怒られるじゃん。
ウルシュ君のお宅の応接間にて、目を覚ましたマリーちゃんは、自分の置かれている状況が分からず、プチパニックをおこしていましたが、ウルシュ君に事の顛末を聞かされると、土下座せん勢いで謝って来ました。
「申し訳ございませんっ!お嬢様。個人的な悩みに気を取られて、与えられた仕事をおろそかにしたどころか、私が引き起こした騒ぎに幼いお嬢様を巻き込み、なおかつ、私が人様に与えた損害を負担させてしまうなんてっ!!」
「クビになっても、おかしくないよねぇ。」
ウルシュ君の一言に、マリーちゃんは蒼白だった顔色を、もっと白くさせ、涙目になった。
たしかに、”メイドが屈強な冒険者の獲物に傷をつけて損害を与えて気絶し、6歳の公爵令嬢に冒険者3人への対応をさせて、損害賠償を負担させた上に、気絶したメイドを安全な場所まで担がせた”と言う顛末だけを聞けば、解雇待ったなし、なんだろうけど
語り切れてない要素も色々あるから、マリーちゃんが首になるのは防ぎたい。
だって、まず、その場に公爵令嬢である私が居た事がおかしい。
それに、マリーちゃんが気絶した原因は私にあるよね。
まぁ皆に、私が『威圧』したからマリーちゃんが気絶した、なんて説明した所で、6歳児の威圧ごときで大人が気絶するわけが無いだろうって言われるのがオチだろうけど。
損害賠償については、正直、相手方は納得していないっぽいから、ちゃんと対応出来たとは言えないし。
そして、担いで運んだ件については
私はマリーちゃんが羽のような軽さだったから、負担は全く無かったが
マリーちゃんの足を引きずったり、ぶつけたりしていたみたいで・・・・
マリーちゃんの両足首が、皮下出血で真っ青なうえ、腫れがヤバい。
これ・・・絶対に折れてる・・・・よね?
ぶっちゃけ、私が首を突っ込まない方が、被害が少なかったんじゃないかと思う。
いくらチート能力持っていたとしても、その能力を使う私がポンコツじゃ、碌な事に成らないわ。
さて、色々な事を総合して考えた結果、今回の出来事は、無かった事にするのが一番都合が良いのよね。
家族や屋敷の皆に知られたら、私にとって不都合しか無い。
「マリー、今回の事なのですが、私はその場に居なかった事にして下さらない?」
私のその言葉に、マリーちゃんだけでなく、ウルシュ君まで驚いた顔をして私を見る。
「お嬢様っ、私の名前を知って、あ、いえ、そうでは無くて。それはつまり、どういう事でしょう?」
「えぇ~。流石に街中で揉め事を起こしてるんだから、居なかった事にするのは難しいよぉ?イザベラのお家にウチの下働きの人が、メイドさんを保護してる事を伝えに行ってるから、誰かが迎えに来ると思うしぃ。一緒に居たら事情を聞かれるでしょ?」
「その迎えが来た時に、私はココに居ない事にして下さらないかしら。マリーを保護したのは、ウルシュ君か、”スネイブル商会の誰か”って事にして頂きたいの。」
「なんでそんなに、イザベラがその場に居た事を知られたくないのぉ?」
とにかく居なかった事にしたがる私に、ウルシュ君は首を傾げる。
なんで疑問に思うんだろう?
頭の良いウルシュ君からすれば、分かり切った事だろうに。
「だって私、コッソリ屋敷を脱走して来たんだよ?怒られるじゃん。」
「イザベラがこの人をコッソリ尾行してたのは知ってたけど、家の誰にも言わずに出てきたのは聞いてないよぉ?」
「いや、公爵令嬢の私が、護衛もお供も付けずに一人で歩いている時点で、気付こうよ。誘拐とかの危険が有るから、6歳の令嬢が一人で出歩くなんて事は普通ないよ。」
そう言うと、ウルシュ君はいつもの癒しの笑顔に、黒い空気を乗せた。
なんか、いつもと同じフニャリとした笑顔なのに、”ニヤリ”と形容したくなるのは何故だろう。
「そうだよねぇ?つまり、イザベラは自分でも分かってたんだねぇ?公爵家の幼い令嬢は、護衛やお供が居ないと街中を出歩くのは危険だって。知っていて出て来ちゃったんだぁ?そして、それを僕達に黙っていろって言うんだねぇ?」
しまった。誘導だ。
何の前触れも無く、自分のしでかした事と”その認識の有無”を白状させられているよ、私。
でも、何で急にそんな確認を、
その時、応接間の扉が勢いよく開かれ、屈強な大男2人が飛び込んで来た。
「ベラっ!!お前と言う子はまったくっ!!何て危険な事をっ!!」
「───っっお父様っ?!えっ?!ダイモン兄様も?!なんでココにっ!?」
飛び込んで来たのは、お父様と、次兄のダイモン兄様でした。
うっ!!しかも、絶対に今の会話、聞かれていたよねっ?!
