表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は、庶民に嫁ぎたい!!  作者: 杏亭李虎
これ、本当に乙女ゲームか?
114/145

【閑話】フラッシュバック

私を呼ぶ女性の声がする。ここはどこだろう。


『マリエタ!! おい、マリエタ妃!! 何をしている、立ち止まるな走れっ!! 』


燃え盛る炎。悲鳴と怒号と何かが崩れていく音。


『マリエタっ!! しっかりせんか馬鹿者っ!! 』


『ふえぇぇぇっ!! マリエタ妃ぃ~、急ぎましょう。ここはもう危険ですわぁ。早くしないと燃えちゃいますぅ』


声に振り返ると、オレンジ色の髪の女性が二人、私を待っている。


一人はオレンジ色の髪を、頭の上の方で二つのお団子にしているメイドで、背中に誰かを背負っている。

あれは・・・クリストファー殿下?


クリストファー殿下を背負ったメイド、『メリー』は叫んだ。


『マリエタ妃、ここはもう駄目だ。急ぐぞっ!! 』


「でも、塔が・・・」


私は背後を振り返った。

私とクリストファー殿下と、メイドの『メリー』と『アン』。四人で静かに暮らしていた『塔』が崩れて落ちて行く。

閉ざされた、でも、つつましやかな幸せが、思い出が、沢山詰まった白い塔が炎に包まれ、砕け、崩れていく。塔の下に植えられていた沢山の花達も炎の中で黒く崩れていく。


『ふえぇ・・・。悲しいですけど、もう塔はどうにも出来ませんわぁ。まずはクリストファー殿下を無事に避難させる事が大切ですぅ。マリエタ妃ぃ、早くここを離れるべきですよぉ~』


もう一人の女性、オレンジの髪を頭の下の方で二つのお団子にした『アン』が、涙目でそう訴えた。


「そうね・・・。早くここから移動しましょう」


炎の海に飲まれた王宮の建物を迂回しながらなんとか抜け、城壁の方へと急ぐ。


『ふぇ・・・。どうして火事になったのですかぁ。ベラちゃん、ダイモン近衛騎士団長から何か聞けましたぁ? 』


『おいアン、何度言ったら分かる。『ベラ』じゃ無くて『メリー』だ。ここは塔の中ではない。誰が聞いているか分からないんだから控えろ』


『でもぉ・・・こんな大騒ぎの状況じゃ誰も聞いて無いですよぉ』


「大丈夫よベラ、周りに誰もいないわ。それに、いつどうなるか分からない状況だからこそ、アリスも自分を偽らずにいたいのよ」


『ふんっ!! お前達はいつも呑気で、警戒心が無いから困ったもんだ』


「でも、ベラが守ってくれるんでしょ」


『当然だ。と、言いたい所だが、私は今殿下を背負っている。努力はするが各自でも周囲の警戒を怠るなよ』


『ふぇぇぇ・・・。ベラちゃん・・・私、武器になりそうな物はフォークとナイフしか持ってないですよぉ』


アン(アリス)がポケットの中からフォークとナイフを取り出してメリー(ベラ)に見せる。


『逆になんで、フォークとナイフをポケットの中に入れているんだお前は・・・もう良い。それは私によこせ。お前じゃ食器を武器として扱う事は、出来ないだろうからな。私の左右の太腿にナイフを隠しているから、二人はそれを持て』


ベラのスカートにアリスが潜って行き、二つの大きなナイフを持って出て来た。

アリスから受け取ったナイフは、刃の長さが30㎝程もある大振りのナイフで、ずっしりとした重みがあった。

ベラはこんな大きなナイフを、いつもスカートの中に隠し持っていたのか。


「どうしよう、私こんな大きなナイフの使い方なんて知らないわ」


『ふぇ・・私もですぅ・・・』


『アン、お前は緊急事態以外は、ナイフをさやから出すな。お前はどんくさいから、自分の指を切り落とすぞ。マリエタ妃にはこの場を無事に切り抜けられたら、ナイフの扱い方を教えてやる。とりあえず、それまではお守り代わりに持っておけ』


「そうね、約束よベラ。無事にこの危機を乗り越えられたら、ナイフの扱い方・・・ううん。他にも戦い方やクリストファー殿下を支えて生きて行く為に必要な事を教えてね」


『そうだな。お前とは約束事ばかり増えて行くが、中々それを果たす機会が無かったからな。安全な所に落ち着けた時には、約束を一つずつ果たして行く事にしよう。そうと決まれば行くぞ』




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




『くそっ!! こっちの門も溶けて変形して開かないらしい。今、近衛兵が門を破壊する準備をしているそうだ』


城門から出ようと集まった人達の波をかき分け、戻って来たベラは集めた情報をそう説明する。

私は芝生の上に座り、クリストファー殿下の上半身を支えたまま城門の前に集まる人々を眺めた。


「そう、じゃあ門が開くまで待ちましょう」


『ベラちゃん・・・。ダイモン近衛騎士団長には会えましたかぁ? 』


アリスの言葉に、ベラは少し目を伏せる。


『兄様・・・いや、ダイモン近衛騎士団長は死んだ』


「そんなっ!! どうして?! 」


『ふえぇぇ!! どうしてですかぁ!! いつそんな事になったんですのぉ?! 』


緘口令かんこうれいが出ていたんだ。数日前から仕事中に部下数人と急に姿を消していたらしくてな。城壁内から出た記録も無いから、何かあったのかと捜索されていたのだが、一昨日の夜に全員遺体で見つかったそうだ。塔に続く道を横にそれた所に、蔦まみれの大きな二階建ての倉庫があるのを知っているか? 』


