最短でどの位?
燃え盛る聖魔法科の学科棟へと向かいながら、首から下げたネックレスを握りしめる。
「コール。ウルシュ」
学院の敷地内がこんな状況だから、ウルシュ君が何処に居るのか把握しておかなければいけない。
出来れば寮で作業をしててくれれば良いんだけど・・・。
ネックレスがオレンジ色に点灯した後、ウルシュ君と繋がり返答が届く。
『は~い。こちらウルシュだよぉ。イザベラどうしたのぉ?』
「ウルシュ君!! 今何処に居る?」
『僕はねぇ、今は錬金術科の地下に居るよぉ』
「錬金術科の地下!?」
なんてこったい!! まだ授業が始まって無いのに学科棟に居るなんて!!
『なんかねぇ、対魔術師科ゴーレムの最後の動作回路が上手く組み立てられないらしくて。今朝早くに学科長が協力を求めに来たんだぁ。ゴーレムの動作回路自体は組み立て終わったんだけどぉ、地上が火事だから収まるまで待ってるんだよねぇ』
「ウルシュ君は今大丈夫なの? 私も敷地内に居るからすぐに救出に行くよ!!」
聖魔法科の救出に行こうと思ったけど、ウルシュ君がピンチならソッチが優先だ!
先に錬金術科へと向かおうとしたところで、ウルシュ君から返答が返ってくる。
『う~ん。いざとなれば母さんが創った転移装置で脱出できるしぃ、今も家庭用に開発した魔道具を稼働させてて快適だからぁ、まぁ大丈夫そう。こっちでもアイテムを使って消火できるような方法を考案しているところで・・・』
『ちょっ!! ウルシュ少年!! そのネックレスはなんだい?! 新しい魔道具かい?! 離れた相手と話せるアイテム? それも携帯できる小型の物だなんて素晴らしい!! ちょっと良く見せてくれたまえ』
『学科長・・・。いま婚約者と話しているから邪魔しないでねぇ』
会話の途中でウルシュ君をゴーレム創りにかりだしたという学科長が乱入して来た。
通話先の雰囲気から思うに、なんだか余裕そうだ。
それにゴーレムが完成しているなら、火災はどうにかなるだろう。
「じゃあ私は聖魔法科の消火活動を優先するけど・・・大丈夫? もし無理そうだったら先にそっちの消火活動を優先するけど」
『え? 聖魔法科の学科棟も燃えてるのぉ? 聖魔法科の学科棟は怪我人を運び込んでるから、不可侵の筈だけどぉ』
どうやら火災によって連絡が途切れているせいで、地下に居る生徒には地上の状況が分かっていないらしい。
「燃えてるのは聖魔法科だけじゃ無くて職員棟もよ。全学科棟に職員棟を含めた六棟が、一斉に燃え上がったって話。特殊な消えにくい炎らしくて、全ての火災現場で消火活動が難航しているらしいの」
『そ、それは本当かい?! ウルシュ少年の婚約者殿! だったら聖魔法科と魔法科が大変だ。彼らはそういった状況に対処する方法を、ほとんど持っていないからね』
ウルシュ君より先に学科長が返答を返して来た。
確かに魔術師科と魔法戦士科の人間は自力で状況を打破できそうだけど、その二つの科はお手上げだろう。
錬金術科も心配していたんだけど、彼らには魔道具という名の兵器や回復薬があるから、余裕を持てる様だ。
『ちなみにイザベラはその消えにくい特殊な炎を、どうやって消すつもりなのぉ? イザベラはまだ魔法の威力を押さえるのが不得意だから、魔法で力押しって言うのは駄目だからねぇ』
はい。私は下手すると地下ごと吹き飛ばしかねないからね。
「大丈夫だよウルシュ君。魔法は一切使わないから。使うのは身体強化くらいかな」
『身体強化? ・・・あぁ、そう言う事かぁ。だったらイザベラは得意だねぇ。聖魔法科の事はイザベラに任せるよぉ』
どうやらウルシュ君にはそれだけで伝わったようだ。
「ねぇウルシュ君に確認したいんだけど、ゴーレムは一体だけしかないのかな」
『すぐに起動できるのは一体だけだねぇ。もう二体あるけど外側だけで肝心の動作回路が手づかずなんだぁ』
「もう一体を動かせる様に成るまで、どのくらい時間がかかりそう?」
『う~ん。これ創っているのは先輩達だからぁ、まだちゃんとした生徒じゃ無い僕が勝手に手を出すのは良くないと思うんだよねぇ。だから先輩達次第かなぁ』
確かに。ココまで創って来た先輩を差し置いて、ウルシュ君が出しゃばるのも良くないだろう。
一体目の仕上げの手伝いにウルシュ君はかり出されてるけど、一から動作回路を組み立てるのと仕上げの手伝いをするのとでは違うもんね。
