【閑話】スネイブル3兄弟
毎回【閑話】と言いつつ、【閑話】に伏線や伏線回収を入れているので、本編と言っていいのでは? と最近になって思い始めました。でも【閑話】とつけておく。
スネイブル家長男:ウォルター・スネイブル目線です。
いつだって人の持っている物が輝いて見えた。
特にその持ち主が、大切にしている物であればある程、素敵に輝いているのだ。
だから欲しくなる。
僕には四歳年下の弟がいる。名前はウルシュ。
ウルシュには可愛らしい婚約者がいて、その子の事をとても大切にしている。
ウルシュにとって婚約者のイザベラは唯一の『宝物』らしい。
僕の一族である『スネイブル家』は何故か、一度『唯一』と定めた『宝物』に、異常に執着する人間が多い。
『宝物』は『物』であるとは限らない。例えば『人物』だったり『行為』だったり、『概念』だったり。
曾祖父の『唯一』は『宝探し』だったそうだ。生涯を『ベノゲーデン帝国の皇族の墓地』や、『五百年前に殲滅されたリンレイ賊の隠し財宝』だとかを探す行為に費やしたらしい。
祖父の『唯一』は現在調査中。人の宝物って気に成るよね。
母さんの『唯一』は、『十歳以下の美少女または美少年』。美少年はもれなく女装させられるので、ほぼ『十歳以下の美少女』が好きだと判断して良いのではないかと思っている。
そんな母さんのせいで、僕は幼少期に女装をさせられていた訳だ。迷惑な『唯一』だよ本当に。
まぁ美少年だったから仕方が無いね。自分で言うのもなんだけど、僕は整った顔立ちしてるし。
ちなみに父さんは婿養子だから、この性質は持っていない。
この『スネイブル家』の『宝物』に執着して、手に入れる為にはなりふり構わないし、その邪魔をする者や奪おうとする者には容赦しない性質。さらに、やたらと『商会』の勢力を伸ばして荒稼ぎしている事をやっかまれて、僕の一族は『ファフニールの一族』と陰で呼ばれている。
僕にもいつか、なりふり構わず欲するような『宝物』が出来るのだろうかと思っているんだけど、今の所は『宝物』が出来そうな気がしない。
それよりも、人が持っている『宝物』が気になって気になって、欲しくてしょうがないんだ。
今、僕が気になっていて、欲しいと思っているのは、弟のウルシュの婚約者の『イザベラ嬢』。ただ公爵令嬢という立場を持っているから、不用意に手が出せないんだよね。
既にウルシュの『唯一』だから、奪おうとするとウルシュが何しでかすか分からないのも、手出しをし難くしている。
それと、もう一つ気に成っていて欲しくて仕方が無いのは、そのイザベラ嬢がキラキラした目で見上げている『ウルシュ』だね。まぁ僕の弟なんだけど。
初めのうちは、なんで弟のウルシュがこんなに婚約者から大切にされているのか、分からなかったんだよね。
目は細くて、開いているんだかいないんだか分かんないし。髪はフワフワもこもこして、まとまりが無くて動く度にふよふよしてるし。力が抜けるような間延びした喋り方しているし。身の回りに無頓着だし。有り得ない位に寝相が悪いし。どういう夢をみたらあんな風に、でんぐり返しに失敗したみたいな寝相になるのか不思議でしょうがないよ。
だけどイザベラ嬢が、そんなウルシュを好きだとか素敵だとか言って、大切に大切にしてキラキラして見るもんだから、弟がなんだかとっても素敵な良い物に見えて来た。輝いてるね。
あれだけ大事にされているんだから、良い物に違いは無いよね~。欲しいな~。
もう二人セットで貰っちゃっても良いかな?
イザベラ嬢は公爵令嬢だから『今は』手が出せないけど、ウルシュのお嫁に来たら公爵令嬢じゃ無くなって、商人の妻に成るわけだから、その辺の障害は減るよね。
その為には、障害に成りそうなものを片付けておかないと。
僕は窓の外を見つめたまま、斜め後ろに立つ、黒と白のロリータワンピースを身に纏った『末の弟』に声をかける。
「ウェズリー。頼んでいた件はどうなったかな?」
それに対して、もうすぐ九歳に成る弟は、縦ロールに巻かれた髪を弄りながら澄まして答える。
「現時点ではお父様とお爺様、どちらにも感づかれていませんわ。二人ともウォルターお兄様を警戒しているから動きやすくて助かります。でも元ハイド商会の職員とポールのガードが固くて、お父様の持つ『アレ』の在りかはまだ分からないの」
「母さんの方は?」
「大丈夫じゃないかしら。相変わらず薬で幼女に姿を変えて、少女を囲ってお茶会してるわ。お母様の心はいつまでも『子供の国』に閉じこもっていて、外の事なんてどうでも良いのよ。きっと何も気づいていないわ」
窓の外から視線を外し、弟のウェズリーと向きあう。
「他に分かった事はある?」
聞かれたウェズリーは手袋をした手で、白銀の縦ロールをひるがえし、深紅の瞳を細めながらニヤリと笑った。
