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出て来たかどうかとか

午前中の通常クラスの予定を終え、午後からは選択した学科の授業が始まる。

だけどその前にお昼ご飯だ。


ロゼリアル魔術学院は全寮制な上に、既定値以上の魔力持ちは強制入学なので、学食は無料で食べられる。

地方の農村などから来た生徒には助かるシステムである。


ちなみに有料の学食やカフェもあって、お財布に余裕がある生徒は好きなものを買って食べたりする。

家計が厳しく実家からの仕送りがない生徒も、魔道具に魔力を込めるなどの、寮でも出来るバイトを学院が紹介してくれたりするので、そのバイト代でカフェでお茶をする事も出来る。


「ねぇイザベラ。今日は初授業祝いで有料ランチを食べようかぁ。僕が奢るよぉ?」


壁一面を使って、大きく書かれたメニュー表を眺めていると、ウルシュ君がそう提案して来た。


「えっ!! 良いの? ありがとう!! 何食べようかなー。あ、多国籍料理もあるよっ!!」


平民男子にランチを奢って貰う、公爵令嬢のイザベラさんです。まさに悪役令嬢。

言い訳させてもらうと、私はお金持ってません。

働いてないから収入無いし、ダイモン兄様は厳しくてお小遣いくれないし。公爵令嬢が所持金ゼロってどうなのよ。こんなの絶対おかしいよっ!!


そして多分、個人資産はウルシュ君の方が持っている。亜空間ポーチとかステータスチェックの指輪とかで荒稼ぎしているんですよ、彼は。


そんなリッチなウルシュ君に奢って貰った、牙楼帝国料理の、なんか酸辣湯っぽいスープパスタを受け取って席に着く。

ウルシュ君は桜花列島の郷土料理の、”味噌煮込みうどん”を白味噌とちゃんぽん麺で作ったような料理を受け取っていた。どちらもスプーンとフォークで食べます。

前世の記憶があるせいで、なんか惜しい様な、コレじゃない感がする。

これはこれで味付けが工夫されていて美味しいけど。


二人で仲良く並んで食事していると、向かいの席に二人組がやって来た。

視線を向けて確認すると、二人組の片方はギースだ。

もう一人の生徒は、これまで見た事のない大柄な男子だった。ローブの色は黄色。聖魔法科だ。

ガッチリ体型で、白っぽい金髪に灰色の瞳。かなりの三白眼。

髪形は……えーと、コレ何て言うんだっけ? 頭の上半分が長くて、下半分が刈り上げられてて……

ツーピース? 違うな。ダブルピース? ……いや、なんか離れた気がするぞ。

ツー……ツーブロックっ!! そうだ、この髪型はツーブロックだっ!! スッキリした!!

ツーブロックの上半分の長い髪を一つに束ねて、チョロンとしたポニーテールにしている。

そして、ピアスやネックレス、指輪や腕輪といったシルバーアクセサリー風のマジックアイテムをジャラジャラ付けていてヤンキー感が半端ない。


とりあえず、知り合いのギースの方に声をかける。


「ギース、久しぶりだね。今から食事?」


声をかけると、ギースは無言で頷いて席に着いた。するとギースと一緒にいた男子が、その横の椅子を雑な動きで引き、勢いよく腰かける。椅子に浅く腰かけ、背もたれにダラリともたれる姿から、不遜さというか横着な印象を感じた。

