重要な事なんでしょ?
ウルシュ君と一緒に保護された生徒達が居るらしいという場所へと向かう。
彼らは燃える職員棟の前に集められ、その周りを様子を見に来た生徒や知り合いを探しに来た生徒達が大きく取り囲んでいた。
保護された生徒の中に探し人が居なかったのか、輪から離れた生徒達と入れ替わる様にウルシュ君と輪に入り保護された生徒の中にマリエタの姿を探す。
保護された生徒の人数は十数名。地面に座り込んでいる生徒や、立ったまま不安げにしている生徒達に、職員達が飲み物や炊き出しの温かいスープを配り、保護された生徒達は順番に何があったのかを学院長と教職員に説明しているようだった。
ちょうど学院長に事情を説明し終わって、保護された集団の中に戻ろうとしていたマリエタを見つけた。
どうやらマリエタは、何かに巻き込まれて捕まった生徒の一人だった様だ。
私に気付かずに集団の中に戻ろうとしているマリエタに、大きな声で呼びかけると、彼女は弾かれる様に振り返った。
マリエタは私の姿に気付くと目を見開いて驚き、集団から離れ私の方へと駆け寄ってきた。
「イザベラ?! どうしてココに? イザベラはココに来ては駄目よ、また死んでしまうわ!! 」
うん? 『また』死ぬ? 一体どういう事だろう?
「一体どうして? ベラを預けたら図書棟から出て来ないと思ったのに・・・」
んーーーー? なんかその言い方だと、私を図書棟に足止めさせる為にベラを預けたみたいに聞こえるな。
でも、それじゃ足止めにならないよ。だってベラの食べる物とか世話する物を貰ってないから、どちらにしてもそれらを求めて図書棟の外に出るしかないんだし。詰めが甘いよ詰めが。
「いや・・・あのさマリエタ。ベラのご飯とかオムツとか無かったし。あと、ベラは──・・・」
バーバラに預けたよ。と言いかけて、はたと気付く。
私はバーバラとディアナ王国で過ごした時間があったから、彼女が子供の世話が得意だったり、なんだかんだと自分の懐に入れた弱者には凄く責任感を持つタイプの人物で、ベラを預けるにあたって信頼しても大丈夫だと思ったけど、マリエタからするとバーバラは幼少期に自分を虐めて来た異母姉だ。
その異母姉に娘を勝手に預けられたら、複雑と言うか不安と言うか、あまり良い気はしないんじゃないだろうか?
今さらそんな事に気付いたけど、すでに預けてしまった後だし、これから錬金術科で一緒に成るわけだから、姉妹としての交流を改めてやり直してもらいたい。
・・・それに明らかにバーバラの方が適材適所だったし、その預けた行動に対して文句を言われたとしても、私は振り回された事に対して逆ギレしていい立場だと思ってるの。
そう色々と考えた末に、正直にベラをバーバラに預けた事とその理由、そして今ベラがどこに居るのかをマリエタに伝えた。
すると私の心配をよそに、マリエタはあっさりと頷いた。
「そう。彼女がベラを見てくれるなら安心だわ。彼女は凄く攻撃的な言動をするけど、自分が守るべきだと判断した存在には、不満を漏らしながらも凄く面倒を見るし、その存在を護るためには凄く必死になる人だと知っているから。私も過去に、彼女から文句を言われながらも助けられて生きた人生が何度かあるの。だから彼女の性格はよく分かるわ」
そうか、これまでのループの中で、マリエタとバーバラが共にある人生もあったのか。
それを聞いて、マリエタが過去に築いては失って来た絆と人生に想いをはせ、少し切なくなった。
マリエタと共に過ごしたというバーバラも、性格は今と変わりなさそうだ。
そう言えばバーバラがマリエタを虐めた原因は、愛人と隠し子の存在に苦しんで泣き暮らし、ふさぎ込んだ母親を助けようと突っ走った事が切っ掛けだったな。やる事が極端だけど、自分が守るべき存在を傷つける物は攻撃する、といった行動原理は今も昔も変わっていない。
ある意味バーバラは自分の信条を持っているというか、一本芯の通った人物と言えるのかもしれない。
「それで、マリエタは一体何をしようと跳び出したの? 自分の娘で私を足止めまでして」
私の問いかけに、マリエタは表情を暗くして目線を落とすと黙り込んだ。
何も言わないマリエタに焦れて、もう一度問いかけようとした頃に、ようやく彼女は小さな声でポツリポツリと話し始めた。
「学院が今回みたいに燃える事は過去に何度かあったの・・・。どれも私達が卒業して数年経ってからなんだけどね」
なるほど、卒業して数年経っての出来事なら、ゲームのシナリオに無くて当然だ、私が知らなくても不思議ではない。
でも、今回は入学式直後の学科紹介の時期だ。まだ通常の授業すら始まっていない。
どうして時期が早まったんだろう?
「その学院が燃える事件の時に、過去のイザベラが命を落とした事が何度か有るの。そう、何度も。それは火災その物のせいだったり、この事件を起こした魔王崇拝集団を追っている最中だったり」
ん? まって、なんか今重要な事を聞いた気がした。
この事件の首謀者が何だって?
