【日本語】だったんだけど
ナビィさんが見つけてくれた三冊の本を受け取り、膝の上に置くと、再びナビィさんはスッと姿を消した。
とりあえず、疑問を口にするのは止めよう。検索だと判断したナビィさんに驚かされてしまう。
さて、膝に乗せた本に視線を落とす。
いつの時代の本なのかは知らないけど、新品同様で保存状態はとても良かった。
重ねた本の一番上の本を開く。
どうやらこの本は、特殊な条件でスキルを取得した場合の、スキル効果に関する論文をまとめた物のようだ。
その中で《料理人》スキルの項目を開く。
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■ 特殊条件で《料理人》スキルを取得した際の、特殊作用に関しての考察
基本、《料理人》スキルとは『料理』をする者が後天的に取得する職業スキルであり、『料理』をしない者が取得する事は無いと言われている。
この時『料理』と言うのは、『調理器具』を使用し、食材の下ごしらえや味付けといった様々な経緯を経て食事を作る、『文明的な行為』を指す。
《料理人》スキルは『料理』を極めている者が得るスキルであり、実際に作った事のある料理の種類や、作った量にも影響される。さらにそこに盛り付けなどの要素も取得に影響するといわれる。
しかし稀に、『調理器具』が発達していない地域の部族や民族の中に、《料理人》スキルを所持している者が現れる事がある。
これまでは、ただ『焼く』、ただ『茹でる』といった経験だけでは《料理人》スキルが所有できないとされていた。
しかし、この特殊な例を考察するに《料理人》スキルの取得方法に、これまで知られていなかった方法も存在するのではないだろうか。
調理器具が発達していない地域で、《料理人》スキルを取得した者のスキル効果を検証した結果、次の様な報告が上がっている。
・これまで、文明的な調理器具を使用しないで《料理人》スキルを取得した者は、高確率で料理中に魔法を使用している。
・通常であれば調理しないような、未知の食材を使って料理をする探究心を持っている。
・使用した事がない『調理器具』を使用して調理した際、高確率で失敗しヘドロに成る。
・失敗した際ヘドロに成るが、《料理人》スキルの効力の為か、不味くはならない。
・《料理人》スキルが高レベルである程、『調理器具』の熟練度は上がらない。
・《料理人》スキルが高レベルである程、『調理器具』を使う工程を一度でも入れると失敗しやすい。
(中略)
このタイプの《料理人》スキルの所持者が作る料理は、職業として料理をしている《料理人》スキルの所持者の作る料理に比べて、特殊効果が付与されている事が多い。
付与される効果は、『一定時間経験値上昇』『一定時間防御力上昇』『一定時間自然治癒力上昇』といった物が多い。
この理由としては、彼らは未開の地で狩猟を生業にしている事が多いため、生活環境によりスキルが特殊な進化を遂げているのではないかと予想される。
(以下略)
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う~ん。難しい。
でも料理が失敗するとヘドロ状に成ると言うのは、私の状況に当てはまる。
次の本は冒険者達が取得したスキルの、特殊なケースについての物だった。
内容は、先程の物とほぼ変わらず、『調理器具がない未開の土地の住民』という部分が『調理器具が無い状況下で、料理をしていて《料理人》スキルを取得した冒険者』と変わっているだけだった。
うん? 調理器具を使わず、調理中に魔法を使っている冒険者?
今、何かが記憶の端に引っかかったような? 思い出せない。まぁいいや。
三冊目は、昔の偉人のビックリエピソード集のような物だった。
昔、牙楼帝国に存在した女帝が料理下手で、作った料理が全てヘドロに成ったと言う話だ。
ちなみに大規模な魔物討伐戦にて戦場で料理をすると、何故か成功していたらしい。
う~ん……コレ、戦場では『調理器具』を使わなかったっていう可能性が出て来たぞ?
さて、私の場合はどうだろうか?
私は前世の記憶を取り戻した時には、既に《料理人》スキルを持っていた。
ちなみに記憶を取り戻す前に料理をした記憶は無い。
普通は公爵令嬢は料理なんてしないし、ダイモン兄様から野外での調理を教えられた記憶は無い。
だからゲームのステータスが反映されていたんだと思うんだけど……、私ゲームでどうやって《料理》スキルを鍛えたんだ?
