封印措置中かぁ
ウルシュは気が付くと、イザベラが言っていた通り、水の滴る 鍾乳洞に辿り着いていた。正面は先に進めるよう洞窟が続いているが、背面は行き止まりの壁になっており、前に進むしかなさそうだ。
イザベラの説明によると、このまま先へと歩いて行けばドーム状の開けた場所があり、その広場を突っ切ると、向こう側に真なる禁書庫の扉があるという話だった。
念のためにウルシュは鍾乳洞に対し、《絶対鑑定》を発動させた。
おそらくイザベラから聞かされていたものと、同じような結果が出ると思っていたウルシュだったが、予想とは違った結果が表示され首をかしげた。
《虚言王の保管庫と真なる禁書庫に通じる鍾乳洞》
座標ナシ。条件(※)を満たし、制限時間内に異世界文字を解読。それを異世界の言語で唱えると足を踏み入れる事が出来る。
【虚言王】自身が《虚言宣言》を発動した際に廃棄された世界の、【存在した筈の存在しない世界の記録】が保管されている虚言王の保管庫と、虚言王が【魔王の手記】を隠している禁書庫へと通じている。
※条件
・ロゼリアル王国にある、王国立ロゼリアル魔術学院の禁書庫の存在を知っている。
・ロゼリアル魔術学院の敷地内で、輪になって踊ったことがある。
・真なる禁書庫の存在を知っている。
・虚言王の保管庫に記録されている当事者、もしくは対象者である。
・【傲慢王】【強欲王】【嫉妬王】【色欲王】【暴食王】【憤怒王】【怠惰王】のうち、いずれかの【大罪王】の、直系血族もしくは継承血族である。
・上記五つの条件を満たすと見つけられるように成る、学院内の水場にランダムで出現するフェアリーを、周囲に誰も居ない状況で一人で発見する。
制限時間内に異世界文字を解読できない場合、もしくは異世界言語で唱える事が出来なかった場合、フェアリーは去り、再びランダム出現するのを持つ事に成る。
条件を始め二つのみを満たしている場合、虚言王の保管庫に足を踏み入れる事はできず、最終条件の一部が変更される。
鑑定結果を見ながら情報を整えていくと、条件の前二つはイザベラもウルシュも満たしている。
しかし三つめに関しては、イザベラがここに迷い込んだ当時、存在を知っていたのは『学院の禁書庫』であり『真なる禁書庫』では無かったので条件を満たさなかったのだろう。ここまでは明確に理解できる。
問題は四つめからの条件だ。虚言王の保管庫に記録されている当事者、もしくは対象者とは、どういう事なのか。鑑定結果によると『虚言王の保管庫』には、虚言王のスキルによって廃棄された世界の、【存在した筈の存在しない世界の記録】が保管されているらしいのだが、そこにウルシュが記録され保管されている事になる。
ただこれに関しては、実際に保管庫に行って調べれば済む事なので、置いておくことにする。
次に五つめの条件だが、いずれかの【大罪王】の直系血族もしくは継承血族とは、どういう事なのか。
さらには鑑定結果に『【虚言王】自身が《虚言宣言》を発動』という文言が表示されている。
これまでイザベラとウルシュは、【大罪王】をスキルだと認識していたが、それだけでは無いのかもしれない。スキルとして発動できるのでその認識は間違ってはいないのだろうが、スキルとは別の要素が隠れているのかもしれなかった。
『おうさまのかけら』の歌詞の内容と、重要な情報が隠されている、保管庫と禁書庫に入るために唱える『異世界の言葉』。それらを組み合わせながらウルシュは洞窟を真っ直ぐに進んでいく。
考えるほどにウルシュは、この場所に来る直前に浮かんだ可能性が、真実味を帯びて来る気がした。
「う〜ん………思考を固めすぎるのも良くないんだろうけどぉ、やっぱりそうだと思うんだよねぇ………とはいえ、仮にそうだったとしても今の僕とイザベラには、あまり有益な情報では無いから、どうでも良いかなぁ」
そう呟きながら暫く進むと、ウルシュはドーム状に開けた場所に出た。
イザベラはこの場所について、ドーム状で競技場の様に広い場所だが、暗くて何も無かった。と言っていた。だが、ウルシュが辿り着いたその場所には、数千近くの輝くクリスタルがドームの天井付近に浮かびドーム全体を照らしていた。念のため天井付近のクリスタルを確認しておこうと考えたウルシュは、アイテムを使用しクリスタルの近くまで行って確認しようとしたが、どの魔道具も発動しなかった。そこでこの場所でのアイテムは使用不可なのだとウルシュは理解した。
ドームの中央には、人が10人輪になれそうな広さの円形の台があり、その台には透明な石板が浮かんでいた。近づくにつれ、円形の台はサイズ違いを三枚重ねたような階段状になっており、簡単に登れそうだという事が分かる。
ウルシュはクリスタルを確認するのを一旦諦め、台の手前で立ち止まると、ドーム状になったこの空間で、再度《絶対鑑定》を発動させた。
《虚言王の保管庫》
座標ナシ。
【虚言王】自身が《虚言宣言》を発動し、世界の一部の時間軸を《虚言》として廃棄した記憶の中から、【虚言王】と【無能王】により、重要記憶と認定された【存在した筈の存在しない世界の記録】(※1)が保管されている、虚言王の保管庫。
保管期間は《虚言宣言》が自動再発動する最大値を超え、《虚言宣言》の指定範囲時間軸を超えるまで(※2)。もしくは【虚言王】が《虚言宣言》を発動する際に、発動と引き換えに【交渉者】にした依頼を【交渉者】が無事に達成し、【虚言王】自身が《虚言宣言》を解除するまで(※3)。
※1
