分かってるから祝うの!!
バーバラを連れて職員棟キャンプファイヤーに戻ったのだが、アリスちゃんと合流する前にバーバラと別れる事になった。
夜が深まる前に、ベラの為にも寝床を確保しておきたいと言う事で、聖魔法科でベラとお世話になる事にすると。
「私がマリエタから預かったのに、私は行かなくても良いの? 」
「大丈夫よ。聖魔法科にはミリアーナ姉さんも居ることだし。姉さんもマリエタの事を後悔していたから、彼女の手助けをしたがると思うわ。その代わりあちこちにある掲示板に、マリエタへ伝言を残したり、マリエタを見つけたら私とこの子が聖魔法科に居る事を伝えて貰えるかしら? 」
「私はいいけど、本当に良いの? 」
「良いわよ。そもそも私には歩き回るような体力は無いから、そろそろ休みたいし。あ、姉さんに何か差し入れしたいんだけど、レモネードとプリンを貰って行ってもいい? 」
そこで、他にも欲しい人がいればと、食べ物系アイテムを大量に追加で渡し、さらに聖魔法科の生徒は忙しくてキャンプファイヤーに参加出来ないだろうと、バーベキューのお肉を沢山貰ってアイテムバッグに詰めてバーバラに手渡す。
「ところで、バーバラは何科に入るつもりなの? 」
「私? 私はこの国のポーションの創り方を学びたいから、錬金術科に入るつもりよ」
「バーバラ・・・。だったら体力をつけておいた方が良いと思うよ・・・」
「何でよ? 錬金術科よ? 魔法戦士科じゃないのよ? 」
錬金術科はブラックだから・・・、と伝えようかと思ったが、同じ科に知り合いがいると楽しいかと思い黙っておく。マリエタも居るし。
魔法科でも缶詰状態でポーション等の魔法薬創りはさせられるらしいから、どっちに入っても変わんないよね。多分。
一緒にポーション創り耐久レースをしようね、バーバラ。
ベラを連れて聖魔法科へと向かったバーバラを見送ると、さっそくウルシュ君と串に刺さったお肉を食べながら掲示板巡りを始めた。
一つ一つの掲示板が大きいので、ウルシュ君と二手に分かれて両端からマリエタからのメッセージがないか確認して、掲示板の真ん中辺りでウルシュ君と合流すると、お互いの情報を共有する。
「う~ん。ざっと見たところ、マリエタ嬢からのメッセージは貼って無いねぇ」
「そっか・・・。じゃあ、マリエタへの伝言を書いて貼っておくから、ちょっと待っててね」
「うん。その間に僕は情報収集しておくよぉ」
すぐにマリエタが見つけられるように、同じ内容の物を3枚書いて両端と真ん中に貼る。全て貼り終わった頃に、ちょうどウルシュ君が戻って来た。
「おかえりウルシュ君。なにか役に立ちそうな情報は見つかった?」
「ただいまイザベラ。さっき職員の人を見つけたから話を聞いて来たよぉ」
そうしてウルシュ君が得た情報というのが次の通り。
・明日の朝一番に、騎士団と魔術師団、憲兵が来て火災原因を調べるらしく、それまで敷地内は封鎖されたままだと言う事。
・五つの学科棟の焼け跡から、ミスリル製の儀礼剣が出て来て、出所が分からない事。
・警備員や職員から、見知らぬ人物を見かけたと言う情報が入っている事。
「色々な情報が飛び交っているらしいけど、今確実なのはこの三つらしいよぉ」
「そうなんだ。やっぱりここに居る人達みんな、敷地内で一晩過ごさないといけないんだね」
「講堂や本校舎が無事だから、そこを避難場所として一時的に開放するらしいよぉ」
「本校舎って言うのは・・・、学科紹介の間は立ち入り禁止になっていた所ね。学科別の授業じゃ無い時は、そこで基礎的な授業を受けるんだよね」
「そうそう。同じクラスになれると良いねぇ」
「うん。ウルシュ君と同じクラスだと嬉しいな」
そんな話をしていると、赤いローブの男子生徒が近づいて来た。
「おー!! さっきぶりだな。チビの母ちゃんは見つかったか? 」
声をかけられ視線を向けると、彼は図書棟から飛竜に乗せてくれた魔法戦士科の先輩だった。
たしか名前が・・・。名前なんだっけ?
え~と、たしか・・・
「あっ!! マリリンさんっ!! 」
「ちげぇよ!! それは飛竜のほうだろっ!! あー・・・俺は名乗って無かったな、デイビスってんだよ。改めてよろしくな」
「はい、よろしくお願いいたしますデイビス先輩。私はイザベラと言います。今日はありがとうございます、助かりました。ベラのお母さんは見つかっていないんだけど、叔母さんが見てくれるって言うからお願いする事にしました。私よりも小さい子の世話の仕方を知っているようなので」
そのまま少し会話をした後、デイビス先輩は臨時で上空からの見回りをする事に成ったのだと言って、竜舎の方へと去って行った。
そのデイビス先輩の背中を見送って、ウルシュ君の方へと向き直ると、ウルシュ君は真顔で首を傾けている。
「・・・ウルシュ君。首の角度が凄い事になってるよ」
「今の、誰? 」
「今の? デイビス先輩」
「たしかイザベラの知り合いや関係者に、あんな男は居なかったはずだけどぉ。誰? 」
ウルシュ君は私の知り合いはともかく、関係者全員を把握しているの?!