「知らないわ・・・。そんな所に倉庫が有ったのね、何の倉庫? 」


『倉庫自体は庭師などが道具を入れていた倉庫らしいんだが、ここ30年程は老朽化と気味の悪さがあると言う理由で、あまり使われていなかったらしい。その倉庫の階段の辺りで死んでいるのを発見されたそうだ』


「どうしてそんな所に・・・」


『階段には地下に続く階段が隠されていたらしくてな。その地下には壊れた樽が置いてあったそうだが、それが何かは分かっていない。樽が破壊されたのは最近だと言う事は判明しているが、中身が謎でな。魔術師団や薬師達が中身の正体を調べていた様なんだが、こんな状態では解明できずに終わるんだろう』


そう言ってベラは悔しそうに唇を一度噛み締めると、震える声で続ける。


『ダイモン近衛騎士団長が・・・ダイモン兄様だけは、何も言わなくても「私」に気付いてくれた。はっきりとそう言葉にはしなかったが、確かに兄様だけは「私」が己の愚妹だとみずから察してくれたのだ。きっと、そんな兄様だから王宮内の危機を察して動いたんだろう』


震える声で、だけど顔をしっかりと上げ、少しずつ燃え落ちて行く城を真っ直ぐと見つめるベラを、アリスが背後からしっかりと抱きしめた。


『そんな兄様が命を落とした原因を、解明出来ずにここを去らなければいけない事だけは、心残りだ・・・・。あぁ、マリエタ妃。城門が開いたようだぞ。急ごう』




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ベラっ!! ベラっ!! しっかりして!! 置いて行かないでっ!! 私を一人で置いて行かないで・・・」


炎の中、私はベラの手を握り叫ぶ。

ベラは閉じていた瞼を開けると、空いた片手を私の手に添えて口を開いた。


『・・・御伽話おとぎばなしを信じて、ここまで来たが駄目だったか。あれが本当であれば、殿下もアリスも、兄様も・・・取り返せると思ったのに』


「ごめんねベラ。魔力が切れて、これ以上治癒魔法をかけられなかったの。魔力が回復したらすぐに治療を再開するから、だからそれまで頑張って。どうにか意識を保つのよ、なにか・・・なにか話し続けて」


『・・・マリエタは御伽話は信じるか? 』


「ええ。えぇ信じているわ。皆が幸せに、ハッピーエンドになる物であれば特に大好きよ」


『そうか。・・・私が殿下に、アリスとこの学院に通わせて貰っていた時だ、御伽話の様な不思議な話がいくつかあってね、その内の一つが隠された禁書庫だ』


「隠された禁書庫。素敵ね、一体どんな本があるのかしら」


『その禁書庫には、「虚言王フラウロス」の封じられた場所について書かれた書物があるらしい』


「『虚言王フラウロス』? 封じられたって何故? 」


ベラに問いかけるが、返事がない。


「ベラっ!! ベラっ!! しっかり!! 気を持って!! 」


『・・・あぁ、・・・マリエタか。すまんな。少し居眠りをしたようだ。なんの話だったかな・・・。そう、「虚言王」だ。七つの大罪と呼ばれる物は知っているか? 「強欲・嫉妬・傲慢・色欲・憤怒・暴食」そして「虚言きょげん」だ。七つの種類は土地によって違うらしいがな』


「どうして『七つ』の大罪なのかしらね」


『昔いた聖騎士とやらが言い出したそうだが、実際にはどうか分からん。大罪の内容も土地でバラバラらしいしな。話を戻そう・・・どこかに聖騎士の部下達から「虚言」の罪を冠する王が封じられているらしい』


「どうして? 嘘つきだから? 」


『全てを「嘘にする」からさ。そんな能力を持っているという。はは・・・なんとも御伽話らしいだろう』


「そうね、王宮から脱出してからの、この数年が・・・いいえ。その前からの全てが、嘘であればいいのに・・・」


『すまんなマリエタ。そいつを見つけ出せば、殿下やアリスを取り戻せるんじゃないかと思ったんだ。御伽話を信じて、お前をこんな所まで連れ回してしまった・・・。すまない』


燃え盛り、崩れ落ちて行く学科棟を見渡す。

ベラに連れられて、避難先の隣国からこの学院まで戻って来たが、とうとうココも失ってしまう。

沢山の出会いがこの学院から始まった。

殿下との出会いや、入れ替わってしまった令嬢達。沢山の思い出、それが燃え尽きて行く。


『嵐の様な人生だった・・・。見知らぬ少女と入れ替わり、殺されそうになってアリスと逃げ出した日の恐怖は今でも夢に見る。殿下だけは何故か私達の言葉を信じて、保護してくれた時の安堵も。だから殿下に生涯にわたり忠誠を尽くし、守り抜こうとアリスと誓ったその夜の事も。だけど二人とも失ってしまった・・・もう御伽話にでも、すがるしか無かったんだ・・・』


「分かるわベラ。私もよ、私もその御伽話にすがるわ。だから、元気になったら禁書庫を一緒に探しましょう。そして封じられた『虚言王』を一緒に探しに行くの」


『そうだな・・・もう一度やり直そう。・・・今度こそ・・・殿下と、アリスと、四人で送る、・・・静かな生活を・・・』


私の手に添えられていたベラの手が落ちる。


「ベラ? また寝たの? 起きてベラ。ベラっ!! 起きて!! 起きるのよベラっ!! 一緒に探しに行くんでしょ、ベラっ!! ねぇ起きてっ!! 」






あぁ・・・思い出した。

何十回と繰り返して忘れていた。



コレが私の『一回目』の人生だ。


虚言:十戒の内の一つ。隣人に偽証するなかれ(他人に嘘つくんじゃねぇぞ)から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