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悪役令嬢は、庶民に嫁ぎたい!!  作者: 杏亭李虎
チート転生と、ゲームの裏事情あれこれ。
13/145

力強いの?

マリーちゃんを追いかけながら、ウルシュ君の腰元に視線をやる。

初めに気が付いた時には、ウルシュ君のイメージとミスマッチだったので、何故そんな物を腰にぶら下げているのかが分からなかったけど・・・・

ウルシュ君の正体を知った今となっては、似合いすぎて怖いです。

午前中と午後で、ずいぶん私の中のウルシュ君のイメージが変わったな。


ちなみに、ウルシュ君が腰にぶら下げているのは・・・


ムチ』です。


しかも、乗馬とかに使う、スティック状の短い物では無くて

革製の、しなる長い鞭です。

あの、猛獣使いとか、SMの女王様が使う様な、長い鞭です。


ウルシュ君・・・・君、商人の息子だったよね?

猛獣使いの息子では無いよね?

商人に鞭って必要だったっけ?


私の視線に気が付いたウルシュ君が首を傾げる。


「朝からずっとコレを見てるよねぇ。欲しいの?」


いらんわ。


「いや、何でそんな物を持ち歩いているのか疑問で。」


「あぁ僕ねぇ、今朝は鞭を扱う練習をしようかと思って、家を出て来たんだよねぇ。」


何故?!

何だろう・・・商人って鞭が扱えなきゃ駄目な職業だった?

ウルシュ君と鞭の組み合わせが、凄く怖くて、変な想像しちゃうんだけど。


「うん。イザベラ?あのね?決してコレ、僕の趣味じゃないからねぇ?なんか変な想像して無い?」


ゴメン、してる。

だって商人と、鞭が、どうしても結びつかないんだもん。


「・・・・・荷馬車を動かす為だよぉ。御者台から馬に鞭を当てる為には、長い鞭が必要なんだけど、長いから下手すると自分にも当たっちゃうし、周りの人に当たったら危ないから練習をしようと思ったんだぁ。」


思っていたより、真っ当な理由だった!!

ゴメン。ウルシュ君、色々疑っちゃってゴメン!!

そして、なにより・・・


「ウルシュ君、人に鞭を当てちゃいけないって言う常識は有ったんだねっ!!」


「ねぇ、僕、そこまで人間性を疑われるような事、イザベラにしたかなぁ?」


なんか正直申し訳ない。

確かに、そこまでの事はされてないよね。黒いけど。

流石に人間相手に鞭を振るう様な人間じゃ無いよね。黒いけど。

・・・あ、なんかウルシュ君の笑顔が怖くなって来た。


話題を変えちゃえ☆


「荷馬車を動かす練習って、そんなに早い時期から始めるの?」


「今回は、その話題転換に乗るけど、毎回それが上手く行くとは思わないでねぇ。」


こっ、怖いっ!!

ウルシュ君怖いよっ!!

6歳児なのに、正直勝てる気がしないよっ!!

私カンストしてるけど、一生勝てる気がしないよっ!!


「僕は商会の息子だから、荷馬車は従業員達が動かすし、必要無いんだけどねぇ、イザベラが行商しようって言ったから、一応練習しておこうって思ったんだぁ。」


私の為ですか。

・・・ふふ、ちょっと照れる。


「イザベラは、僕がスネイブル商会の支店を任されて、そこで働くのと、独立して行商するのはどちらが良い~?」


「えっ?そこで私に判断を求めるの?実際に働くのはウルシュ君なんだから、自分の好きな方を選んでくれて良いよ。私はウルシュ君がどちらを選んでも付いて行くから。」


私は魔法使えるし、ウルシュ君は黒いから、どこでもやっていける気がする。


「今も、付いて来てくれるつもりなんだねぇ。僕のお嫁さんに成る気は変わって無いんだぁ?」


何を言っているんだろう、ウルシュ君。


「当然だよ、ウルシュ君が黒くても、私はウルシュ君が好きなんだもん。ちょっと思っていたのと違ったけど、それでも好きなの。ただ信用は出来ないけど。」


今朝までの私と違うのは、狂信者的に崇拝する気持ちが、取れただけで。

好きな気持ちや、結婚したい気持ちは残っているんだよね。


それに、今日ウルシュ君と過ごして、ウルシュ君について分かった事が有る。

多分。ウルシュ君は黒いけど、自分の懐に入れた人は、絶対に守る人。

そして、ウルシュ君が本気で私を騙し通すつもりなら、出来たはず。

でも、そうしなかったのは、私を信じてくれたから。

私の想いが、その程度ですべて消える物じゃないって信じてくれたから。


ならば、その信用っ!! 応えようじゃないですかっ!!

