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全速力で駆け付けるから!!

「お静かにの池って、どこ? なんでそこに行くの?」


 私の問いにウルシュ君がマリエタのノートを振りながら言う。


「マリエタ嬢のノートにこの学院の七不思議が書いてあったんだぁ。その一つが『お静かにの池』だよぉ。今は新人戦の真っ最中だからランダム出現の精霊の像を探して、学院中の水場を巡回するのは大変だからねぇ」


 そういえばマリエタが寮に訪ねて来た入学式の日や図書館で、ふんわりとした箇条書き程度の断片的な情報共有をした。その時に『学院の七不思議』が存在するというようなことを、さわりだけ聞いていたような気もする。

 ただマリエタと話すときは、他の人が近くにいるとか、騒ぎの真っ最中だとかで、いつも深い内容まで話が聞けない。

 落ち着いてじっくり情報共有が出来る場を作りたいのだけど、授業が始まったばかりかつ、イベント満載のこの学院で、いつになれば情報共有タイムが作れるのだろう……。


「学院に七不思議があるのは聞いた気がするけど、内容までは知らないのよね。その『お静かにの池』っていうのは、どんな七不思議なの?」


 そう聞くとウルシュ君は、七不思議のページを開いて見せてくれた。


「『お静かにの池』は学院の端の森にある小さな池だよぉ。マリエタ嬢は長いこと七不思議を調べていたらしくてぇ、その時に実際に『お静かにの池』の不思議に遭遇した事があるらしいんだぁ」


 なぜマリエタが七不思議を調べる必要があったのか分からないが、乙女ゲームのミニイベントでも七不思議が出てきていたので、そんな感じかな? と納得する。

 ちなみにゲームの七不思議の内容は、日本の学校とがでもよく聞くような『深夜に音楽室からピアノの音が』みたいな、あるあるな内容だった。『お静かにの池』なんてゲームに出てきて無かったよ?


 初めて聞く七不思議に疑問を持ちながら、ウルシュ君が開いてくれたページを読む。

 


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


  ・ロゼリアル魔術学院の七不思議 3つ目『お静かにの池』✿ 確認済み


   魔術学院の敷地内の南端、騎士学校とは逆側にある森の奥に

   『お静かにの池』と呼ばれる、小さな池があるの

   そこに一人で行くと、タイミングが合えば口元を隠した精霊の像が現れて

   周囲の音を消してしまうという話

   精霊の像が出現している間は、その場を離れられなくなって

   精霊の像が消えると、周囲の音が戻って動けるようになるの

   それは精霊の像が、お散歩中の子供の精霊達が近くを通るタイミングで

   周囲の人間に『子供の精霊が怖がるから動かないでね、騒がないでね』

   と、お願いしているんですって

   それで『お静かにの池』って呼ばれているみたい


   ()()()()()()()()っていうのが気になって、私は何度も調べに行ったの

   ある日の早朝、池の上に精霊の像が現れるところを見る事ができたわ

   その時、私の周囲の音が本当に消えて、あと子供たちの唄が聞こえた気がする

   もしかすると散歩しているという、子供の精霊達の唄声だったのかも

   ただ、この七不思議を見つけたのは、本当にループの初期の頃

   もしかしたら、始めの一回目だったかも……どうだろう

   ううん、ダメ、覚えてない

   やっぱり分からないから、あまり参考にしないで

   どんな唄だったかも、覚えてなくて

   当時、はじめて聞いた唄だった気がする

   ごめんなさい 他の記憶と混ざってるかもしれないわ

   もしかしたら唄なんて聞いてないかもしれない

   だって、『お静かにの池』なのだから、音が消えているはずだもの

   話を戻すわね

   それで私は、精霊の像と話が出来ないかと思って、近づいてみたの

   近づいて声をかけると、池の水面に文字が浮かびあがったんだけど

   残念ながら、私はその文字を読むことができなかったの

   あれは精霊の像の返答だったのかしら?

   もし、そうだったら、なんて答えてくれていたのかな?

   読めずに困っていたら、七不思議の通り時間が来たみたいで

   精霊の像も文字も消えてしまっていたわ


   結局、私が探している七不思議とは関係なさそうだったから

   それからは『お静かにの池』は調べていないわ


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうだ!! マリエタは日本語を知らないじゃんっ!!

