え~と。民俗学的な?
とりあえず禁書庫については、集まった先輩達など人が多すぎるので、学科長の用事とやらを済ませてから話す事になった。
他にも、聞かなければいけない事とか、色々忘れている気がするけど、ウルシュ君との会話からゆっくりと思い出して行く事にしよう。
学科長の元を訪れると、彼はウルシュ君に引っ付いて来た私の事も歓迎してくれた。
予想していたよりも大柄で、外ハネしたアッシュ系の茶色い髪に、淡い緑色の瞳。太縁の眼鏡をかけた陽気な兄さんだった。
「やあ! ウルシュ少年の婚約者殿。いつぞやかは消火活動ご苦労だったね!! 随分と露出の激しい格好で大立ち回りして、ウルシュ少年に回収されていたんだって? 実はウルシュ少年は嫉妬深い、粘着質な性格をしているよ。あまり彼を刺激しないように気を付けたまえ!!」
ウルシュ君って、もう少年と呼べる年齢じゃないと思うんだけど………まぁ、そこに関しては良いか。
私がサンバみたいな衣装で消火活動したのも、ウルシュ君に回収されているのも、目撃者が大勢いるから、それも良いとして………。
問題は、ウルシュ君が『嫉妬深くて粘着質』っていう件だけども、なんでウルシュ君ってば学科長にそんな評価されているんだろう?
嫉妬はまだ分かる。マリリン先輩(?)やゲームウルシュ君が創った衣装に関して、嫉妬してる姿を見てるし。
いや、それも変だぞ? その時は周囲に見聞きしている人物が居たとも思えないし。
ってことは、私が居ないどこかで、学科長やその知り合いの前で、ウルシュ君が嫉妬心を露わにした事があるという事だろうか?
え、なにそれ。どんな経緯で、そんな事になったんだろう? 気になる。
詳しく話を聞こうと学科長に寄って行ったところで、背後からウルシュ君に両肩を掴まれて、離れたところに移動させられた。
「じゃあ、イザベラはここで大人しく待っててねぇ。僕は学科長と大切なお話と、重要な約束事を結ぶ必要があるからねぇ」
「え、え? ウルシュ君、私学科長に聞きたい話が」
「用事を早く終わらせて、新入生の顔合わせに戻らないといけないでしょぉ? あと、禁書庫についての話し合いも残ってるし、今日は忙しいから、また今度にしようねぇ」
そうだった。今日は予定が詰まってた。学科長とのんきにおしゃべりしている場合では無いな。
納得した私の様子を見て、ウルシュ君は学科長の元へと戻っていった。
さて、その間、私はどうしようかな?
とりあえず説明下手な私でも、ちゃんと順を追って禁書庫の件を伝えられるように、思い出せる範囲でメモに書きだしていこう。
え~と。重要そうなのは、まず『童謡』かな。マリエタから聞いた内容と、噴水で聞いた内容に違う点があったんだよね。
でも、童謡の歌詞なんて覚えてないよ。
とりあえず、マリエタに歌詞の内容をメモに書き出して貰う事にしよう。忘れないようにこの事もメモメモ。
あとは、禁書庫に行くための条件も書き出しておこう。
え~と。まず、『輪になって踊る』と。………これで合ってたっけ?
確か、私とウルシュ君はキャンプファイヤーの時に輪になって踊ったからOKだと思う。
次に、『学院内のどこかの噴水にランダムに現れる妖精を、一番初めに見つける』早い者勝ちだね。
で、終わりだっけ?
いや、他に何かあったような???
あ、『世界の半分を貰う』だ!!
………いや、違うな。貰ってないぞ、世界の半分。
世界の半分をあげるんだっけ? いや、誰にだよ。そもそも世界は私の物じゃない。今のところ。
「イザベラどうしたの? さっきから何を唸ってるのぉ?」
っていうか、『世界の半分』ってどこから出てきた。何かのセリフだっけ?
そうだ!! どこぞの竜王みたいなフレーズが、噴水の水面に浮かんだんだ。確か内容が
「イザベラ? どうしたのぉ?」
「え、ウルシュ君? あっ、思い出した!! 『私の味方になれば、世界の半分をお前にやろう』」
「…え、あ、うん。………ありがとう。僕はいつでもイザベラの味方だよぉ。………でも世界の半分はいらないかなぁ」
あぁ!! 違う、そうじゃない。
急に婚約者に世界の半分を与えようとする、覇王みたいになっちゃった!!
「あ、いや、違うの。いや違わないんだけど。いや、やっぱり違う?」
「イザベラ。よく分かんないけど、落ち着いてぇ」
ウルシュ君は混乱している私の頭をなでながら、階段の方へと誘導する。
おぉ。ウルシュ君、手が大きくなってるね。大人の手へと近づいてるね。素敵だ。どこまでも付いて行くよ。
「とりあえず、世界の半分は置いといて、地下1階まで戻ろうねぇ」
「は~い」
ウルシュ君は階段で『パンチラ』されてはかなわないと、私よりも上の段をキープしながら上って行った。
だから、意図的にはラッキースケベしないってば!!
