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どういう状況だよ……

二十年前に世間を騒がせた怪盗については、この際おいておこう。

ウルシュ君も『問題だよぉ』と言っていた事だし、次回答え合わせをしてくれるのだろう。


とりあえず、私が今一番考えなくてはいけない事は、マリエタが戻って来た時に何から聞けばいいかと言う事だ。今思いつくだけでも数種類ある


①今回の火災事件の裏にいる『魔王崇拝集団』について。

②ループ時に得た情報について。とくにウルシュ君の事。ついでに並行世界でのイザベラの中身の入れ替わり説について。

③『王様の欠片』という童謡についてと、他にも似たような童謡を知らないかについて。

④世界が滅ぶ事に関しての、時期や原因など。


④の世界が滅ぶ原因に関しては、初対面の時に駅のホームで聞いた事がある。

たしかうろ覚えだけど『何度繰り返しても分からない。滅ぶ理由は同じだったり違ったり。でも、そこに一人の大賢者が関わっている事だけは、前回の人生で掴めた』みたいな感じだったハズ。多分。

なんだか分かるような分からないような感じだったから、もう少し情報が欲しい所。


滅ぶ理由が同じだったり違ったりと言う事は、ループのたびに滅ぶ理由が変わっていると言う事だから、その時の情勢とか聞けば原因が分かるんじゃないかな? 私じゃ無くてウルシュ君がね。

私はそんな推測は出来ないので、情報を集めたらウルシュ君にお願いするつもりである。


そんな事をつらつらと考えながら、聞きたい事リストのメモを脳内に貼っていると、正門の辺りが賑やかになって来た。

正門に向かって歓声をあげ、跳ね回りながら駆けていく生徒もいる。

どうやら保護されていた生徒達が、憲兵や騎士達に護衛されながら戻って来たようだ。


私達は乳児のベラを連れているので、集団から離れた所から様子を窺う。

戻って来た生徒達は、学院の敷地内に入るとそのまま解散になったようだ。護衛の騎士達にお礼を言って離れ、集まった生徒達にもみくちゃにされていた。


その集団のなかから、マリエタが知らない生徒達から笑顔で『おかえり、無事で本当によかったな』とバシバシと叩かれ撫でられ、もみくちゃにされながら出て来た。


その姿を見つけて、ベラを抱いたバーバラがマリエタへと駆けだした。その後ろをミリアーナが追いかける。

私もすぐ後を追いかけようとして、ふと思いとどまった。


マリエタは、まずは自分の娘の無事を確認したいはずだ。母娘の数日ぶりの再会に、そこまで親しくもない私が割って入るのはいかがな物だろうか?

母親としては、しっかりと娘との再会の時間を過ごしたいだろう。だけど私が駆け寄ったら、私への対応もしなくちゃいけなくなる。


うん。ちょっと空気を読んで、感動の再会がひと段落ついてから話しかけよう。

そう思って、ちょっと離れた所から親子の再会の様子を見守る。

周囲でも再会や無事を喜ぶ声が聞こえて来るので、私も何だか嬉しい気持ちで周りに視線を向けてみた。



ふと、違和感。



喜びに沸く声の中、その感覚がどうしても気になり、違和感の原因を探して周囲を見渡す。


良く知っている場所だ。ここ何日間かで何度も通った正門。

それ以上に前世でよく見ていた正門だった。ゲームのログイン時にオープニングサウンドをBGMにして、『Now Loading…』の文字と共に、延々と見せられる正門だ。アップデート後とかでダウンロードとか有ると、親の顔よりも見てるんじゃないかと錯覚する程に見せつけられる、時間喰らいの正門だ。


ゲームの画面では外から正門を見ている。そして正門の向こう側には広場があり、広場の中央には花に囲まれた噴水と、噴水の中央辺りの空中に、キラキラと光り輝くクリスタルが回転しながら浮かんでいるのだ。


そこまで思い出して、違和感に気が付く。

ここ数日確かに、噴水の上でクリスタルが回転していた。と、いうか今朝ローブを受け取りに、ウルシュ君と通った時にもクリスタルはあった。

と、いうかミリアーナと怪人について話していた時にも、視界の端にクリスタルがあった気がする。


だけど、今、噴水の上空にクリスタルが無い。

その代わりに、片手で口元を可愛らしく隠したフェアリーの白い石像が回転している。石像は真っ白過ぎて光を浴びて眩しい程だった。トンボの翅の様な部分は、薄く削ったクリスタルだろうか、光を乱反射して普通に眩しい。

石像のフェアリーはシンプルなワンピースをなびかせ、肩までのフワフワの巻き毛は綿菓子のよう。つま先を伸ばし、自由に両足と片手を広げた姿は、回転している所為もあって、楽しそうに飛び回っているようにも踊っているようにも見えた。


とても可愛らしい石像だ。突如として出現していなければ、だ。


なにあれ怖い。なんで急に現れたの? 何かのシークレットイベントか何かか?

