正しい唄?
これまでのあらすじ
重課金の末の栄養失調で転生したイザベラは、推しキャラのサポートキャラ『ウルシュ君』に出会い、前世を思い出し初対面で求婚。無事婚約する。
前世ゲームで上げ続けたレベルやステータス。重課金アイテムを持った状態でのチート転生をしていたイザベラは、脳筋ゴリラ令嬢として逞しく成長していく。
騎士団や冒険者と王都で鬼ごっこしたり、第二王子のクリストファーを誘拐したり、侯爵令嬢のアマリリスを爆撃狂に進化させたり、連続誘拐犯の「カラーズコレクター」と戦ったりしながら、仲を深めていったイザベラとウルシュは、乙女ゲーム本編の舞台である魔術学院に入学を果たす。
入学式でこの世界をループし続けているヒロインのマリエタと再会できたが、情報共有を果たす前に学院の大火災によってマリエタと引き離される。
無事マリエタが戻ってきたかと思えば、イザベラは真の禁書庫と呼ばれる場所に迷い込み、断片的な情報ばかりを手にして途方にくれる。
現時点で判明しているのは、前世のイザベラの魂に七大罪の魔眼と呼ばれるスキルを埋め込み、魔王を作り出そうとしている犯人は、平行世界に存在した大賢者ウルシュ。
マリエタから教えられた童謡によって、魔王は七つではなく十に分かれたのではないかという疑惑が出ている。
七大罪の『強欲・嫉妬・色欲・暴食・憤怒・怠惰・傲慢』のほかに『虚言』があること。
イザベラとウルシュは把握していないが、ウルシュの実家に『略奪』王の欠片がそろっていて、水面下で争奪戦が起きていること。学院の火災を眺めていた『無能』王の存在。
十に分かれた王様の童謡。過去に聖騎士によって倒されたとされる魔王伝説。時空のはざまに封じられたとされる魔王伝説。そもそも魔王とは、何を、誰を、指しているのか、なにが正しい情報なのかすら分からないまま、マリエタがループする原因ではないかと思われる世界の崩壊の原因を探して、脳筋のイザベラは行き当たりばったりで、せっかく手に入れた情報を忘れながらも力技で突き進んでいる。
ゲームに登場していた桜花列島連合国が出身と思われる攻略対象と、この世界の桜花列島連合国の情報を整理していくにつれ、さらに疑問点が増えたところで、さっきマリエタから受け取ったノートの存在を思い出す。
忘れないうちにと、すぐにノートを取り出して、二人で見られるように自分とウルシュ君の間に置く。
「ウルシュ君、さっきマリエタがノートをくれたの。私が大罪王スキルと関係あるんじゃないかと考えている童謡や、その他の童謡とかもノートに書いてくれたんだって。他にも、これまでは時間がなくて聞けなかった話……それこそ桜花列島連合国に関係した内容も、書いてくれているかもしれない」
「ゴーゴニャス大陸から伝わったっていう童謡? なんだか不思議だよねぇ。これまで交易が難しかった遠い大陸や、遠い島国に重要そうな情報が散らばってるなんてぇ」
「童謡に関しては、私が勝手に関係あるんじゃないかって思っているだけなんだけど、もしも本当に手がかりなのだとしたら、確かに不思議だね。ゴーゴニャス大陸は飛行船が開発されたことで、ようやく本格的に交易が出来そうな状況だし、桜花列島連合国も転移門で交易しているとはいえ限定的で、将来的に飛行船によって交易が出来るかもしれないっていう状況なのに。ただ、私が早まって手がかりだと思い込んでいる可能性があるから、ウルシュ君も童謡の内容を見て考えてくれないかな」
「じゃぁ、さっそくノートを見てみようかぁ。イザベラが聞いた童謡がどれか分からないからぁ、そのページを開いて教えて貰えるかなぁ?」
そこで私はノートを開く。童謡は開いてすぐのページに書かれていたので、探すまでもなかった。
ゴーゴニャス大陸、ダルダーニャ地方に現在まで伝承される55の童謡より。
54番目の唄『おうさまのかけら』
という書き出しから始まった童謡は、メロディ付きで耳で聞くよりも、文章で読んだ方が内容が分かりやすかった。
そして、内容が理解できるほどに、大罪王スキルとの関係性があるんじゃないかという疑惑が深まっていく。
童謡の歌詞を読み終えたらしいウルシュ君は、何度かうなずき私を見た。
「イザベラが考察した通り、この内容で無関係っていう事は無いと思うよぉ。それで確かぁ、禁書庫に迷い込む前に、噴水でこの唄によく似た童謡を聞いたんだったよねぇ?」
「そうなんだけど、ごめんウルシュ君。その時聞いた唄の内容を全然覚えてない。重要な情報だったかもしれないのに……」
「まぁ、それはそうだよねぇ。さっき聞いた話の状況だとぉ、大抵の人が記憶できないと思うよぉ。だからイザベラが謝る必要はないよぉ」