ううううウルシュ君っ!!謀ったのかっ?!
えっ!あ、どどどどうしようっ!
どっどう誤魔化そ・・いやっ何から説明しっだぁぁ!!もうっ!!
パニックに陥った私は────
窓ガラスぶち破って外に逃げた。
「「はぁぁぁぁぁぁっ?!ベラっ!!!」」
「うそでしょっ?!イザベラ!!」
男たちの驚愕の声を背中で聞きながら、私は走る。
あ、ウルシュ君の焦った声、初めて聞いたかも。
その夜中、屋敷の玄関ホールにて正座させられ、お父様とダイモン兄様に2時間ほど怒られました。
令嬢に玄関ホールで正座させるのはどうかと、執事のショーンさんに止められていたけど
ダイモン兄様に”平民の男性ですら、よその家の窓ガラスをぶち破って外に出ない。今のこの子は令嬢として扱えない。”と言う主張に押され、
沢山の使用人達に見守られながらの、玄関ホールでの公開断罪でした。
私的に、婚約破棄の公開断罪イベントよりも、辛い気がする。
なんで、近衛騎士団として王宮で働いている筈のダイモン兄様が、今ここに居るかと言うと
私が予想していたよりも、私の姿が見えない事に屋敷は大騒ぎになっていたそうで
宰相として王宮で仕事をしていたお父様に連絡が入り
その時、最近使用人達が、私を見つけられない・捕まえられないと嘆いていたのを思い出したお父様が
近衛騎士をやっている次男ならば、と一緒に連れて帰って来たらしい。
ダイモン兄様が加わった大捜索の上、私は屋敷に居なかった訳なんだけど。
私が見つからない事にあせっている時
スネイブル家の使用人から、メイドと一緒に保護している事と、そうなった経緯を聞いた瞬間、お父様は崩れ落ちたらしい。
最近、お父様が崩れ落ちる頻度が増えてきている気がする。
ちなみに、公開断罪を受けている現在、夜中の2時です。
逃亡する私をダイモン兄様と、ウチの使用人達だけでは捕獲できずに
ダイモン兄様は非番中だった後輩や部下に、逃げ回る妹の捕獲を手伝って欲しいと頼んだ。
たった6歳の令嬢に、何を大袈裟な、と言いつつ手伝いに来てくれた近衛騎士達だったが
私を全く捕まえられない。
徐々に本気になって行き、更に他の非番中の仲間を応援を呼ぶ近衛騎士達。
増えて行く近衛騎士に、恐怖感が強くなり、本気で逃げる私。
更に知り合いの騎士達を駆り出しての、大捕り物と化した。
追いかけて来る屈強な近衛騎士と騎士達に恐怖がMAXになり、
『立体機動』まで駆使して、必死で町中の建物を駆けのぼり、跳び回って逃げ回る私の捕獲に、
面白がった冒険者の方々が飛び込み参加して
夕方から夜の街中がとんでもない騒ぎになりました。
ちなみに冒険者さんは、私を追いかける派と、逃走を手伝う派に分かれていたせいで、よけいに混乱状態に。
軽いお祭り騒ぎみたいになって、食べ物系の露店の売り上げが、全体的に伸びたらしい。
まぁ、最終的に私を捕まえたのは、ウルシュ君でしたが。
大柄で屈強な男達に追われて、精神的に追い詰められていた私は
癒しの天使スマイルを浮かべて手を振るウルシュ君に、ホイホイされ
ウルシュ君の胸に飛び込んだ所で、ウルシュ君が後ろ手に持っていた鞭で、ウルシュ君ごと縛りつけられました。
流石、ウルシュ君特製のマジックアイテムな鞭。
私の力でも引き千切る事が不可能でした。
なにあの鞭、こわい。
そんなこんなで、その日を境に
ロッテンシュタイン家の末娘のイザベラは
”動きにくい豪華なドレス姿で町中を駆け回り、町中の建物の壁を駆け上がり、建物の間を跳び回る。近衛騎士も騎士も冒険者達すら中々捕獲できない少女。唯一捕獲出来るのは婚約者だけらしい。”と
町中で知らぬ者は居なくなり
近衛騎士団や、騎士団、冒険者達のなかで、随分話題になりました。
うん。ウルシュ君が、皆から”婚約者”だと認識されている。素晴らしい。
ただ、それだけ話題になれば、伝わるよね。
伯父の王様とか、近衛騎士団長とか、騎士団長とか、魔術師団長とか、冒険者ギルドのマスターとか。
興味持たれちゃうよね。
感想有難うございますっ!!
2人を気に入って頂けて嬉しいです。
どう転んでも、イザベラが誰と結婚しても、イザベラがこの状態だと、
ロッテンシュタイン家はどこに向かっているんだ?
ってなちゃうので、どうしようも無いですね(笑)
荷馬車の馬の心配も有難うございます!!
間違いなく、馬が死にますよね。この鞭・・・・
誤字報告有難うございますっ!!本当に助かっています!
何度も確認しているのに、何故か居るんですよねぇ、誤字、余り字。