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そうだね

夕方になりウルシュ君と別れ、マリエタを含む騎士団に保護された生徒達が戻って来るのを正門で待った。

待ちながら、ウルシュ君が言った言葉を反芻する。


『まぁ、これは僕のお爺さんがそう思っているって言うだけで、確実では無いんだけどぉ、一応そういう疑いもあるんだよぉって言う話ねぇ。だけどできれば、僕の居ない所でウォルター兄さんや僕の父さんが接触してきた時は警戒しといて欲しいなぁ。と言うよりも、出来れば僕の居ない所で会わないでねぇ』


『今はっきりしていて、イザベラに教えて良さそうなのはこの位かなぁ。あとは「無貌の怪人」が誰に従っているのかが分かれば、ハッキリするんだろうけどねぇ』


『え? 「無貌の怪人」が誰かって? イザベラも良く知っている人のあだ名だよぉ。有名人だから知っている人も居るかもねぇ』


結局ウルシュ君は『じゃあこれは問題にしとくからぁ、答えが分かったら教えてねぇ』と、笑って教えてくれなかったけど、誰の事だろう?


そんな事を考えながら、周囲を何となしに眺める。正門の周りには、私の他にも出迎えるために集まった生徒達が、少しずつ集まって来ていた。中には名前が書かれたスケッチブックを抱えている生徒もいる。たぶん戻って来る生徒の知り合いだろうか。まるで空港で知り合いを出迎える人みたいだな、と眺めていると、背後から肩を叩かれた。

振り返るとそこに居たのは、ベラを抱いたバーバラと、その姉のミリアーナだった。


「バーバラとミリアーナ! 二人もマリエタを出迎えに来たの?」


そう声をかけると、バーバラはツンっと顎を上げて答える。


「当然じゃ無い。娘のベラを預かっているのよ。母親とすぐに合流させるべきだわ」


そんなバーバラのツンツンな態度に苦笑いをしながら、ミリアーナが私の前に出て来た。


「久しぶりだねイザベラ。五年ぶりくらいかな? あの『ブラッディドール事件』のときは、姉妹共々本当に世話になったよ。君とウルシュは私達の命の恩人だ。ここで再会できた事を嬉しく思っている。そして、私達とマリエタの関係をやり直す機会をくれた事にも礼を言いたい、ありがとう。これからの学院生活で改めて二人と交友を深めて行けることを期待しているよ」


そう言ってミリアーナが私に片手を差し出して来たので、その手を取って握手を交わす。


ちなみに『ブラッディドール事件』と言うのは、ウルシュ君とディアナ王国に逃避行した際に、このバーバラ・ミリアーナ姉妹と再会するきっかけに成った、連続美少女猟奇殺人事件だ。

再会と言っても、この姉妹は私達が『カラーズコレクター事件』の際に、二人の母親を離婚と再婚させて、ディアナ王国に引っ越すように手配した事は知らないんだけど。

とにかくその『ブラッディドール事件』に巻き込まれた彼女達と、たまたま事件解決する事になった私とウルシュ君は知り合いになったわけだ。


さらに言うと、ゲーム『ラブ☆マジカル』のVr.2のハント先輩ルートのストーリーイベントで、『ブラッディメイデン事件』と言う似た名前の事件が起きる。

まぁ、なんの事は無い。この二つの事件の犯人が同一人物ってだけだ。ディアナ王国で事件を起こしていた

犯人が、南下して来てこの国で犯行を起こす。その犯行に、ヒロインのマリエタが巻き込まれ、彼女とひょんなことを切っ掛けに一緒に事件を追う事になったハント先輩が、囮になるために合法ショタな見た目を利用して女装したり、一緒に囚われたりしながら恋心を育てていく展開になる。その際にハント先輩の性格も、世を儚む性格が改善されて男らしくなって行くんだけど、残念。その事件は私とウルシュ君で解決済みだ。ストーリーイベントは起きない。マリエタが子持ちになってるから、どちらにしてもハント先輩とのイベントは起きないだろうけど。


「そうだね、二人と交流を深めていければ嬉しいよ。バーバラとは同じ学科になった事だし、これから接する機会が有ると思うからよろしく。マリエタとの件については、私はただベラを預けられる知り合いが他に居なかったから頼っただけだよ。関係の改善については、部外者の私は何とも言えないから、これから三人で何とかしてね」


そう言うと、ミリアーナは前髪を描き上げながら、目を伏せて微笑を浮かべる。


「あぁ分かっている、これは私達姉妹の問題だ。それでもマリエタに謝罪をする良いきっかけをくれた事には感謝しているんだ。あとは私達で関係の改善にむけて努力していくよ。ところでイザベラは、今回の火災事件と謎の儀式事件を受けて、騎士学校の生徒が警備や見回りの訓練を兼ねて魔術学院に派遣され、二校の交流を深める事に成ったと言う事は知っているかい?」


「知らない」


「そうか。騎士学校は魔術学院とは違い、身元がハッキリしていないと入学できないからね。生徒とはいえ騎士の卵だからと魔術学院の警備に駆り出される事に成ったそうだよ。国の騎士達は魔獣や魔物の討伐や、治安維持に忙しく、魔術学院の警備に人数をけないと言うのと、年の近い魔術学院と騎士学校の生徒達で交流させて、卒業後それぞれの役割についても仲良くやっていける様に絆を深めて欲しいらしい」


