大丈夫なんで案内して下さい!!
ふはははは、我は地獄の底から何度でも甦るぞ!!
※訳:あけましておめでとうございます。更新が遅くなりまして、誠に申し訳ございません。大変お待たせいたしました。ようやく今年初めの更新をお届けさせて頂きます。それでは今年もよろしくお願いいたします。
このフォーチューンクッキーの中の占い内容が、【魔王の手記】に繋がるロックコードのヒントだとする。
となると残りのヒントは5つ
・錆鉄御納戸色
・裏側
・パンチラ
・スピード違反
・十五段のくすんだ金色の梯子
『裏側』と『パンチラ』と『スピード違反』に関しては、サッパリなので後回しにしよう。
次に分かりやすそうなのが『十五段のくすんだ金色の梯子』と『錆鉄御納戸色』とかいう謎の色なんだけど……
この『錆鉄御納戸色』が読めない。
「ねぇ、ナビィさん。これ、なんて書いてあるか読める?」
『残念ながら、書籍以外の物に関する文字認証には、対応していません』
残念。ナビィさんの協力は得られないと言う事か。
これが読めないと、ナビィさんに検索かけて貰う事が出来ないんだよなぁ。
「なんて読むんだろう? 『さび』、『てつ』までは多分合ってると思うけど……次が『ごのうど』? 『おなんど』? いや『おのうど』かなぁ?」
そう一人呟いて唸っていると、座っているソファの背もたれに誰かが手を置いた。
ナビィさんかと思って振り返らず占い用紙をにらんでいると、背後から優し気な少女の声が降って来た。
「それ、『さびてつおなんどいろ』って読むんですよ」
日本語だった。
慌てて椅子から立ち上がり振り返ると、ソファの背もたれの向こう側に、眼鏡をかけた少女が立っていた。
黒髪に黒い瞳、黒い髪は首の横の方で二つ結びにしてある。深緑のブレザータイプの制服に身を包んだその高校生くらいの少女は、多分、いやきっと『日本人』だ。
だって、その制服知ってる。
前世の地元の有名な進学高校の、新しくリニューアルした制服だ。リニューアルって言っても私が前世で死ぬ二年前くらいの話だけど。
私にゲームを紹介してくれた友人の妹が、その新しい制服目当てに受験勉強頑張って、無事合格してその制服をお披露目してくれたのだから。
でも、なんで異世界の禁書庫に『日本人』が?
いや待てよ。ここのロックコードや占い用紙が日本語なのを考えると、そこまで不思議では無いのか?
混乱している私に、少女は困ったような表情で小さく頭を下げた。
「急に話しかけて、ビックリさせてごめんなさい。ここで知らない人に会うのは初めてだったから、嬉しくなっちゃって、思わず話しかけてしまったんです」
「あ、いや……うん。こちらこそ、ごめんね。他に人が来ると思っていなかったから……」
それも日本の女子高生がやって来るとは、誰が想像したであろう。
「いえ、急に話しかけた私が悪いんです。あ……海外の方ですか? 日本語お上手ですね」
なんか褒められた。確かに今の私は西洋人の少女だけど、前世で日本人を二十八年間やっておりましたので。
ただ、日本語を喋る機会が無いまま、十四歳に成ったので、少し日本語の発音忘れてカタコトになっている。
しかし前世云々(ぜんせうんぬん)と言っても、信じて貰えないだろうし、外国人として自己紹介をしておこう。
「褒めてくれてありがとう。えっと、初めまして。私はイザベラと言います。イザベラ・アリー・ロッテンシュタインです。人からはベラとかイザベラとか呼ばれてます」
公爵家三女とかは言う必要はないだろうと判断して、名前だけを名乗る。
「ご丁寧にありがとうございます。私は間城 優歌です。間城が苗字で優歌が名前です。皆からは……『委員長』って呼ばれてるけど、好きに呼んでくださって大丈夫ですよ」
優歌ちゃんは『委員長』らしい。
確かに見た目的にも、委員長ぽいなぁとは思っていたよ。
とりあえず、日本人の禁書庫仲間が出来たようだ。嬉しい。
あ、そう言えば、さっきこの占い用紙に書いて有る色の名前について教えて貰えたな。
ただ驚いてしまって、教えて貰えた色の名前を忘れてしまった。