ウルシュ君が私を信じるなら、私はその信用を裏切らない!!

と、いう事で、付いて行きましょう何処までも。


「なんで、笑うのっ!!」


「あはは~。別にイザベラを笑っていたわけじゃ無いんだよぉ。ただ、イザベラと出会えた事が嬉しかったんだぁ。」


「今度は、何企んでいるの?」


「・・・・もう少し僕を信じてくれても、良いんじゃないかなぁ」


そう言って、ウルシュ君がため息をついたとき、

前方でマリーちゃんの小さな悲鳴と、怒鳴り声が聞こえた。


「おい、お前ぇ!何してくれてんだっ!!お前のせいで、獲物が傷物になっちまったじゃねぇか!!買い取り価格が下がんだろうがっ!!」


声に驚いて前を見ると

マリーちゃんを取り囲んで、3人の屈強な男達が怒鳴っていた。

しまった、どんな状況か全然分かんない!!

ウルシュ君に気を取られて、マリーちゃんを見ていなかった!!


「あの人が上の空で歩いててぇ、あの冒険者さん達の後ろを通るときに、背負っていた獲物に引っかかって、獲物ごと引き倒す様に転んだんだよぉ。その時、討伐証明部位で素材の角が欠けちゃったみたい。」


凄いウルシュ君っ!!私よりちゃんと尾行・監視してるっ!!

そして、完全にマリーちゃんの過失じゃないか!!

マリーちゃん、君ドジっ子キャラじゃ無かったよね?!

本当に一体どうしちゃったのっ!?


怒っている冒険者さんの内の一人、短気そうなオジサンがマリーちゃんに拳を振り上げた。

ちょっ!!オジサン!!

怒るのは分かるけど、その屈強な体格での一撃は若い女性に向けちゃ駄目だよっ!!


慌てて”制止しなきゃ”と思った瞬間、うっかり発動させてしまった


そう、魔眼の《憤怒いあつ》さんです・・・

視界に入っている人を威圧し、行動不能、戦意喪失させる

飛んでいる鳥さんを落下死させる、あれです。


ちなみに、私の「視界」に入っているのは

3人の屈強な「冒険者」の方々と

「若手メイド」のマリーちゃん。

他、騒ぎを聞いて「冒険者ギルドから出て来た野次馬」の皆さんです。


さて、問題です。

この中で一番《憤怒いあつ》の効果をモロに受けそうな

気の弱い人は誰でしょう?


そうですね。マリーちゃんですね。


助けるつもりが、気絶させてど~すんじゃいっ!!

かえって逃げられずにピンチじゃんっ!!


撤退!!撤退ぃ!!

マリーちゃんを回収し次第、撤退っ!!


ダッシュで気絶するマリーちゃんの近くまで距離を詰める。


「なっ?!瞬間移動?!」


視界から微妙に外れていた、野次馬の冒険者さん達から声が上がる。

瞬間移動じゃないよっ!!

そこまで人間離れして無いよっ!!

ただの50Mダッシュだよっ!!


そのままマリーちゃんを抱えて、逃げても良いんだけど

一応、マリーちゃんの過失で冒険者さん達の獲物の価値を下げたので、雇い主としてその分を補填するべきだよね?

もしかしたら、ロッテンシュタイン家で働いているメイドだって事が知られて、後で苦情が来るかもしれないし。

ただ、私。お金持ってない。

公爵令嬢って、お金を自分で持ち歩かないし。

【クローゼット】には、アイテムしか入っていないし。


ん?アイテム?

お金になりそうなアイテムで、代わりにならないかな?

よし、(アイテム整理もかねて)高そうだけど、使い道の無いダブっている「ドロップアイテム」を渡して、誤魔化しちゃおう!!

ちなみに、何故ドロップアイテムかと言うと、

ゲームのウルシュ君から購入したアイテムは、色んな物が付与されていたり、特殊効果が付いていたりと、魔改造されているっぽいので、渡したらとんでもない事に成りそうだから。

ドロップアイテムなら、他にも持っている人が居るでしょ?多分。


スカートの裾から、中に手を突っ込んで、まるでそこに仕舞っていたかの様に【クローゼット】から出した武器を取り出します。

取り出したのは「ミスリル製のジャマダハル」。

これなら、スカートの中に入っていても、おかしくは有るまいっ!!

