いエ。命大事なンデ
とりあえずウルシュ君を休ませようと、丸まったウルシュ君を横に倒した。
されるがままのウルシュ君は、大理石みたいな石の床に転がったけど、このままじゃ硬い床で頭が痛そうだ。しばらく考えて、スカートを縛っていたベルトを外してからウルシュ君の横に座る。
「ウルシュ君、床に直接だと頭が痛いだろうから、私の膝に頭を乗せて」
見よっ!! この自然な感じの膝枕誘導!!
これでウルシュ君のモフモフの頭を堪能できるという寸法!!
しかし、集まって来た先輩達の一人が、私の企みに待ったをかける。
「若奥さん、それだとスネイブル君の鼻血が止まるどころか酷くなるんじゃないかな?」
いや、膝枕程度にそこまでの威力はないはず。ヒップアタックよりも断然初心者向けだ。
「イザベラ嬢、甘やかさなくて良いですよ。ただの興奮による鼻血なんですから」
「その場に転がしときましょう。そうしましょう。……これ以上この男に良い思いをさせてなるものか」
くっ!! 先輩達が口々にウルシュ君の放置を呼びかけるが、このチャンスを逃したら次に一体いつ膝枕チャンスが来るか分からない!!
そんなことを考えながら先輩達とやり取りしていると、ウルシュ君が丸まったままズリズリと移動してきて、私の膝の上にそっと頭を乗せた。
これは…なんと!! ぃやぁったぁぁぁぁぁぁっ!!
膝枕だよっ!! 今の見た?! ズリズリ移動してきて、そっと、ちょこんと、ウルシュ君が私の膝に頭を乗せたんだよ!! 放置されたくなかったから自分から来たの?! そうだよね?
なに? なにかなー? この可愛い生き物。私の婚約者でしたーーー!!
こんな可愛いウルシュ君を見られるなら、故意にラッキースケベを起こすのも良いかもしれない!!
ん? 『ラッキースケベ』?。
なんか引っ掛かるぞ『ラッキースケベ』。なんだっけ?
「くっそ、バカップルめ!!」
「……イチャイチャしやがって。爆破するぞ」
怨嗟の声と、爆破予告が聞こえたけど気にしなーい!!
ウルシュ君の、このフワフワモフモフの頭は私のもの!! レッツ!! フワフワ!!
膝の上のウルシュ君の頭をフワフワモフモフと撫でまわす。
「くっ………俺も甘やかしてくれる婚約者が欲しい。スケベでも呆れずに甘やかしてくれる婚約者が欲しい」
「しかし、このバカップル。二人そろって鼻血吹くのな………」
ん? 今なにか聞こえたぞ?
「………二人そろって、鼻血?」
疑問に思いながら集まった先輩達を見上げて、疑問を投げかけると、視線の合った先輩が首を傾げながら答える。
「ん? 覚えてないのか? まぁ、その直後に気絶したもんな。ローブ配布の日に、ココまでウルシュに会いに来たろ? その時ソファで居眠りしてたウルシュ坊に抱き着かれて、姉ちゃん鼻血吹いたんだぞ」
あ、そう言えばウルシュ君に会いにココまで来たら、面白い寝相でウルシュ君が寝ていた姿を見た気がする。
あの時は何しにウルシュ君に会いに来たんだっけ?
そうだっ!! あの時は、なんかホラーな事があって、ウルシュ君成分を摂取しに来たんだよ!
だけど、意図せぬ形で過剰摂取になって、意識が飛んだんだった!! え? まるでウルシュ君がヤバい薬みたいだな。
いや、それよりも何か重要な事を忘れている気がする、なんだっけ?
摂取以外にも、ウルシュ君にその日のうちに会って、何かをしなくてはいけないと思ってたんだよね。なんだっけ?
………あ、占いのノルマも達成だよ!!
さっき、引っかかったのはコレだ!! 占いの『今日のラッキースケベは』っていうやつだよ!!