他に誰か気付いていないか周囲を見渡すが、みんな再会を喜び合っていて気付いた様子は無い。


恐る恐る近づいてみる。やっぱりどう見ても、いつものクリスタルじゃ無い。まぁ遠目から見ても明らかに違うんだけど。


ウルシュ君を呼んでこようかな? でも呼びに行っている間に、出現した時と同じように、急に消失する可能性も有るし、どうしよう?


よし、とりあえず、ネックレスでウルシュ君に連絡を入れて、対応を仰ごう。

私はネックレスを握りしめ、ウルシュ君に通信を試みた。


「コール、ウルシュ」


直後、大きな耳鳴りが襲う。


長い様な短い様な耳鳴りが通りすぎると、周囲は無音に包まれた。


驚いて周囲を見渡す。


皆、ちゃんと居る。


相変わらず笑顔で喜びあっている。


離れた所では男子生徒の胴上げが行われていた。


駆けまわってバカ騒ぎしている人達も居る。


そして、ベラを抱いたマリエタはバーバラ達と何やら楽しそうに語り合っている。


だけど、何も聞こえない。

ハッとして握りしめたネックレスを見下ろす。私が聞こえないだけで、ウルシュ君が返事を返してくれているかもしれない、と思ったが、ネックレスは作動していなかった。


もう一度、通信を試みる。


『コール、ウルシュ』


だけど、聞こえてきた自分の声は、まるで水中で音を聞いているみたいにくぐもり良く聞こえない。

ネックレスも作動していない。


どうすれば良いか分からないが、まずはマリエタやバーバラに異常事態を知らせようと、彼女達の方へと向かう。

だけど、まるで目に見えない『こんにゃく風ゼリー』の壁でもあるかのように、全く前に進まない。


原因はなにか? 

そんなの、突如として現れたフェアリーの石像しか思い当たらない。


もう一度、フェアリーの石像に視線を戻した。

噴水の水が、フェアリーの翅が乱反射する光を浴びて光っている。

立ちすくんで石像を見つめていると、少女の歌声が響いて来た。噴水の中から聞こえているようだ。





ヘルバンダーニャの山の上 寂しい王様おりました


ヘルバンダーニャの山の上 独りで王様おりました


王様山から降りません それでも誰より物知りで


王様両手を組んだまま それでも誰より強かった


王様瞼を開けません それでも誰より見通して


王様声を出しません それでも誰より魅力的


ヘルバンダーニャの山の上 寂しい王様おりました


ヘルバンダーニャの山の上 独りで王様おりました


ある日空から聖騎士が 王様助けにやって来て


王様十個に分けました


ヘルバンダーニャの山の下 優しい聖騎士消えた時


ヘルバンダーニャの山の上 十個の王様嘆きます


遠い遠い海の向こう 十個の王様旅に出て


七個は地につき 二個消えた


ヘルバンダーニャの山の上 強い王様おりません


ヘルバンダーニャの山の上 独りの王様おりません







唄が違う!! 


唄の内容をしっかり覚えていた訳じゃ無いけど、それでも確かにマリエタから聞いた物とは、唄の内容が部分的に違っている!


これは絶対に何かがある。

だけど今の状況では、ウルシュ君に連絡が付けられないし、謎の見えない壁が邪魔して噴水から出られない。


原因をどうにかしないと、身動きが取れないと言う事か。


しばらく考えたけど、現状をどうにか打破できるようないい案は出て来なかった。そもそも私、そう言うの考えるの苦手だし。


もはや、噴水を調べる以外に打てる手は無し!! 多分! 他に思いつかないっ!!


覚悟を決めて噴水に向かって駆けだす。

マリエタ達の方へと向かった時とは違い、何の抵抗も無く走れた。


そして噴水の周囲の花を跳び越えて、噴水の縁に立つ。

こんな行動をしているにも関わらず、周囲の人達は私を一瞥もしなかった。どうやら私は他の人達の意識から外されている様だ。


私は噴水の縁に沿って歩き、フェアリー像と噴水を観察する。

ぶっちゃけ、観察しても何も分からない。


何度かフェアリーと噴水を交互に見ていると、水面に光る文字が浮き上がってきた。


懐かしい文字だった。【日本語】だ。


ゆっくりと浮きあがって来る文字を、声に出して読む。


「『私の味方になれば、世界の半分をお前にやろう』って、どこの竜王のセリフだよっ!!」


読み上げて、内容に思わずツッコミを入れた時には、私は噴水に一瞬で浮かんだ魔法陣の中に吸い込まれていた。








気が付くと、私は水が滴り落ちる洞窟の中に居た。

誰もいないのに、思わず呟く。


「どういう状況だよ……」



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― 新着の感想 ―
[一言] 怒涛の展開ですね…
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