凄いよウルシュ君!! 私ですら把握できてないのにっ!!
ウルシュ君の記憶力に感嘆しながら、質問に答える。
「今日知り合ったんだよ。マリリンに乗せてくれたから、凄く助かったよ」
「始めから説明してくれるぅ? 分かるように」
そこで、デイビス先輩と会ってからバーバラにベラを預けた所までを順を追って説明する。
聞き終わったウルシュ君は、傾けていた首を戻してニッコリした。
その笑顔につられて私も笑いそうになったが、一瞬何かがオカシイと察知した。
ウルシュ君から黒いオーラが出ている訳ではないのに、何故かその笑顔が怖い。
もう一度言おう、『黒いオーラが出ている訳ではない』のにだ。
「えーと。ウルシュ君? 」
「僕、その話、今、初めて、聞いたよぉ? 」
なんでそんな強調するかのように区切って喋っているのウルシュ君。
「え~と。なんか忘れてた」
消火活動とか色々有ったし、さっき聞かれたのは何故サウザード国の民族衣装着ているのかだったし。
ぶっちゃけ先輩と再会するまで、飛竜に乗った事すら忘れていたよ。
「なんで知らない男の乗り物にホイホイ乗って行ったのぉ? なんで知らない男と二人っきりで空の散策してるのぉ? 」
「へ? 知らない人だけど、飛竜の扱い上手だったから危ない事はなかったし、ベラが居たから二人っきりじゃ無かったよ。大丈夫だよ、例えウッカリ落ちても、私なら無傷で着地出来るから危険な事は無いよ? 」
「乳幼児は居ても居なくても変わらないよぉ、ほぼ二人きりだよぉ。そう言う事じゃ無くて、何で僕とすら空の散歩した事ないのに、見知らぬ男と空を飛んでるの?! 」
ん?
んん~?
もしかして:嫉妬
ふおぉぉぉぉぉぉっ!!
つい最近思春期を迎えて、私を最近になってようやく異性として見だしたらしいウルシュ君がっ!! そのウルシュ君がっ!!
私が知らない男の子と飛竜に乗っただけで嫉妬しているっ!! 乳幼児も居たのにっ!! 露出もしてないのにっ!!
ウルシュ君っ!! これは本日三回目位の嫉妬だねっ?! 凄いよ!! 私ウルシュ君から嫉妬されてる!!
よしっ!! 今日のこの日は嫉妬記念日にして、毎年祝おうっ!!
「そうだっ!! ウルシュ君、毎年この日は記念にお餅焼く? お餅焼く? 」
「きゅ、急になに? なんの記念なの? 」
「毎年この日は、ツナギを着て飛竜に乗りながらお餅を焼いて食べようねっ!! 」
「そんな曲芸みたいな事、僕は無理だよぉ。って言うか僕は今怒ってるんだよぉ? 分かってる? 」
「分かってるから祝うの!! 」
「え、えぇー・・・? 」
そんな話をしていると、掲示板の周囲に集まっていた生徒達が、ザワザワしながら移動し始めた。
駆けだしている生徒もいる。
「あれ? 見てウルシュ君。皆、どこかに行くみたいだよ」
「うん、そうだねぇ。ちょっと話を聞いてこようかぁ。あっ、さっきの話は後日改めてちゃんと話し合うからねぇ」
バッチ来い!! ウルシュ君のヤキモチならいくらでも聞くよ。
だって嫉妬するウルシュ君マジ尊い。好き。
ヤキモチウルシュ君にニヤニヤしていると、ウルシュ君は私の手首をしっかりと掴んで歩き出した。
ウルシュ君は私の手首をしっかりと掴んで歩き出した。
ウルシュ君は私の手首をしっかりと掴んで歩き出した。
ウルシュ君は私の手首をしっかりと掴んで歩き出した。
ふおぉぉぉ!! 連続でなんだコレ!!
頭が一瞬バグったよ!!
ウルシュ君が私の手首を掴んで、ちょっと強引な感じで引っ張っているよ!! やだ、急にどうしたの男らしい。
ウルシュ君が私を殺しにかかっている!! キュン死させようとしてる!!
「あぁぁぁぁぁぁっ!! ウルシュ君!! 私と結婚して下さいませぇぇぇぇ!! 」
「するよ!! お嫁さんにするよ!! 来てよ、絶対っ!! もーっ! 僕怒ってるのにぃ」
そう言いながらウルシュ君が振り向いた時、大きな声で話しながら男子生徒達が横を駆け抜けて行った。
「見回りしていた竜騎士候補が不審な魔術儀式の祭壇を発見したってよ!! 」
「そこで、檻に入れられた数人の生徒が保護されたって。みんな新入生らしいぞ」
「俺の知り合いが見つからねぇんだよ。まさかその中にいねぇよな? 」