確か《料理》スキルが《料理人》スキルに進化したのは、何かしらの料理イベントの時だと思うんだけど。
と、いうかゲームだから、実際に調理している訳で無いし『調理器具』を使って無くて当然なんだよね。
ゲームでの料理は簡単。
①イベントやミニゲームの初めにレシピを貰う
②そのレシピで指定された食材を、指定された数だけ集める。
③『調理開始』のボタンをクリック。
④指定された時間を待つ。
⑤指定された時間が待てない場合、『時短砂時計:調理用』をウルシュ君から購入し、それを使う。
⑥時間が経つと、お皿に綺麗に盛り付けられた状態で完成する。
⑦料理を指定数作り、ポイントを貯めて、次の料理のレシピを手に入れる。
この②~⑦を繰り返す訳だ。
もちろん『調理器具』なんてないし、もっと言えば『料理を盛る皿』も持って居ない筈なんだ。
なのに、完成時には作った料理に相応しいオシャレな皿に盛りつけられて、集めていない筈の食材が飾りつけや付け合わせとして、一緒に盛り付けられて居たりする。
……まぁゲームだし。
コレを現実でやるとしたらどうすれば良い?
安全な水なんて無さそうなステージもあったから、全て魔法で賄うしかない。
ウォーターボールで水出して、ファイヤーボールで焼いて?
包丁なんてアイテムは無かったから、短剣や小刀で野菜を刻む?
すり鉢やすりこ木なんて持ち歩く筈が無いから、そこら辺の物か、持っている何かで代用。もしくは素手で粉砕する。
皿は? その辺の土を捏ねて焼く? いや無理だろ。錬金術ならどうにかなるかもしれないけど。
あ、皿は『調理器具』じゃないから、そこらで買っても良いのか?
あー…。なんか魔法の威力さえ制御出来る様に成れば、出来る気がする。
むしろ今のイザベラとしての私なら、普通に調理器具使うよりも、その料理のやり方の方が上手く行く気がする。
とりあえず、一工程でも『調理器具』を使うと失敗する。コレを覚えて帰ろう。
そう言えば、焼き鳥作るときも包丁とまな板使ったし、塩や胡椒をかける時にもミルを使ったな。
千切って盛るだけのサラダも、野菜を洗う時とドレッシング作るときに、ボウルみたいなの使ったわ。
スープを作るときには鍋使ったしなぁ…。鉄の兜などで代用すれば良いのか?
とりあえず、戻ったら検証してみよう。
料理がちゃんと成功したら、特殊効果が付与されるみたいだし、俄然やる気が出て来たよ。
将来ウルシュ君にちゃんとしたご飯を作るためにも、魔法の威力の調整を頑張ろう。
今までは漠然と魔法の威力調整を練習して来たけど、ウルシュ君のご飯の為だという目的が出来ると、気合の入り方が違うよね。
さて、ココなら色んな疑問が解消される気がしてきたぞ。
他にも気になる事は……。いっぱいありすぎてどの疑問から調べようか。
そう言えば、この禁書庫にはどの位いられるんだろう? ってか帰れるのか?
これはナビィさんに聞いた方が良いかも知れない。
「え~と。ナビィさんは居ますか?」
『はい。こちらに』
真横にスッと現れるナビィさん。今回は前もって出現するのが分かっていたから、驚かないよ。
「ここにはどの位いられるんですか? あと帰り方と、再び来る事は出来るのかを知りたいんですけど」
『一度禁書庫に来られた方は登録され、利用者カードが発行されます。そちらをお持ちの方は出入りが自由ですが、利用者カードはご本人様しか使用できません』
「カードってどんな物ですか?」
『ステータス上に利用者カードが登録されます。既にイザベラ様には発行済みです』
名乗って無いのに名前を知られている件。ナビィさん怖い。
さらに勝手にステータスをいじられて、利用者カードを付与されてる。ナビィさん怖い。
『禁書庫に来る方法と出る方法は、ステータス上の利用者カードのアイコンを選択して下されば、どこからでも来ることが出来ます。その代わりここにある書籍の持ち出しは出来ませんので、閲覧したい時は毎回足を運んでもらう事に成ります』
まぁそうだろうね。『禁書庫』だから持ち出しは厳しいね。
「外と時間の流れに差があったりするの?」
『この真なる禁書庫は「存在し無い場所」ですので、時間と言う物も存在しません。来られた時とお帰りに成るときの時間は経過が無く同じです』
ちょっと意味が分からないけど、つまり来た時の時間に帰れるって事かな? どうなってんのその原理。
ただ、避難所には成らなさそうだ。
襲撃されている時に禁書庫に避難しても、帰った時も襲撃されている真っ最中って事だもんね。
さて、聞きたい事も聞いたし、ひとまずナビィさんには戻って貰おうかな。
あ、いや、待てよ。そう言えばもう一つ聞きたい事があるわ。
「ところでナビィさん。ここに来る時の呪文が【日本語】だったんだけど、日本語に関する書籍とか有るの?」
『最重要文書の閲覧に関する七つのロックコードの一つ、【日本語】を確認しました。利用者イザベラに対しロックを一つ解除します』
「え?」