地下1階に戻って暫くすると、ようやく錬金術科の新入生が揃ったようで、簡単な自己紹介と希望する錬金術についての聞き取りが行われた。
私はポーションとかの調剤系を希望する予定だったけど、包丁やまな板、鍋といった『調理器具』を使うと聞いたので、変更するべきか悩み始めていた。
私は調理器具を使って料理を作ると、ヘドロを錬金する女だ。ポーション創りでも同様の事が起きかねない。
という事で、しばらくは初歩の合同授業が続くようなので、その授業を受けながら考える事にした。
他にも同じように、初期授業を受けつつ選択授業を考えるつもりの生徒がいたので、少し安心した。
ウルシュ君の聞き取りの順番が回って来て、先に聞き取りが済んだ私は退屈になったので、ぐるりと新入生を見渡した。
少し離れたところにマリエタとバーバラの姿をみつける。二人仲良く並んでいるね。どうやら上手く交流できているようだ。
そうだ、今のうちにマリエタに童謡の歌詞について聞いておこう。
選択授業の聞き取りが順番に行われているから、聞き取りが終わった生徒は自由にブラブラしている。声をかけに行くなら、今がチャンスだ。
手を振りながらマリエタとバーバラに駆け寄ると、二人もこちらに気づいて手を振り返してくれた。
二人と合流すると、バーバラが両手を腰にやって、怒り始めた。
「ちょっと、貴女ねぇ!! この前はどこに行っちゃたのよ!! 一緒にマリエタが戻ってくるのを待ってたハズなのに、少し目を離したすきに居なくなってたから、探したでしょ!!」
「ゴメンゴメン。用事を思い出したのと、なんか家族の再会に混ざるのも悪いかなぁ、なんて思っちゃって。声をかけずに行っちゃった。ごめんね」
するとマリエタが両手と首を振りながら、笑う。
「そんな、気を使わなくても良かったのに。バーバラもこんな事言っているけど、イザベラの事を心配していただけなの。気を悪くしないでね」
「大丈夫だよ。バーバラがツンデレなのは知ってるから」
そう言いながらマリエタと二人で、バーバラに視線を向けると、彼女は真っ赤になりながら睨みつけてきた。
「『ツンデレ』とか良く分からないけど、誤解するんじゃないわよ。私は別にアンタの事なんて心配してないんだからね!」
戴きました。
ツンデレキャラからの『別に○○の事なんて○○○○ないんだからね!!』
テンプレ戴きました!!
贅沢をいうなら、バーバラにはもう少しデレ要素が欲しいわね~。
悪気は無いんだろうけど、口調がきつめだから、もう少しデレてもらわないと、時々凹みそうだよ。
って、それどころじゃなかった。
「ねぇ、マリエタ。この前の王様の歌なんだけど………」
「ちょっと!! 無視してんじゃないわよ!!」
「あ、『おうさまのかけら』の事ね。この前イザベラが興味を持っていたみたいだから、旦那さんに聞いて、他の童謡もノートに書き写してきたの。今日、イザベラに会えるかなって、持ってきてるわ。イザベラは童謡が好きなの?」
流石ヒロイン!! 相手の望む物をそつなく用意し、プレゼントする能力に長けている!!
私のマリエタに対する好感度が上がってるよ!! 爆上がりだよ!!
ただ、私は攻略対象じゃなくて、悪役令嬢だよ!! これは友情エンドかな? なんてね。
「もう!! マリエタまで無視する!!」
「好きって言うより、調べているっていう感じかな? え~と。民俗学的な?」
「ちょっと二人共!! いい加減にしないと怒るわよ!!」
「「ご、ごめんね。バーバラ」」
バーバラが顔を真っ赤にして、涙目になりだしたのでマリエタと二人で慌ててなだめた。
バーバラの怒りを鎮めるために、クローゼットから取り出したレモネードやプリンを献上していると、聞き取りが終わったウルシュ君が戻って来たのが見えた。
「あ、ウルシュ君が戻って来たみたい。じゃあ、二人ともまたね」
「ふん。今日はここまでにしてあげるわ。さっさと行きなさいよ。……プリン、沢山ありがとぅ」
「イザベラ。ノートの最後に、童謡の他にもイザベラに伝えたいことが書いてあるから、最後のページまで見てね」
「うん!! マリエタありがとう。バーバラも、今度はアイス持って来るね」
「うるさいわね。さっさと婚約者の所に行きなさいよ!! 私が睨まれてるでしょ!!」
バーバラに言われて振り返ってウルシュ君を見るが、ウルシュ君はのほほんとした笑顔で手を振っているだけだった。
いや、バーバラ。糸目のウルシュ君が睨むのって難しいんじゃないかな?