あまりギースと仲良くする様なタイプじゃないなと、一緒に居る事を内心疑問に思いつつ、その男子に向かって目礼すると、軽く手を挙げて返された。


うーん。ギースとの関係性が分からない。


「えーと。一緒にいるのはギースの新しい友達?」


聞くとギースは首を傾げながら口を開いた。


「彼は知識の間の同胞どうほうなのです。彼がその身を、小さき至福しふくの獣へと変容へんようせしめん時に、相識そうしきたのです」


「な、なんて?」


ギースが何を言っているのか分からない。

二年程前から中二病(?)を発症したギースは、口を開けば詩的な物言いをするようになった。

察しの良いブライアンが傍に居てくれれば、通訳して貰えるのだけど、残念。ブライアンは隣の騎士学校に進学してしまった。

ゲームでは魔術学院に居たはずのブライアンが、なぜ騎士学校に進学したのかと言う理由は置いておこう。

まず、ギースの言っている内容を解読するのが先だ。


もしかすると、一緒にいたヤンキー風の彼なら分かるのかと思い、視線を向ける。

すると、その視線に気付いたヤンキー君は面倒くさそうに答えた。


「俺にも説明してくれ」


何言っているか分からないのに、ギースと一緒に居るのか君は……。まぁ私も人の事言えないけど。


うーん。解読したいのはやまやまなんだけど、普段使いしないような単語を所々に入れて来るから、聞いた内容が右から左に流れて行って、よく分からないんだよねぇ。

内容を紙に書いて渡してくれれば、解読もしやすいんだろうけど、リスニングだけじゃ無理だわ。


困っていると、救いの手を差し伸べてくれたのは横に居るウルシュ君だった。


「君は学院内の施設案内の時に、魔法でウサギに変えられていた人だよねぇ。ギースは、その時に知り合った同じクラスの生徒だよって説明してくれたんだよぉ」


ん? あ、あぁ。”小さき至福の獣”ってウサギの事を言っていたのか。

そんなの、絶対分かんないよっ!! もっとウサギの特徴を捉えた説明をしてくれないとっ!!


でも、ギースがウサギになった男子生徒に頬擦りした後の顛末が、分かって良かった。

てっきり、怒った相手と喧嘩になったのかと思っていたよ。

一緒に食堂に来るくらいに仲良くなれたんだね。安心したよ。


「そっか、それで二人は仲良くなったんだね」


「なってねぇよ」


なって無いんだ……。

でも一緒にご飯を食べに来たわけだし……とギースの方を見ると、ギースも頷いて肯定した。


「柔らかき癒しの祝福が消失した後、彼の忿怨ふんえんによる兇行きょうこうにて、幾度いくど苦界くかいとされては救済されるという悪辣あくらつな所業を受けていたのです。永劫えいごうの時さえ感じた頃、燦燦さんさんたるかての刻限を告げる、鐘声しょうせい調しらべにより、ようやく重苦じゅうくの時が終焉しゅうえんを迎え、我が身は解き放たれたのです」


「助けて、ウルシュ君!!」


お手上げだ!! 何言っているのかサッパリ分からない。

聞き慣れない単語が多すぎて、言っている内容が、全く頭に入って来ない。


「う~ん。僕はブライアンみたいに上手に通訳できないんだけどねぇ。えっと多分、ウサギ化の魔法が解けた後に、ギースは彼から痛い目あわされては、治癒魔法で治療されると言う行為を繰り返されてたんじゃないかなぁ? それで、昼食の時間を知らせる鐘の音で、やっと解放されてぇ、そのまま一緒に食堂に移動して来たのかなぁ」


なんだその、痛めつけては治癒するという拷問みたいな行為は。

ギースも、そんな事して来た相手と、一緒に食堂に来るとか意味が分からないよ。


そして、ウサギ姿に頬擦りしたくらいで、やりすぎじゃないかな?

そんな気持ちを込めて、ヤンキー君に非難の視線を向けると、その視線の意味を察したのか、彼は一応の弁解をした。


「大丈夫だろ。殴っても、治癒魔法をかけたら元通りだから。それに治癒魔法をかけながらの腹パンだから、痛いのは一瞬ですぐ収まる」


「うーん。でも痛いのには変わらないじゃない?」


そう言って首をかしげる私の肩に、ウルシュ君が手を置いて、しみじみ語りだした。


「成長したねぇイザベラ。子供の頃に”殴っても、治癒魔法で治せば元通り”って、今の彼と同じことを言っていたのにねぇ」


「そんな事、言ってたっけ?」


うーん、記憶に無いぞ?