そう、魔術学院は『魔力量が国の規定した数値を満たした国民は、強制入学(ただし冒険者登録をして活動をしている者は免除)』と言うのに対し、騎士学校は『身元が保証されている者、または、有力者や指定機関より身元が保証され紹介を受けた者』で、『騎士学校が設定した入学試験を突破出来た者』しか入学できない。将来、騎士や近衛騎士になる可能性を持っていることから、身元と実力がしっかり確認されるようだ。


私が前世の記憶を思い出す前から、ダイモン兄様が私に躾を兼ねた厳しい訓練を受けさせていたのは、私が魔力を持っていなかった場合、『騎士学校が設定した入学試験』を突破できるようにという目的があったらしい。

どうやら私に魔力が無かったら、ダイモン兄様によって騎士学校に放り込まれていた様だ。

ダイモン兄様と結婚し、次期ロッテンシュタイン公爵夫人になったマリンお義姉様いわく、ダイモンお兄様は常々『俺の末の妹なら、我が国初の女将軍も夢じゃ無い』と語っていたそうな。

いや、私女将軍なんて一度も成りたいなんて言って無いし、目指してないから。勝手に将来の進路を決めて訓練しないでくれよ。普通に貴族学校か王都女学院に入れる予定を立ててくれ。

まぁ結局のところ私には魔力があったから、魔術学院に入学する事に成ったわけだけど。あれ? それじゃ私ってば訓練され損なんじゃ……うん、まぁ、むなしくなるから考えるのは止めよう。


そんな、私がもしかしたら通ったかもしれない騎士学校は、魔術学院のお隣さんだ。三m位のレンガの壁と有刺鉄線で敷地を分けられている。

ミリアーナが言うには、そこから生徒が訓練を兼ねて、日中の警備に交代で通ってくれるらしい。しかし生徒と侮る事なかれ、脳筋国家の騎士学校の入学試験を突破できるくらいだから、実力は折り紙付きだ。『折り紙付き』の意味は知らないけど。


これは余談だけど、『ラブ☆マジカル』の攻略対象は全三部で隠しキャラを入れて十人だ。

Vr.1:クリス様(魔法戦士科)、ギース(魔術師科)、ブライアン(ゲームでは魔法戦士科:現実では騎士学校に進学)

Vr.2:ハント先輩(錬金術科の合法ショタ)、東方からの留学生の内の一人(魔法戦士科の武士。先輩)、魔法科の同級生(前髪で顔が隠れたオドオド系の美形)

Vr.3:騎士学校の教官、聖魔法科の同級生(鬼畜腹黒神官)、魔術科の同級生(委員長属性の真面目眼鏡)

隠しキャラ:攻略対象九人を攻略すると出現。遥か昔に別れた親友を探して彷徨う、二重人格の謎の男(たぶん不死者と思われる)


お分かりいただけただろうか? そう、Vr.3に生徒に攻略される教官が居ますね。他校の生徒と教官だからセーフとするのかどうかは人によるだろうけど。

騎士学校の教官と、ヒロインのマリエタが出会う切っ掛けなんだけど、Vr.3の時期から騎士学校の生徒が魔術学院の警備に参加する事になり、その関係で生徒の監督に来ていた教官と関わる事になるんだよね。

監督に来た立場なのに、なに他校の女子生徒と良い雰囲気になってんだよ。とは思わなくも無いけど、注目するのはそこじゃ無くて、騎士学校の生徒が警備に駆り出される様に成るって言う点だ。


前々から、この構想は両校の間であったらしい。それが今回の火災事件によって、前倒しに成った。


前倒しと言えば、マリエタいわく魔王崇拝集団が学院で火災事件を起こすのは、私達が卒業して数年後の予定だったらしいけど、それも前倒しになっている。その原因がどこかにあるはずなんだけど現時点では分かっていない。


話も聞きたいし、早くマリエタが戻って来ないかなぁ……。と思いながら正門の外の様子を窺う。


ふと、思いついて隣で同じように正門の方を見ていたミリアーナに聞いてみる。


「ねぇミリアーナ。『無貌の怪人』って知ってる?」


するとミリアーナは振り返って私を見下ろす。


「『無貌の怪人』かい? 二十年くらい前に周辺国を騒がせた『怪盗』だろう?」


「か、『怪盗』……」


「そうだよ。確かウルシュのお爺さんの商会が持つ貴重な品物だか家宝だかを狙って、返り討ちにされてから、姿を消したっていう噂があったね。イザベラはウルシュからそんな話を聞いた事は無いのかい?」


「……な、ないね」


「そうか。ならば噂は噂で真実では無いのかもしれないな。そもそも本当にそんな『怪盗』が居たのかも疑問だよ。盗みをする前に『予告状』を相手に出すなんて、どう考えても有り得ないからね。誰かの作り話の可能性だってある」


「そうだね」


私の返事を聞いて、うんうんと頷いたミリアーナは再び正門へと視線を戻した。


しかし私は内心冷や汗をかいていた。

私、スネイブル商会に『怪盗』が出来るようなスキルを揃えている人物が居る事を、知ってたわ。


三巻が12月10日に発売されます。詳しくは活動報告にて。

八月以降に報告いただいた分の誤字修正は、四章十話分を投稿してから修正をしたいと思います。

いつも誤字報告ありがとうございます。大変助かります。感謝です。

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