「あの、スミマセンが、この色の名前をもう一度教えて貰っても良いですか?」
「いいですよ。その紙に書いてある色の名前は『さびてつおなんどいろ』って言って、ほぼ黒に近い灰色なんです。限りなく黒に近いから、灰色って言っても良いのか分からないんですけど……お力になれましたか?」
「はい!! とっても!!」
なるほど、さすが進学校の委員長なだけあって博識だ。これでロックコードに近づけるよ。
気分が良くなって、ご機嫌で指を鳴らしてナビィさんを召喚する。
「カモン!! ナビィさん!!」
『はい、何かお探しですか?』
「ナビィさん『さびてつおなんどいろ』に関する書籍はありますか?」
『「錆鉄御納戸色」に関する書籍は三冊、資料が二冊、色見本帳が四冊、表紙が「錆鉄御納戸色」と思われる書籍が五十二冊見つかりました』
表紙の色まで検索対象に含まれるのか。
あと『「錆鉄御納戸色」と思われる』って言う事は、はっきりと『錆鉄御納戸色』ではないんだろうな。
国によって色の名称が違ったりするから、その辺は致し方ないとして、合計六十一冊か。
ロックコード探すのに骨が折れるなぁ……。
でも、少しずつ近づいて来ている訳だ。
改めて『委員長』にお礼を言おうと、振り返る。
「『委員長』さん、本当にありが………あれ? 居ない」
振り返るが、そこに『委員長』の姿は無かった。
グルリと禁書庫内を見渡す。上を見上げて梯子に居ないか探すが、どこにも『委員長』の姿は無い。
現れた時と同じように、急に居なく成ってしまった。
そこで、『錆鉄御納戸色』に関する書籍を揃えて現れたナビィさんに、『委員長』について聞いてみる。
「ねぇ、ナビィさん。さっきここに居た『委員長』…じゃ無かった、え~と『間城 優歌』さんはもう帰っちゃったの?」
『質問内容が理解できません』
「えー。今、ここに『間城 優歌』さんが居たでしょ、彼女帰ったの?」
『今、ここに居る利用者様はイザベラ様だけです』
「今はそうかもしれないけど、さっきの話だよ」
『イザベラ様が禁書庫に来られた時から、現在まで、利用者はイザベラ様の一名だけです。他の利用者の入室は確認されませんでした。さらに「間城 優歌」および「委員長」という名前の利用者は登録されておりません』
………ホラー再び。
もう無理。さっきからチョクチョク起こるホラー展開を出来る限りスルーしてきたけど、もう無理。
禁書庫で一人で調べものとかもう無理。一人でいたくない。
ウルシュ君が必要。私は今ウルシュ君成分が必要。癒しのウルシュ君をすぐに補給しないと、SAN値がもう限界。
「ナビィさん。ちょっと禁書庫から出たいんだけど……」
『本日のご利用ありがとうございました』
次の瞬間、私は元の噴水の縁に立っていた。
ナビィさん!! 急だよ!! 愛想も素っ気も無く追い出して来たよ!!
いや、出られたならそれで良い!! ウルシュ君、ウルシュ君に会いたい!!
ウルシュ君に会ってクンカクンカ匂いを嗅ぎたい!! 精神が追い詰められて、ウルシュ君に関する禁断症状が出て来ている。
禁書庫に入る時とは違い、周囲の音は戻って来ているし、噴水から離れる事も出来る。
マリエタと話? そんなのは後だっ!!
確かウルシュ君は、今日も錬金術科の地下でなんやかんやするって言っていた気がする!!
目指すは錬金術科!! 最優先事項はウルシュ君の補給!!
ダッシュで錬金術科に駆けだした私の背後で、ミリアーナの呼びかける声が聞こえたけど、無視させてもらうよ。今はそれどころじゃ無い。
風に成りながら敷地内を駆け抜け、飛び込んだ錬金術科の地下で、ウルシュ君の姿を必死に探す。
そんな私に、錬金術科の先輩が話しかけてきた。
「あ、ウルシュの婚約者の人だ。どうしたの?」
「本当だ、ウルシュ君の奥さんだ。何か急いでいるの?」
これ幸いとウルシュ君の居場所を聞くが、押し留められた。
「あーー。ウルシュなら、連日徹夜で作業してたから、流石に眠くなってソファで仮眠取ってるけど……起こして来るからちょっと待ってて貰える?」
寝てるの? ウルシュ君が寝てるの? 起こしちゃ駄目だよ!!
