偉いらしい。
現ロッテンシュタイン公爵はこの国の『宰相』っていうのをしているそうで、その奥さんのロッテンシュタイン公爵夫人は、今の国王の妹さんなんだって。
その公爵ご夫妻が父さんを呼んだのは、隣国の王太子に嫁いだ長女さんの誕生日プレゼントを贈る為らしい。
王太子って、あれでしょ?次の王様になる予定の人でしょ?
と言う事は、その長女さんは隣国の次期王妃って事だよね?
ロッテンシュタイン公爵家って権力凄くない?
あぁ、嫌だなぁ。
今までの貴族の家よりずっと偉そうで、意地悪な人が居るんだろうなぁ。
絶対に、今日は馬車から出るの止めておこう。
─────って、思っていたんだ。4時間前までは。
・・・・公爵ご夫妻、買い物長いよ。
確かに荷馬車を3台連れてきた時点で長いだろう事は予想していたけど、4時間以上かかるとは思わなかった。
我慢できずに馬車を降りる。
商品の上げ下ろしをしているウチの店員達の、邪魔にならない所でしゃがみ込む。
あ、蟻の行列だ。
餌を巣に運んでいる蟻たちと、商品を持って屋敷と荷馬車を往復している店員の姿が似ていて、少し面白い。
「ねぇ、そこで何を見ていらっしゃるの?」
歌う様な澄んだ綺麗な声。
その声に顔を上げると、今まで見た事も無い位綺麗な女の子が居た。
金貨を溶かして糸にしたような輝く金髪。
青く、深く。それでいて吸い込まれるような透明感のある瞳。
その瞳を華やかに縁取り、飾るような長い金色のまつげ。
白く透き通った陶器のような肌。
妖精?それとも、まだ子供の女神様?
なんで、こんな所に居るんだろう?
なんで、そんなに幸せそうな嬉しそうな、綺麗な笑顔を僕に向けているんだろう。
そういえば、何かを聞かれた気がする。
何だっけ?・・・何を見ているのかって聞かれたよ・・・ね。確か。多分。
「・・・・・蟻?」
あ、疑問形になっちゃった。
この綺麗な子に、自分の見ている物も分からない子だと思われたらどうしよう。
そんな僕の心配を他所に彼女は頬を上気させながら、目をキラキラさせて、嬉しそうな笑顔を深めていく。
一体どんな凄い事があれば人は、こんなに嬉しそうな表情が出来るのだろう。
なんだか見ている僕まで嬉しく、幸せな気分になっていく。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!可愛いっ!!愛しいっ!!私と結婚して下さいませぇぇっ!!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・え。・・・・・・・・・・・何で?
今、彼女は『結婚して下さい』って言った?
誰に?
僕に?
え?僕?
なんで僕?
・・・彼女は、僕には勿体無いんじゃないかなぁ。
考えている間にも、彼女は目をキラキラさせたまま僕を見つめている。
両手で拳を握り、上下にブンブン振って興奮気味だ。
可愛いなぁ・・・・
ずっと傍でこんな彼女を見ていられたら、幸せだろうな。
きっとこれから先、世界中どこを探しても、僕をこんなにもキラキラした目で見てくれる人は、居ないだろなぁ。
笑顔だけで僕をこんなにも幸せな気持ちにしてくれる人は、他に居ないだろなぁ。
うん。そうだね。
僕には勿体無い子だと、分かっている。
きっと、僕と結ばれるような子ではないと分かっている。でも・・・
「いいよ~。大人になったら、お嫁さんに来てね。絶対だよ?」
でも、絶対に逃がさない。
ぃやっほ~い!!何とプロポーズ成功ですよっ!!
わたくし、イザベラはウルシュ君に嫁ぎますっ!!
いやぁ~。前世から、命がけで思い続けてきた甲斐があったよ!!
え?子供の口約束?
そうね。子供の口約束だよね~。ふふふ。
子供の口約束で逃がさへんでぇ~
ニコニコしているウルシュ君の片手をがっつり捕獲したら、いざ参らん!!
突然走り出した私に、素直についてくるウルシュ君。
この子、こんなに無防備で大丈夫かしら?
確か大商人の息子だよね?こんなに無防備だと誘拐とかされちゃうんじゃないの?
少し心配になりチラリとウルシュ君の様子を窺う。
うん。素敵。
「ねぇ、どこに行くの~?」
こちらの視線に気づいたウルシュ君が訊ねてくる。
「私の両親の所ですわ。あ、申し忘れておりました。私、ロッテンシュタイン公爵家、3女のイザベラ・アリー・ロッテンシュタインですわ。これから末永く、よろしくお願い致しますわ」
自己紹介をするとウルシュ君は、息を飲み驚いた表情をする。
ふふっ、驚いていても目が開かない。可愛い。
・・・じゃ無くて。まぁ、驚くよね。
普通公爵家の令嬢は、出会い頭にプロポーズかまさないよね。
「僕は、ウルシュ・スネイブル。スネイブル商会の次男だよ。」
ウルシュ君のファミリーネーム!!キターーーーーーーッ!!
『スネイブル』ですね!!私は将来『イザベラ・アリー・スネイブル』に成ります!!
「でも、公爵家の娘さんなら、僕の所にお嫁に来る事は出来ないんじゃないかなぁ?・・・一緒に逃げる?」
ちょっ!!一緒に逃げてくれるの?!
えっ!!嬉しい・・・・・・じゃ無くてだな。
「大丈夫ですわ。私の予想だと、上手く行くハズですのよ。」
そう。イザベラの家がゲームの設定通りなら、この結婚。ゴリ押しすれば通るはず。
「ですので、私に任せて下さいな!!」
「うん。良く分からないけど、イザベラに何か考えが有るなら任せるよ~。」
ウルシュ君は、フニャリと笑う。可愛い。
そして、イザベラと名前呼び!!幸せすぎるっ!!
この幸せを一生物にするため、全力で頑張る!
ロッテンシュタイン公爵は妻とともに、隣国の王太子妃となった長女への誕生祝に、贈る品物を選んでいた。
生まれ育った国から離れ隣国で暮らす娘が、心細くなった時に慰めになるような、そんな物を贈りたいと考え、集めてもらった商品が、大広間に並べられている。
商品を用意してくれたスネイブル商会の会長から商品説明を受けながら、妻と相談を重ね候補を絞っていた時、大広間の扉が勢いよく開け放たれ、末娘のイザベラが飛び込んで来た。
見知らぬ少年を連れて。
「どうしたんだい?ベラ。それに・・・その子は?」
イザベラは少年の手を引きながら私たちの前まで進み出ると、満面の笑みで大きな声で言い放った。
「お父様、お母様、私達!結婚しますわ!!」