 日本語を解読できないから、マリエタが『真なる禁書庫』に行っている可能性は無かったんだ!!

 日本語をある程度理解できる+桜花列島連合国語を知っていれば、こっちの世界の人でも応用すれば解読できるかなっていう感じだから、そもそもあの暗号は、この世界の人向けのモノじゃない!!

 初めから、異世界転生や異世界転移してきた、日本人に向けたギミックだ。もしくは日本語が得意だったり、アニメやゲームに詳しい地球出身の海外の人。

 

 でも、何故? どうしてこの世界に現れるかも分からない、異世界転生者や異世界転移者しか入れないような、禁書庫を作ったの? 誰が、何のために?


 私が前世の記憶を思い出して、『異世界転生者』に()()()のは、大賢者がこの世界のイザベラの魂から、前世の私の魂にまで遡って、『七大罪スキル』を埋め込んだというイレギュラーを起こしたから。

 それが無ければ私は前世の記憶を思い出す事なく、マリエタがこれまでのループで一緒に過ごしたイザベラとして生きていたはず。

 それに前世の私が、偶然にも地球出身の日本人だったって事? 本当に?


 色々な事が頭の中を巡ってグルグルしていると、急に休憩室の扉があけ放され、学科長が飛び込んできた。


「ウルシュ少年とイザベラ嬢!! 今回の新人戦は終わったようだよ! もう片づけをして撤収作業だけだから、外に出るなり帰るなり、自由にしたまえ」


 どうやら情報共有している間に、本日午後の学科授業(?)が終わったようだった。

 本当に休憩室から一歩も出る事なく、新人戦が終わったことで、悪目立ちもせずにすみ、学科移動の危機は無くなったんじゃないかな。


 今回は私やウルシュ君が、水耕栽培の薬草棚を回収したりしていたので、錬金術科の被害や片づけは少ないという事で、制作作業が無い錬金術科の新入生は解散となった。

 先輩達は壊れた魔道具を回収して記録したり、動作確認や修繕個所のチェック作業をするために残るようだ。

 先輩の一部はウルシュ君に作業を手伝って欲しいと懇願してきたが、これまで正式な学科生として授業が始まる前から手伝っていたので、流石に甘えすぎだと別の先輩達に止められ、泣く泣く引き下がっていた。


 地下から地上に出ると、地上部のハリボテの学科棟は屋根が一部消し飛んでいる程度で、大きな被害がなかった。流石に錬金術科の新入生は新人戦で活躍できないので、他の学科も遠慮してくれたのかもしれない。

 と、いうよりも今回の新人戦。ほぼ魔法戦士科と魔術師科の一騎打ち(?)だったようで、その学科棟のある方向から煙が上がっている。

 よく見えないけど、明日には更地になっているんだろうな……と思いつつ、ウルシュ君と寮ではなく南の森に向かって歩く。


「思っていたより時間が経っていたんだねぇ」


 そう言って空を見上げるウルシュ君の視線を追って、同じように空を見上げると、空は明るいオレンジ色とピンクと藍色のグラデーションになっていた。

 ピンクと藍色の空からは、薄っすらと白い星が見えている。


「わぁ、綺麗な空だねウルシュ君。あ、ところで日が暮れちゃうけど、このまま森に行くの?」


「そうだよぉ。マリエタ嬢のメモから『お静かにの池』は、精霊像の出現ポイントだって事が確定しているからねぇ。むやみに探して水場を徘徊するよりも、人が少ない穴場ポイントで待ち伏せている方が確実だと思うんだぁ。それに、これから授業が始まると自由に動けなくなりそうだからねぇ」


 確かに今日の先輩たちの様子を見るに、正式な錬金術科の生徒として活動が始まると、時間外でも拘束されそうな気がする。


「思っていたより遅くなったしぃ、イザベラは寮の門限も有るから帰っていていいよぉ」


「それは駄目。森の中に何が潜んでいるか分からないし、ウルシュ君に何かあったら大変だから、絶対に護衛として傍にいるよ」


「う~ん。防壁にもなる魔道具のテントを持ち歩いてるからぁ、大丈夫だと思うけどなぁ。それに徹夜で池を見張っていても、タイミングが悪かったら出てこない可能性もあるしぃ」


