凄いのか凄くないのか微妙だよ
生きてます。
ウルシュ君と二人で青空の下、錬金術科のローブを受け取るために列に並んで居た。
あれから、五つの学科棟と職員棟の火災による被害の修繕および、生徒全員の安全確認。そして、火災を引き起こしたと思われる不審者の捜索等々の為に、授業の開始日程が大幅にずれていた。
本来ならば本校舎で行う授業初日に、教室にて選択学科のカラーのローブを受け取るんだけど、授業開始が延期されたので、このような形になった。
ちなみにローブの色なんだけど
◇魔法戦士科:赤のローブ
◇魔術師科:青のローブ
◇魔法科:緑のローブ
◇聖魔法科:黄のローブ
◇錬金術科:茶のローブ
である。
ちゃんとした制服は無くて、何となく制服っぽい『なんちゃって制服』を着ている生徒もいれば、モロ私服だったり、作業着だったり、前衛的だったりと、ローブ以外は結構自由だ。
ウルシュ君は『毎朝私服を選ぶのが面倒』という理由で、なんちゃって制服か作業着を着ている。
王都周辺の平民や、地方都市の平民は沢山着替えを用意できないという理由で、そのタイプが多い様子。
地方や田舎の方の平民は、数少ない数枚の私服を着まわしている。
貴族子息はなんか……うん、色々。
王都周辺に住む貴族子息はそれなりの恰好をしているんだけど、地方から出て来た貴族子息は……なんというか、上半身裸にズボンで、謎の高級感のある布とかを腰や首に巻いている奴とか、どこの蛮族の魔術師だよって言う様な野性味のある恰好している奴とか、ド派手な毛皮のコートを肩にかけたマフィアの首領の息子みたいな奴だとか、道化師みたいな訳分からん恰好している奴とか、魔術学院なのにフル装備の甲冑の奴とか、とにかく自由だ。地元の地域柄的な物も有るらしいけど、なんか基本、王都の貴族よりワイルドなご子息(?)が多いね。まだ族長か傭兵団の息子って言われた方が納得するわ。
ロゼリアル王国って汽車も走っていて、中々に文明が進んでいる筈なんだけどなぁ……。冒険者ギルドのマスターの息子の方がインテリ系な恰好しているってどうよ?
貴族令嬢は、授業や作業に邪魔にならない程度のドレスか、流行を取り入れた高そうな私服を着ていて、比較的まともだ。一部に大鎌背負っている令嬢とか、ボンテージスーツの令嬢だとか、真っ白な拘束衣でガチガチに拘束されている令嬢とか居るけど、子息連中に比べればだいぶマシだ。……多分。
ちなみに今日の私の服は、ウルシュ君製のワンピースです。
あのド派手なザハール王国の民族衣装事件のあと、ウルシュ君は宣言どおりに私の私服を数点創ってくれました。
ウルシュ君から希望を聞かれたので、錬金術科のチョコレート色のローブに合わせて、ミントグリーンにして貰いました。前世でチョコミント系のアイスや飲み物が好きだったのと、チョコミント色が好きなんだよ。
腰にはチョコレート色のコルセットタイプのベルトが巻いて有ります。そのベルトに金具も付いているから錬金術科で使う道具や、試験管ベルトをぶら下げておける実用的な物。
スカート部分は膝小僧が隠れるくらいで、ミント色とベージュ色の縦縞の中にチョコレート色の模様が入っていてお気に入り。
このベージュ色が何だかとても落ち着く良い色で、どこかでよく見る色だなぁ~って思っていたら、ウルシュ君の髪の毛と同じ色だった。このスカートはサイズが合わなくなっても生涯保存しておこう。
それともう一つウルシュ君にお願いして、ウルシュ君とお揃いのゴーグルを創って貰ったので、最近はそのゴーグルを常に首か頭につけている。それを見たウルシュ君が、同じようにゴーグルを身に着ける様に成ったのでお揃いだ。生産職カップル感が出てて、ニマニマが止まらない。時々ニマニマじゃ収まらなくて変な声が出てしまう。