「そうだった! 占いで、あの日の『ラッキースケベ』がパンチラだったんだよ!! 当日中に、ウルシュ君にパンチラしようと思っていたんだった!! 忘れてた!!」
だけど、もうあれから何日もたっているから、今更パンチラしてもなぁ………
占いの内容が今も有効だったなら、ポールで降りるときにチャンスがあったかもしれない。
いや、その『パンチラ』が起きないようにするために、ウルシュ君がベルトでスカートを縛ったんだから、結局は無理な話か。
そう考えながら唸っていると、私の膝に置かれていたウルシュ君の頭が、むくりと起き上がった。
あぁ…ウルシュ君の頭が離れてしまった。
ウルシュ君の鼻血はどうやら止まったらしく、強引に手の甲で拭ったのか口の端から頬の辺りに血の跡が広がっていた。
鼻血の原因はさておき、顔を血液で汚しているウルシュ君もなんだかワイルドで素敵だ。好き。
でもそのままにしておく訳にも行かないので、ブラッディウルシュ君を脳裏に焼き付けながら、取り出したハンカチでウルシュ君の顔を拭う。
すると、ウルシュ君が私のハンカチを持つ手を捕まえて、首を傾げた。
「イザベラ、『パンチラ』って何?」
うん? ウルシュ君はラッキースケベの王道中の王道である『パンチラ』を、ご存じではないと。
「え~と『パンチラ』というのはね… 例えば突風や立ち位置の関係などで、見るつもりは無かったのに、女の子のスカートの内側、つまり『パンティ』が『チラリ』と見えてしまうと言う状況の事で、それを略して『パンチラ』と呼ぶんだよ」
おや? 私はなんで真面目に、婚約者相手に『パンチラ』とは何たるかを語ってるんだろう… どんな状況よコレ。シュールにも程があるでしょ。
ところで、よくラブコメ漫画で見られる『パンチラ』だけど、見え方が『チラリ』じゃないよね。もはや『モロ見え』だよね。
そう考えると『パンチラとは何か』の定義を見直さなくてはならない。これは永遠なる哲学の課題となる問題だね。
あれ? どうしたのウルシュ君。久々に黒いオーラが滲み出てきてるよ。
いつもの背負う感じの滲み方じゃなくて、這い寄る感じの出かただけど、確かに黒いオーラが滲み出てるよ。
私、なにかやらかしたっけ?
背筋に冷たい汗を流しながら、首を傾げると、ウルシュ君はニッコリ笑った。可愛い怖い。
「ねぇ、イザベラ」
「はい。なんでしょう?」
「その『パンチラ』とか言うのもそうだけど、『ラッキースケベ』とか言うのを故意に起こそうとするなら、それなりの『覚悟』を持って挑んできてね?」
語尾が…伸びてない……だと? これは本気で怒ってる。
「………ハイ。申シ訳アリマセン。故意ニハ起コサナイト誓イマス」
「うん、そうだね。まぁ『覚悟』があるなら良いんだよ? 『覚悟』があるならねぇ……」
何に対する覚悟なのか分らないのが怖い。
恥ずかしいからと、頭突きをかまそうとするウルシュ君だから、予測がつかなくて怖い。
もしも故意に起こしたら、ダイモン兄様に告げ口とかいう事になれば、私の馬鹿みたいに高いHPが0になるような目に遭わされる。
あと、もしもだけど。
もしも、なんだけど………。いや、本当にもしもの可能性なんだけど。
ちょっとエロイ方面のお仕置きだとか、………いや、もしもだよ?
ヒップアタックで鼻血出しちゃうような、ピュアなウルシュ君に限って、そんなことは無いと思うけど、えっちい感じのお仕置きだとかが待ってるなら………
私たぶん、破裂して即死する。
ウルシュ君と言う名の推しから、えっちい事されたら、確実にパァン! って破裂する。
命大事。せめてウルシュ君と結婚式挙げるまでは、生きていたい。本気で。
「いエ。命大事なンデ、故意ニハ『ラッキースケベ』は、起こシマせん」
「よくできましたぁ。分かったなら良いんだよぉ」
よ、良かった。這い寄るオーラがウルシュ君へと戻っていく。
そのオーラ、出し入れ自在なの? なにそれ怖い。
「ところでぇ、そのふしだらな占い結果を叩き出した占い師は、一体どこにいるのぉ?」
ふしだらな占い結果。
ふしだらってウルシュ君。いや、まぁ、確かにふしだらって言えばふしだらなのかな?
「え~と、占い師に占ってもらったんじゃなくて、フォーチュンクッキーの中のおみくじに書いてあって、魔王について調べるヒントみたいな」
「魔王のヒント?」
「そう、禁書庫にあったフォーチュンクッキーの内容が、魔王に関する書籍のロック? を知るためのヒントになるらしくて」
そこまで答えたところで、再びウルシュ君から黒いオーラが滲み出て来た。
今度は這い寄るタイプじゃない。背後に背負うタイプだ。
ウルシュ君が私の両肩にそっと手を置いたかと思うと、顔を至近距離まで寄せてきた。
黒い笑顔だ怖い。
「イザベラ、僕に言って無い事が、まだあるよねぇ? イザベラの事だから、わざと言わなかったんじゃなくて、忘れていただけとは分かっているけどぉ、なにか重要な事を、僕に伝え忘れてなぁい?」
うん。禁書庫に辿り着いたことや、ナビィさんの事とか、言い忘れてた。