「イザベラ……クリス様を誘拐した時だよぉ……」


クリス様の誘拐。確かそんな事もしたような気が……。

でも覚えて無いや。これまでに色んな事がありすぎて。


「覚えて無いんだねぇ。まぁ、そこがイザベラらしいんだけどぉ」


どうやら思い出せない事が表情でばれたようで、ウルシュ君から笑われる。


「むしろウルシュ君、よく覚えているね」


「イザベラと過ごした日々は、ほぼ思い出せるよぉ。僕の宝物だから」


うぅ…。ウルシュ君は思い出を大事に覚えていてくれていると言うのに、私ときたら…。


「ありがとうウルシュ君。だけど、私は思い出を忘れててごめんね」


「六歳の頃の出来事や会話なんて、思い出せないのが普通だよぉ。謝る必要性なんて無いからねぇ」


ウルシュ君はそう言ってくれるけど、やっぱり心苦しさがある。

もっと、ウルシュ君と過ごせる日々を大切にしよう。


ところで……。


「そう言えば、貴方は黄色のローブを着ているけど、聖魔法科なの? 将来は治癒士か神官になるの?」


「いや。俺はソロ冒険者に成るために、聖魔法を極めようと思ってな」


ん? 治癒士ヒーラーなのに、ソロ冒険者? 普通、治癒士ってパーティの後衛じゃないの?


不思議に思っていると、ウルシュ君が解説してくれた。


「彼は『殴り司祭アコライト』って呼ばれているスタイルの人だと思うよぉ。治癒魔法や支援魔法で自分自身にブーストをかけて、メイスなんかの打撃系の武器で前衛に出る人達の事をそう呼ぶんだぁ」


「そう。それだ」


成る程、聖魔法の身体強化や、治癒魔法、補助魔法を自分に使って、物理で突撃……って、ソレ私の戦闘スタイルじゃないか?

知らない間に『殴りアコライト』への道を、突き進んでいたでござるよ。


それはさて置きウルシュ君のその説明で、彼の体格の良さや、聖魔法科の生徒なのに攻撃的な理由がよく分かった。


「そうなんだ。あ、自己紹介して無かったわね。私はロッテンシュタイン公爵家の三女『イザベラ・アリー・ロッテンシュタイン』。横に居るのが私の婚約者の『ウルシュ・スネイブル』よ。ギースとは子供の頃からの友人なの。よろしくね」


「ん。俺は『ラヴィ・ラビリンス』。ランバート伯爵領で、一部の領地の代官を任されてる、ラビリンス男爵家の八男だ」


ランバート伯爵領と言えば、王妃様の実家で、ロゼリアル王国最大のダンジョン『ゼルバンダム』がある土地だ。

確か、ランバート家と、そこに連なる五家が『ゼルバンダム』の管理をしていて、ランバート家とそこに連なる五家に生まれた子供は五歳に成ると冒険者の準登録をして、ダンジョンの一階層で薬草採取。

八歳に成ると、ダンジョンに月単位で放り込まれるんじゃなかったっけ?


そして、その五家の内の一つが『ラビリンス家』だ。

と言う事は、ラヴィ・ラビリンス君は、『ゼルバンダム』の中に入った事がある。


「ねぇ。『ゼルバンダム』に刑罰として入った罪人が、現時点でどういう状況なのかとか言った情報の管理って、行われているの?」


「入った記録と出た記録はあるが、ダンジョン内で行方が分からなくなる奴が多いからな。現在、何階層にいるとかいう細かい記録は無い。二階層への出入り口は完全に管理されているから、逃げ出して来たらすぐに分かるが、出て来てない場合は分からねぇ」


「ちなみに貴方はどの程度の情報を知ってる? 例えば元トーランド伯爵令嬢のルーシーと、彼女について行った、ロッテンシュタイン公爵家の元嫡男トレヴァーが『ゼルバンダム』から出て来たかどうかとか」


そう質問すると、ギースが勢いよくラヴィの方を向いた。

そう言えば、ギースはルーシーの弟だった。


二人が『ゼルバンダム』に入ってから、その後の情報が何も入ってきていない。

少しでもトレヴァー兄様の情報が入らないか、期待を込めてラヴィの返事を待ったが、彼は首を横に振った。


「出て来たかどうかは知らねぇな。ただ、俺が八歳の頃に、その二人とはダンジョン内で会った事がある」

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