今日も今日とて、ローブを受け取る列に並びながら、自分とウルシュ君の首にかかったゴーグルを見比べてニンマリしていると、ウルシュ君が見下ろして来た。
「イザベラが受け取ったローブなんだけどぉ、明日まで僕が預かっても良いかなぁ?」
「へ? 別に良いけど、何で?」
掲示板に掲載されていたお知らせによると、授業開始予定日が一週間後になっていたので、まだローブは必要ない。だから預けるのは問題無いけど、何の為かが理解出来なくて質問すると、列の動きと共に数歩進みながらウルシュ君は答える。
「この学院はローブの色を変えなければ改造しても良いんだよぉ。ローブの原型が無くなるレベルで改造している生徒もいるけど、元が指定のローブであれば問題無いしぃ。僕は縫術師のスキルを持っているからねぇ、イザベラのローブに色々な効果を加えておこうかなぁって思ってるんだぁ。何か付けて欲しい装飾とかある?」
成る程、ローブは改造OKなのか。
何が良いかなぁ……。改造制服って聞くと、日本の昭和後期の不良みたいな感じがするよね。そのイメージで行こうかな?
「えーと、じゃあ裏側に龍と虎が睨み合っている刺繍を入れて欲しいな」
「………僕がイザベラに似合いそうな何かを考えておくよぉ」
言外に却下されてしまった。でも、龍虎図の刺繍は作業量半端ないし仕方が無いね。
それに公爵令嬢のローブの内側に入っている刺繍では無いかな。ある意味悪役令嬢とは別の悪役っぽさが出るかもしれないけど、そんなの目指してないし。
いや、かっこ良いかも知れないぞ? 龍虎図の刺繍が入ったローブを肩にかけて、腕を組んで仁王立ちするの。
「イザベラ、また何か変な事考えてるでしょ? 肩にかけたローブをはためかせて、腕組んで立ち塞がってる系の自分の姿とか……」
なんで分かったし……。前から思っていたけど、ウルシュ君ってば表情から考えている事を読み解く能力が振り切れていないかな? いくら私が考えている事が表情に出やすいタイプと言っても、妄想で思い浮かべた内容までわかるかな?
「長年一緒に居るからねぇ……。イザベラがどんな想像をしているかの大体の予想くらいはつくようになったよぉ」
なんですと? 私は今だにウルシュ君の考えを読めないのに!?
「ウルシュ君、私は複雑な気分だよ。ウルシュ君は私が何も言わなくても察してくれるのに、私はウルシュ君の表情からあまり察する事が出来ない……」
「う~ん。でも僕が怒っている時はイザベラはすぐに分かるよねぇ」
あんだけ黒いオーラ巻き散らかして居たら、私じゃ無くても分かるよウルシュ君……。
「言っておくけどぉ。僕が怒っているのを察する事が出来るのは、父さんや兄さんを除いて、イザベラとブライアンだけだよぉ」
「脳筋のブライアンと一緒にされたら、凄いのか凄くないのか微妙だよ」
「ブライアンは単純だけどぉ、《占術》《超感覚》《超察知》《精神鑑定》と言ったスキルと生まれながらの野生の勘を持っているからぁ、その辺りは結構凄いよぉ? ただ、読み取れた情報をどう役立てれば良いか判断がつかないみたいだから宝の持ち腐れなだけでぇ……」
ブライアン、親友のウルシュ君から褒められつつ貶されているぞ。
あと、多分だけど私も手に入れた情報の活かし方が分からないタイプだ。ブライアンと似たもの同士っていうか、キャラカテゴリが一緒みたいでなんか嫌だわ。
そんな話をしながらウルシュ君と列の前方を眺める。
それにしても……。
「「列が全然前に進まないねぇ」」