・《虚言宣言》の指定範囲時間軸の中における、【交渉者】とその関係者、【大罪王】の直系血族および継承血族とその関係者、《虚言宣言》発動期間中における要経過観察者、それらの存在の記憶および記録。その他に【虚言王】【無能王】により、記憶保管が必要と判断された者達の記憶および記録。
※2
・《虚言宣言》の自動再発動は最大100回まで。【交渉者】が誕生した瞬間から【交渉者】が死亡する瞬間までを《虚言宣言》の指定範囲時間軸とする。その際【交渉者】が《虚言宣言》の発動を認識する覚醒時期は、【交渉者】が《虚言宣言》の発動を希望するに至った、様々な要因に深く影響されるため、【交渉者】によって覚醒の時期は異なる。
※3
・【交渉者】が【虚言王】に《虚言宣言》の発動を希望する際、発動と引き換えに【虚言王】からの依頼を引き受けなければならない。依頼を達成できなかった場合、【交渉者】が《虚言宣言》により望みを達成したとしても、《虚言宣言》の自動再発動が発生し、依頼を達成するか自動再発動の最大数100回になるまで、指定範囲時間軸を繰り返さなくてはならない。依頼を達成できた場合のみ【虚言王】は《虚言宣言》を解除する事が可能になる。
鑑定結果を見て、ウルシュは持っていたメモに内容を書き写す。戻った時に果たしてこのメモが残っているか分からないが、残っていても残っていなくても、この空間に対する精査の情報になるだろう。
書き写し終わると、ウルシュは内容を再確認するためメモに目を通す。
「おそらくイザベラが探してるっていう、マリエタ嬢がループする原因が《虚言宣言》だったとしてぇ、この【交渉者】っていうのは間違いなく、ループしているマリエタ嬢だよねぇ。でも話を聞くに、マリエタ嬢自身がこの交渉内容と、【虚言王】からの依頼の内容を忘れちゃっている気がするなぁ」
そう結論付けると、ウルシュはメモを閉じてポケットに入れると、円形の台の上に登り、その中央に浮かぶ透明な石板に目を向ける。
ウルシュが石板の前に立つと、石板に光る文字が浮かび上がった。
『新規の来訪者を確認しました』
『来訪者様が利用者登録を行う場合、身元確認を行います』
『利用者登録のない来訪者様は、保管庫の記憶の閲覧権限がありません』
『利用者登録をされる場合は、石板に両手を乗せて、しばらくお待ちください』
少し悩んだ末、ウルシュは石板に両手を置いてみる事にした。
特に待つ事も無くすぐに身元確認と利用者登録が完了したようで、すぐに表示される文字が切り替わった。
『身元確認および利用者登録が完了しました』
『両手を石板から離してください』
『身元確認の結果および利用者登録情報は以下の内容となります』
利用者登録情報
〇 ウルシュ・ファニ・スネイブル
・【強欲王】ウェルファニシュの継承血族。および直系血族。
・【略奪王】ネイドニッズの管理一族の一つ、蔵匿者の民の直系血族。
・《虚言宣言》指定範囲時間軸の影響対象者。自動再発動100回目時間軸存在。
・別時間軸での利用者登録なし。来訪記録なし。完全新規利用者。
〇利用者:ウルシュ・ファニ・スネイブル の、記憶の一覧は以下の通りです。
▲廃棄世界線 001: ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の末裔/大商人の記憶
▲廃棄世界線 002:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の次男/賢者の 記憶
▲廃棄世界線 003:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の末裔/大賢者の 記憶
※003:危険度/中 精神汚染の可能性があります。閲覧非推奨です。
▲廃棄世界線 004:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の末裔/大賢者の 記憶
※004:危険度/中 精神逸脱の可能性があります。閲覧非推奨です。
▲廃棄世界線 005:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の次男/大商人/賢者の 記憶
※005:危険度/低 精神衰弱の可能性があります。閲覧はオススメしません。
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▲廃棄世界線 097:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の末裔/大賢者/大商人の 記憶
※097:危険度/高+ 精神汚染および精神逸脱の可能性が非常に高いです。閲覧制限されています。
▲廃棄世界線 098:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の末裔/大賢者/大商人の 記憶
※098:危険度/高 精神汚染および精神逸脱の可能性が高いです。閲覧制限されています。
▲廃棄世界線 099:ウルシュ・ファニ・スネイブル _ スネイブル家の末裔/大賢者/大商人の 記憶
※099:危険度/--- 精神汚染および精神逸脱、もしくは精神の上書きの可能性が非常に高いです。閲覧不可。封印措置が行われています。
「わぁ………。最後の記録が099番目っていう事は、今が最後の100回目のループっていう事だねぇ。イザベラに大罪スキルを埋め込んだ世界線の僕の 記憶は封印措置中かぁ。重要な情報が一番取れそうなところなんだけどなぁ………危険度高くて閲覧不可なのは分かるけどぉ。でも上書きされたら困るから封印されてなくても見ないでおくのが正解かなぁ………」