あと、ミスリルなら、お高いはず。


それを、マリーちゃんと冒険者さん達の間の地面に、そっと突き刺して謝罪。


「まぁ!まぁ!まぁ!ウチのメイドが粗相をしたいみたいねぇ~。まぁ~この子ったら、御免なさいねぇ~。あっ!!コレ、この子が壊した分の弁償の代わりねっ!!今、持ち合わせが無いのよぉっ!!これで許してやって頂戴。じゃあ、この子、連れて帰るからっ!!」


くらえっ!!一方的に喋るおばちゃん攻撃っ!!

口を挟む隙があるまいっ!!

一連の流れに、ポカンとする冒険者さん達を置いて

話は終わったとばかりに、さっさとマリーちゃんをお姫様抱っこする。

踵を返して、そそくさと歩き出した私の後ろから、

我に返った冒険者さんが追いかけて来た。


「ちょっ!!お嬢ちゃん!ちょっと待てっ!!」


くっ!!誤魔化しきれなかったか。

こうなったら、逃げるが勝ちだっ!!走ろうっ!!

獲物の報酬金額は知らないけど、補填の品は置いたんだし、流石に深追いしては来な・・・・

追いかけて来たしっ!!

やばい!やばい!やばい!


流石にマリーちゃんは、6歳児の私の体格で抱えるには大きくて、はみ出た足を引きずっているから、本気で走れないぃ!!

いや、走れるんだけど、マリーちゃんの足が摩擦で削れて無くなるからさ。不味いでしょそれはっ!!

そんなハンデ有りの状態で、中途半端なスピードで走るから、なかなか距離が離せないっ!!


街中を、大人のメイドを担いで爆走する貴族らしき幼女と、それを追いかける3人の屈強な冒険者。

なんだこの状況はっ!!

もう、諦めろよぅ!!追いかけてくんなよぅ!!

若干涙目になりかけて来た時、背後から”凄まじい勢いで風を切る”ような音がした。

言うならば「バシュンッ!!」みたいな。

それを聞いた頃に、遅れて来た風圧で髪が前へとなびく。

驚いて思わず、足を止め振り返ると

片手に鞭を下げたウルシュ君と、石畳に出来た細くて長くて深い溝と、その前で腰を抜かす冒険者さん達。


「はい。今のうちに、逃げちゃおうねぇ~。」


ウルシュ君に片手で背中を押されて、もう一度走り出す。


「・・・・・・。ウルシュ君。」


「なぁに?」


「さっき、鞭は人に当てない常識は有るって話、していなかったっけ?」


「大丈夫!”当たらなかった”から。」


「あぁ!あの人達に、当ててないんだね。良かったぁ~、驚かせて足止めしただけね。当てて恨みを買うと大変だもんね~」


「そうだねぇ~。」


でも、足止めには威力が大きすぎるよ。

あの石畳、どうするんだろう?


ん?


「ウルシュ君、鞭の威力にしては大きすぎない?力強いの?」


「僕、力は強くないよぉ。この鞭、錬金術の練習で創ってみた『マジックアイテム』だから、特殊効果が付いているんだよねぇ。」


ウルシュ君・・・・。

君の『魔改造アイテム』の製作は、すでに始まっているんだね。


※ジャマダハル:別名ブンディ・ダガー。19世紀頃までインドで使われていた武器。メリケンサックに短剣が付いたような形状で、刺す事に特化している。

※ミスリル:ファンタジー鉱石。銀の輝きが有り、鋼をしのぐ強さが有る。希少。


感想有難うございます。

ウルシュ君が黒くなったのは、イザベラがスイッチで間違い無いです。

スネイブル家は宝物認定ロックオンしたと同時にファフニールみたいに成ります。

手に入れる為には何でもするし、奪われない様に牙をむき守ります。

ちなみに、スイッチは人とは限りません、物である可能性も有ります。

実際、ゲーム通りに進んでいたら、ウルシュ君の宝物は「金貨」になりました。

ウルシュ君がイザベラの髪を「金貨」に例えたのはその名残です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やらかしているのは誰か。全員……? ゲームのウルシュ君の宝物は金貨だったとの事で、金貨を守り望む腹黒商人はヒロインや攻略対象達に近付きモリモリ商品を売り付け大金を得てご満悦だったんだろう…
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