「それを思い出して・・・。だから私はイザベラが危険に巻きこま・・・」
「ちょっと待ってマリエタ。いま『魔王』崇拝集団って言った? それがこの火災の原因なの? 」
私はマリエタの発言を遮って、一番聞きたい事を質問する。
マリエタは私が喰いつくように問いかけてきた事に少し驚きながらも、答える。
「えぇ、そうよ。これは魔王を復活させる儀式の一つでもあるの」
「私、千年以上前に魔王は滅びたって聞いていたんだけど、復活するの? 出来るの? 」
それ、その儀式は・・・まさか大罪王スキルを持っている私やウルシュ君にクリス様、そしてブライアンに影響は出ないよね?
その儀式によって大罪王スキルが反応して、それぞれが魔王化するとか無いよね?
それに今朝聞いた童謡の、十個に分かれた悪い王様の件も気になるしで、謎が多すぎだろっ!!
聞いたり調べたりする前に、次から次へといろんな事が起こるは意味深で断片的な情報がいっぱい入って来るはで訳が分からないよ!
そろそろ現時点で皆が持っているであろうバラバラの情報を全て集めて、今私達が立たされている状況の大まかな予測を立てたいんだ。
出し惜しみせずに、皆さっさと持ってる情報を全て開示してくれないかな!?
マリエタを焦らさないように真顔で黙っているけど、内心は大荒れだ。かなり荒ぶっている。
「えっと・・・。魔王がいなくなった理由にいろんな説があってね、千年以上前に聖騎士に倒されて滅んだ説と、次元の狭間に永遠に封じられた説とか、他にも地域や種族によって言い伝えが微妙に違うらしいんだけど・・・」
そして彼女が続けた話によると、今回の事件を起こしたのは『魔王は次元の狭間に封じられた説』を信じるグループだったらしい。
でも、なんで学院に火を放ったら魔王が復活するなんて思ったんだろう?
魔王復活と学院炎上の関係性が分からなくて首をひねる。
生徒を捕らえておくというのが儀式に必要な生贄のためだと考えると、皆が考えるイメージ通りの魔王崇拝者なんだけど、保護された生徒達は誰一人として傷つけられていない。
竜騎士候補が見つけたのは何かの儀式が行われた形跡、つまり儀式の跡を見つけたわけだから、儀式自体は既に終わっている。
では何の為に生徒を捕らえたのか?
腑に落ちない点が多すぎて、もう少し具体的に話を聞こうと口を開いたとき、教職員の一人がマリエタを呼びに来てしまった。
保護された生徒は夜が明けたらやって来る騎士団に、もう一度情報提供をしなくてはいけないので、それまで集められたまま教職員や警備員に警護されるらしい。
職員に連れられて他の生徒達と一緒に移動するマリエタを、ウルシュ君と見送ってため息をつく。
結局また、中途半端な情報を得ただけに終わった。
だけど明日以降に、マリエタに知っている情報を教えて貰おうと思い直す。
どんどん次の事を考えていかないとね。
とりあえず、今はウルシュ君とどこで野営をするかを考えよう。
そう思ってウルシュ君に向き直ると、ウルシュ君はとても真剣な表情で、何かを考えていた。
「どうしたの? ウルシュ君。なにか気になる事があった? 」
そう声をかけるが、思考の海に沈んでいるウルシュ君には届いていないようだ。
私の話しかける声に反応をしない程に考え込むウルシュ君は珍しいので、少し不安になる。
そんなにも考え込むような何かがあったのだろうか?
いつまでたっても反応しないウルシュ君に、堪えきれずに彼の袖を引っ張りながらもう一度声をかける。
「ウルシュ君、どうしたの? マリエタも見つかったし、そろそろ夜が明けるまで待機できる場所を探そう? 」
すると、ウルシュ君はようやく私の方に顔を向けて口を開いた。
「イザベラ。僕、イザベラに言っておかないといけない事があるんだ」
いつになく真剣な表情と話し方に、とても重要な話なのだと身構える。
「イザベラは子供の頃に、クリス様を誘拐した時の帰り道、僕と荷馬車の中で話した内容を覚えてる? 」
「うん、覚えているよ。私の大罪スキルについての話でしょ」
「そうだよ。あの時、まだ僕に心構えが出来なくてイザベラにまだ話せない事があるって言ったのも覚えてる? 」
「うん。ウルシュ君の言いたい時で良いよって返したよね。あの、もしまだ言いたくないのであれば無理しなくてもいいんだよ? 」
そう返すがウルシュ君はゆっくり首を振る。
「ううん。もはや僕が”言いたいか言いたくないか”というような時期ではないと思うんだ。確かにまだちゃんと決心がついていないけど、それでも今のうちにイザベラに知らせておかないといけないんだと思う。だから・・・聞いてくれる? 」
「ウルシュ君がそう判断したなら、聞くよ。重要な事なんでしょ? 」
「そう、重要なことなんだ」
重々しく頷いたウルシュ君は、それから一拍おくと強張った表情で口を開いた。
「イザベラに『七大罪スキル』を埋め込んで、魔王を創り出そうとした男についての話だよ」
今月いっぱい多忙の為、感想欄の誤字指摘・文章修正案の対応を控えさせて頂きます。
ですが確認は致しますので、誤字や文法が気になった方はお知らせ頂けると大変助かります。
後日、私用が終わりしだい対応させて頂きます。