「大丈夫よウルシュ君!! ダイモンお兄様に鍛えられてるし、私のHPなら一ヶ月寝ずに行軍訓練しててもピンピンしてるから!!」


「行軍はしなくていいよぉ。ほらぁ、徹夜になるかもしれないからぁ……」


「? だから徹夜でも問題ないよ?」


「もぉ〜!! 入学早々から令嬢が寮の門限破って帰らずに、一晩中森で婚約者と二人っきりっていうのが駄目だってぇ!」


 あ、そういう事か。


「だったらアンに連絡入れて、私が寮に帰って来ているように見せかけて貰おう!! アンに任せたら問題ないよ! そしたら二人でプチキャンプできるね」


 ただキャンプの間中、私がうっかり一番乗りで精霊像を見ないように、池に背を向けておかないといけないな。なんて事を考えていると、ウルシュ君の方から黒いオーラが漂ってきた。


 恐る恐るウルシュ君を見上げると、真黒なオーラを背負い表情を消したウルシュ君が、少し顎をあげて私を見下(みお)ろしていた。


 私、今、ウルシュ君に見下(みくだ)されている。感情を消した表情で見下(みくだ)されているけど怒っているのは分かる。

 見下(みくだ)すウルシュ君も格好いい。冷徹な悪役、それも幹部っぽくて格好いい。


「イザベラ。寮に戻ろうね?」


 怖い。でも格好いい。


「うっ、でもアンなら上手くごまかせると思う……」


「問題はそこじゃないよイザベラ。寮に戻ろうね?」


「う……ウルシュ君が格好いい」


「イザベラ? 寮に戻ろうね?」


「はい。分かりました……」


「よろしい」


 ────────・・・っっ!?!?!?

 え?! 今ウルシュ君『よろしい』って言った??

 

 ウルシュ君が『よろしい』って言った?!

 ウルシュ君が『よろしい』って言ったっ!!!!

 なにそれ格好いい!!


「イザベラ……どこに(もだ)える要素があったのか分からないけどぉ、ちゃんと寮に戻ってよぉ?」


 そう言ってウルシュ君は、(もだ)えた拍子に私が落としてしまったマリエタのノートを拾って、砂埃を(はら)うと、悶えながら息も絶え絶えな私に手渡す。

 またうっかり落とすといけないので【クローゼット】に収納して、呼吸を落ち着ける。

 ウルシュ君の黒いオーラは、私が戻る事を了承したときには霧散していた。


「ウルシュ君、もしも森で大変な事が起こったらネックレスで直ぐに呼んでね!! 全速で駆け付けるから!!」


「護身用の魔道具とか装具とかあるから大丈夫だよぉ。そもそも森といっても学院の敷地内なんだから心配し過ぎじゃないかなぁ」


 学院の敷地内でも謎の火災が起きたり、原因がいまだに解明出来ていない状況で、心配し過ぎという事は無いと思う。

 でも今日ウルシュ君は、森でのプチキャンプを絶対に許可してくれないという事を察したので、信じて寮に戻る事にする。本当は護衛したいっ!!


 ウルシュ君に深夜であっても、何かあったり、精霊像を見つけて禁書庫から帰ってきた時や、夜が明けて撤収する際には、絶対にネックレスで通信をするという事を約束してもらい、私は泣く泣くウルシュ君と解散して、寮へと戻る。

 

 アンが運んでくれた食事を部屋でモソモソと食べ、入浴を済ませる。

 アンが用意してくれた寝衣には着替えず、いざという時にすぐに駆け付けられるように、動きやすい私服に着替える。

 ウルシュ君が森の中で一人なんて、心配で眠れるわけがないので、当初の予定通りにマリエタのノートを読むことにした。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 連続投稿! イザベラちゃんなみに身もだえしてしまいました。 ありがとうございます!
[良い点] 思春期男子のウルシュ君の嫁がそっち方面鈍感過ぎて手間取ってる感が凄く出ててめっっっちゃ好きです!!!!!! [一言] これからも更新楽しみにお待ちしてまーーーーーす!!!!!!
[良い点] 二人のやりとりが尊すぎる(*˘︶˘*).。.:*♡思春期ウルシュ君とそっち方面鈍感イザベラのやり取りがかわいすぎる!!お互いが好きすぎて、この微妙にすれ違ってる感じが(*´艸`*)本当にも…
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