『学科長。もう一体起動させられるまで、どの位かかりそうかなぁ? 』
『そうだな・・・。一ヵ月は貰いたい』
一ヵ月・・・。まぁそうよね。
ある意味ロボットの動作パターンを、一体ずつプログラミングして確認するんだから、一ヵ月は欲しいところ。
パソコンがないと人工ゴーレムの大量生産は難しいかな。
ただし今は、チートが錬金術科に居る。
「ちなみにそれをウルシュ君がやれば最短でどの位?」
『30分有ればなんとかなるよぉ。ちなみに、自動型じゃ無くて操縦席を付けた操作型にすれば、起動まで最短10分かなぁ』
もはやそれはゴーレムじゃ無くて、巨大ロボだよウルシュ君。乙女ゲームに機動戦士を混ぜないでくれ。
すでにスネイブル商会の捕獲装置で特撮感が出ちゃったのに、これ以上この世界の方向性を少年向けにしないで。お願い。
しかし私のその願いを、学科長が無慈悲に振り払う。
『操縦席のついた操作型ゴーレム?! 素晴らしい!! ウルシュ少年、その方向で行こう』
行くなや。
そもそも誰が乗るんだよ。
「そ、それは完成するかもしれないけど、乗組員を育てるのに時間が掛かるんじゃ無いかしら? 出来たは良いけど動かせないじゃ意味が無いですし」
学科長の暴走を、やんわり止めてみる。
『はっはっは!! 心配御無用ウルシュ少年の婚約者殿。操縦席にはルイス・ハントでも突っ込んでおけばいい!!』
はっはっは!! じゃねぇよ。
心配御無用と言われても心配しかねぇわ。
急に何の相談も無く、巨大ロボの操縦士に抜擢されたルイス先輩も困惑だよ。
いつも以上に世を儚んじゃうだろ。
でもなんかもう良いや。いざとなれば私が何とかすれば良いし。
「じゃあ、そっちの事はそっちに任せる事にするよ。私は先に聖魔法科の方を何とかするから」
『うん、分かったぁ。まずは一体目のゴーレムを起動させるからぁ、それまでよろしくねぇ』
「うん。じゃあウルシュ君気を付けてね」
『うん。イザベラも気を付けてねぇ』
私は燃え盛る聖魔法科の学科棟前に立ち、ネックレスの通信を終わらせる。
さて、消火活動に入りましょうかね。
水魔法や土魔法で消せない火災をどうやって消すか。
ぶっちゃけ、建物全部を覆える水球を作って、それに沈めてしまえば消えるんじゃないかと思うんだけど、そこまでの水球を出せる魔術師は中々いない。
私は出来るけど、目立つし魔法の規模が大きく成りすぎるから魔法は使いたくない。
と、言う事で、江戸時代の火消しが行っていたと言う方法を試したいと思います。
放水ポンプが無い時代、火消しの方々がどうやって火を消していたか。
そう、壊したら良いんだよ、壊したら。
大きな水鉄砲も有ったらしいけど、それでは追いつかないから、水鉄砲は主に火消しの人が火の粉で火傷しないようにするために使っていたらしい。
そして実際の消火方法として行っていたのが、建物の破壊活動。そうデストローイ!!
ちなみに風下にある近くの建物は、まだ燃えて無くても壊します。木造なので燃え広がらないように、風の強さに会わせて数軒を燃える前に壊します。そうデストローイ!!
理屈は分からんでもないけど、燃えて無い家に住んでた人達からしたら迷惑極まりないな。まぁ仕方ないけど。
今回の場合は全ての学科棟は地下が重要で、上の建物がハリボテと言う事なので叩き壊しても問題無いでしょう。
実際問題こんだけ燃えてたらどうせ壊れるし。
いくら消えにくい炎だとしても、燃やす物が無くなっちゃえば燃えようが無いと思うのよね。
建物が完全に倒壊しても火の勢いが消えない時は、その時で考えよう。
とりあえず地下の人達が出られるように、地下入り口から燃えてる建物をどかす感じで壊していこうかね。
6月10日に二巻が出ました。(事後報告)
そこで・・・担当さんから「宣伝用に使ってね☆」と二巻の表紙画像を頂いたのですが
その画像を『活動報告』に貼る方法が分かりません。(挿絵を本文に貼る方法は知っているんですけど、活動報告に貼る方法が謎で)
と、いうことで・・・
【急募】
画像を活動報告に貼る方法を感想欄で教えてくださる優しい方を募集しています。
「しょうがないなぁ。教えてやるよ」っていう面倒見のいい方がいらっしゃいましたらよろしくお願いいたします。