「お爺様の『唯一』は『アレ』で確定だと思うわ。曾お爺様が『宝探し』をしている時に手に入れて、お爺様に託したのが『アレ』みたいよ。ただ、お爺様がどこに隠しているのかサッパリだけど。更に怪盗『無貌の怪人』を名乗っていた頃のポールが、お爺様に返り討ちにされて捕らえられた時に狙っていたのも『アレ』みたいね」
「父さんが各国を巡って集めて来た『アレ』の最後の一つを、お爺様が持っているというわけだね」
「お父様とお爺様、二人が牽制し合っている所に、ウォルターお兄様が不審な動きをしているから、気が気じゃないみたいね。ところで、ここまでの情報を手に入れた報酬は頂けるのかしら? お兄様?」
「もちろん。カラカ共和国で半年前に討伐された大海蛇『クリスタルスネーク』の鱗を手に入れたよ。ブルーの透明な鱗で、光の当たり方によって表面の色の見え方が変わるんだ。今回の報酬はそれで良いかな?」
「まぁ!! 素敵!! 嬉しいわ、お兄様。他に『綺麗な魔物の素材』が見つかったら手に入れておいて頂戴!! あと、コレクション用の標本箱が足りなくなって来たの。壁にかける額縁みたいなガラスケースがあったでしょ? アレもね、もっと欲しいわ!!」
「分かった。用意しておくよ。クリスタルスネークの鱗は、タオ爺に預けてあるから貰っておいで」
「ありがとうウォルターお兄様!! 大好きよっ!!」
そう言って、喜び勇んでウェズリーは部屋を飛び出して行った。
末の弟、ウェズリーは現在『綺麗な魔物の素材集め』にハマっているらしい。九歳にして、コレクションルームを持っている。そこには図書館の様に沢山並んだ棚の中に、魔物の種類別に標本箱が重ねて積み上げられている。もうすぐ標本箱を置くところが無くなるだろう。
ただ、それは『唯一』では無く、あくまで趣味らしい。ウェズリーはこれから先、一体何を『唯一』にするのだろう。
それは置いといて、今回ウェズリーが持って来た情報について考えよう。
ウェズリーが持って来た情報は、僕自身が手に入れた情報と、他に頼み調べさせていた情報と一致している事から、ほぼ合っていると思って良いだろう。
曾祖父が『リンレイ賊の隠し財宝』を探している際に、知り合ったトレジャーハンターから買い取った『魔宝石と思われる謎の宝石』。それを祖父が譲り受け、『宝物』として現在まで大切に守っているらしい。
祖父は父と性格が似ている僕の事を警戒している様で、祖父は自分の死後、その宝石を跡取りの僕では無く、弟のウルシュに託したいようだ。
だが面倒な事に、どうやら父さんがその宝石を狙っている様子。
父さんが狙っている魔宝石をウルシュが引き継いだら、本当に面倒だ。
僕の望む『弟夫婦を手に入れて囲って、両手に花』な未来設計に、魔宝石を狙う父親が邪魔になる。
だから、その魔宝石は僕が全部横から掻っ攫って、貰っちゃおう。
だって宝石の名前も僕にピッタリじゃ無い?
『略奪王の欠片』。全部で五つに分かれて、立体パズルみたいになった魔宝石。
嘘かホントか知らないけれど、大昔に別の大陸にいた、『魔王』が十個に分かれたうちの一つ。
確か僕が聞いた昔話だと、十個のうち七個の欠片は人の肉体を手に入れて、旅の途中で疲れて好きな土地に人として暮らし始めた。だけど、十個のうち二個は余りにも持っている力が大きすぎて、人の肉体を手に入れられなかった。だから普段は魔法石の中に精神を宿らせていて、魔宝石を手にした持ち主に力を貸す代わりに、時々その持ち主の身体を借りて人の世界を楽しんでいた。だったかな?
その内、その魔宝石の持つ力を恐れた人々が、二個の魔宝石のうち一つは封じて、一つは五つに割って大陸中に散らばせたってね。
どこまで本当か知らないけど、そのバラバラに成ったはずの魔宝石『略奪王の欠片』と思われる宝石が、五つともスネイブル家にあるなんて凄いよね~。
凄いのは大陸中を巡って、四つ集めた父さんだけどね。お疲れ様でした。
頑張って集めたところ申し訳ないけど、ソレ、僕が貰うね。
あと、お爺様が後生大事に守って来て、ウルシュに託そうとしている最後の一欠片も、僕がウルシュの代わりに引き受けるよ。大切にするから安心してね。
さて、『宝探しゲーム in スネイブル家』の始まり始まり~。
略奪王:十戒。「汝、盗むなかれ」から。
ウァレフォル:盗賊と関連の深い悪魔。盗みをするように唆す。
あと、「こいつら誰?」って思う人がいるかもなので、念のため。
ウォルター・スネイブル:スネイブル家長男(19)。ウルシュの兄。白髪に金目。弟夫婦の間に割って入りたい迷惑な男。幼少期母親に女装させられていたが、現在は素人目にも胡散臭さが滲み出ているイケメン。(どうでもいい情報だけど幼少期からずっと長髪で、腰まで伸ばした髪を緩い三つ編みにしている)
ウェズリー・スネイブル:スネイブル家三男(8)。ウルシュの弟(初登場)。白銀髪に赤目。もうすぐ9歳。母親により女装させられている。縦ロールに黒のゴスロリワンピースで、見た目が悪役令嬢。