それでもウルシュ君なら、同じ状況でも記憶できちゃいそうだな。とか考えていると、ウルシュ君が続けて話す。
「あまり期待はできないけどぉ、イザベラが噴水で聞いた唄が、この童謡の2番だったり、この唄が『55の童謡の54番目』だから次の55番目の唄として、ノートの別ページに書かれてたりしないかなぁ?」
確かにマリエタは他の童謡も書いておくと言っていたし、可能性はある。
そこで私とウルシュ君は、二人でノートを覗き込むようにして読み進めていった。
結果を言うと、私が聞いた歌詞違いの童謡はノートに記されていなかった。
童謡が書かれていたページが終わったところで、私は伸びをして、お茶を淹れなおすために立ち上がった。
ウルシュ君はそのままノートを読み進めるそうだけど、私の読書ペースがウルシュ君より遅いせいで、一緒に読むと待たせてしまう。私はいったん離れて、先にウルシュ君に目を通してもらう事にした。
私は寮に帰った後にでもゆっくりと読めるので、今のうちにウルシュ君に内容を共有することを優先させる。
ウルシュ君一人になると、ノートをめくる速度がビックリするほど加速し、それ本当に読めてるのか? と疑問を感じさせるほどの速読だった。もはや一瞥にすらならないんじゃないかっていうレベル。ウルシュ君だから完璧に読めてるだろうし、もしかすると暗記すら出来ちゃってるかもしれないけど。
私がお茶を淹れなおして戻ってくる頃には、とっくにノートを読み終えたウルシュ君は何かメモを取っていた。ノートは閉じられて私がいた場所に置いてある。
私はウルシュ君と自分の席に新しいお茶を置くと、ノートを手に取りもう一度『おうさまのかけら』が書いてあるページを開く。
「私が禁書庫に行ったときに聞いた、『おうさまのかけら』に似た唄は無かったね」
メモを書き終えて、お茶に口をつけていたウルシュ君にそう言うと、ウルシュ君は少し首をかしげながら口を開いた。
「それなんだけどねぇ……ノートを読んだ結果、もしかしたらイザベラが禁書庫に行ったときに聞いた唄の方が、正しい唄なのかもしれないって思ったんだぁ」
「正しい唄? どういうこと?」
するとウルシュ君は、もう一度ノートを貸してと言うので渡すと、ウルシュ君はあるページを開いて私に見せる。それはマリエタが言っていた『隠され、忘れ去られた禁書庫』の場所と、そこへ行くための道順だった。
「それを説明する前に、まずはここに書かれている内容を読んでみて欲しいんだぁ、マリエタがイザベラに話した禁書庫と、イザベラが迷い込んだ禁書庫は、どうやら別みたいなんだよねぇ」
その言葉に、慌ててそのページの内容に目を通す。そしてウルシュ君が指摘した通り、確かにマリエタがノートで説明している禁書庫と、私が行った禁書庫は『禁書庫違い』。つまり別の場所だという事を理解する。
マリエタが言う禁書庫は、道順や隠し扉などのギミックさえ知っていれば、誰でも物理的に行ける。そして、埃まみれで薄暗いので、目当ての書籍を探すためには明かりを用意して、砂埃を掃いつつ、積みあがった沢山の書籍のなかから掘り起こさないといけないようだ。
もちろんそこにはナビィさんはおらず、お茶や茶菓子なんて用意されていないし、ステータス画面に利用者カードが発行されて、いつでも行けるようになる事も無い。
え? ちょっ…………えっ?
待って、じゃあ私はいったい何処に行ってたんだ?!
てっきりマリエタも行ったことのある場所だと思ってたから、ホラー展開はあれど、のんきに調べものや読書やカード探しをしていたけどさぁ!
全然違う全く知らない場所なら話が変わってくるよ?!
全然まったく知らない場所で、私はお茶飲んで、調べものしながら日本の女子高生と話してたってこと?!
そうだっ!! そうだった!! そういえば何故か日本の女子高生が居たんだった!!
禁書庫に行って帰ってくるまでの流れは、だいたい説明したけど、女子高生は本筋とは関係なさそうだし、正直怖くて思い出さないようにしてたのもあって、記憶から薄れていてウルシュ君に説明してなかった!!
「ウルシュ君!! 日本のっ……日本の女子高生な委員長が居たんだよっ!!」
「ごめんねぇイザベラ。どんなに考えている事が顔に出やすくてぇ、分かりやすいイザベラだったとしてもぉ、今の会話の流れで、それはちょっと何が言いたいのか分かんないやぁ……」
ですよね!!
でも私も何がなんだか分からないから、順を追ったとしても、結局ちゃんと説明できないかも!!
ただいま(コソッ)