ただでさえ作業に没頭して中々寝ない、十五歳のウルシュ君の寝顔を見る機会なんてレアなんだから、この機会は逃せない。
「起こさなくて良いですっ!! 寝かせといて良いんで、案内して下さい!!」
「いや、あいつ……本当に、きったねぇ寝方すんだよ。婚約者にあんな姿見せて、幻滅されようもんなら、案内した俺らが殺される」
汚い寝方するの? 汚い寝方ってどんな? 逆に見たいんだけど!!
「良いです!! 歯ぎしりしてても、イビキ搔いてても、よだれ垂れてても大丈夫なんで案内して下さい!!」
そこでしばらく押し問答が続き、私の押しに折れた先輩が渋々案内してくれた。
誰が案内したのかは、ウルシュ君には絶対秘密だと言う事を条件に。
そんなに慎重に成らなくても大丈夫だよ。
私、ウルシュ君なら、寝ながらオナラしてても『かわいい』って笑って許せるからっ!!
ソファで仮眠しているウルシュ君は、色々凄かった。
ソファの肘掛に頭、と言うか肩甲骨辺りを乗せて(?)、万歳した状態で若干、反っている。ふふ…落ちそう。可愛い。
更に片足は背もたれの上へ。
いつも履いているブーツはその辺に脱ぎ捨てられている。
ブーツを脱ぐ時に一緒に脱げかけたのか、それとも寝ている間に少しずつ脱いだのか、靴下がつま先の辺りまで脱げて、ブラブラとぶら下がっている。もう少しで完全に靴下が落ちそう。きゃわいい。
そして何より、上着の前が全開だ。寝苦しくて寝ている間に外したのか、上着がクシャクシャになっている。鎖骨も胸もお腹もおへそも丸見えだ。たまらねぇ。うへっへ。
「婚約者さん。近くない? 引き剥がした方が良いかな?」
「やめとけ」
「ウルシュの婚約者って、公爵令嬢だったよな? すっげぇ鼻息荒く、舐める様にウルシュみているけど、ほっといて良いのか?」
「ほっとけ」
「公爵令嬢なのに、目を見開いて、鼻の下メッチャ伸ばしているけどあの状態で放置して本当に良いのかよ? 一応、外聞とかさ」
「かかわるな」
「なんでウルシュって、さえない見た目なのに、あんなに美少女の婚約者に愛されてんだ?」
「美少女か?」
「いや、言動がアレだけど、見た目だけは美少女だぞ。多分。きっと。うん」
なんか後ろでヒソヒソ聞こえるけど、無視だ。私はウルシュ君の摂取に忙しい。
ウルシュ君が寝ているのを良い事に、首筋の匂いでも嗅いじゃおうかなぁ、と少しずつウルシュ君の頭の方に接近する。
………そこで寝ているウルシュ君に捕獲された。
まさかウルシュ君が起きたのかと、捕獲されたまま硬直する私と周囲の緊張をよそに、ウルシュ君は私をガッチリ捕獲したまま寝息を立て続ける。
寝てる。私をガッチリ掴まえたまま寝てる。
ウルシュ君が起きなかった事に安堵のため息をひっそりとついた時、そのまま眠ったウルシュ君が私をソファの上に引きずり上げて、両足を使いガッチリと私をホールドした。
私は今、ウルシュ君の抱き枕状態である。ウルシュ君暖かいナリ。
重なり続けたホラー展開に弱っていた所に、ウルシュ君の一連の寝相でとどめを刺され、私の意識は遠のいていく。
「ぎゃあ!! 公爵令嬢が鼻血吹いて気絶したぞっ!!」
「まじか公爵令嬢!! 公爵令嬢でも鼻血出んのっ?!」
「誰か!! 『鼻紙』か『ティッシュ』か『ちり紙』持って来い!!」
「どれも一緒だろうがバーカ!!」
「いいから早くっ!! 公爵令嬢のこんな姿晒しておけるかっ!!」
「………おい、ウルシュ。お前さっきから起きてるだろ?」
「寝てるよぉ」
※間城 優歌 : 命名ユン様。キャラ名のご提供、本当に有難うございました。