止めましょうね~
マリエタが話をするのに一番安全な場所があると言うので、ついて行った先の図書棟の地下にて、マリエタにこれまでの事を説明する。
他にも避難して来ている生徒、緑色のローブを着ているので魔法科だと思われる先輩達もいるが、彼らは彼らで必死に調べものをしている様なので、気にせず離れた場所で本棚を背に床に座り、マリエタに入学までの全てを話し終わった頃には、図書棟の閉棟時間になっていた。
「え~と。その、イザベラの方も色々あったのね」
「うん。色々あったんだよ」
「半分以上がウルシュ君に対するノロケでしかなかったけど」
「ウルシュ君は本当にカッコイイし、なんでもない様な顔して、歴史に残りそうな発明や魔道具の魔力回路をアッサリと編み出したりと天才的なんだよ。ウルシュ君を説明する時って、真実を言ってるだけなのに、なぜかノロケみたいになっちゃうんだよね~」
「とりあえず、今の話で今回のウルシュ・スネイブルには、危険性が無いって言うイザベラの主張を信じる事にするわ。敵にすると厄介そうな人だなって言うのは、これ以上なく感じ取れたけど、イザベラの絶対的な味方だと言うなら、これ以上なく安心できるわ」
「うん!! ウルシュ君が一人仲間に居れば、いろんな分野の専門家を百人仲間にするより、ずっと心強いよ」
そうマリエタにウルシュ君を紹介しながら図書棟の地下の階段を上って行くと、先に地下階段を上がって行った魔法科の先輩達が、図書棟の出口に固まっていた。
他の階にも他の学科の先輩達が居た様で、それぞれの学科のローブを着た先輩達が集団で入り口前を占拠しているので、出入り口の辺りがどうなっているのか良く分からない。
先輩達は皆、押し合いへし合いしながら、無言で図書棟の外を眺めている。
軽くジャンプしてみるが、出入り口までの五メートル位が人口密度過多になっていた。
出入り口を立ち止まった先輩達で塞がれているので、外に出られず困っていると、マリエタが大きな声で先輩達に声をかけた。
「あのー。先輩方、どうされたんですか? 外に出ないんですか? 」
マリエタの質問に数人の先輩が振り返る。その表情は青ざめ、目の焦点が合って無く、口は半開きで小刻みに震えていた。
「え・・・、あの先輩方、どうされたんですか? 」
「え・・・う、してる」
前の方に居る先輩が、震えながら何か言葉を絞りだそうとしているが、声がかすれて上手く聞き取れない。
「え? 何ですか? 」
「燃え・・・、炎上してる」
炎上してる? 何が?
「しょ、職員棟含めて、ぜ・・・全部の、がっがとっ学科棟。が炎上・・・」
そこまで聞いたマリエタが、私にベラを押し付けると入り口にとどまる集団の中に突っ込んで行った。
慌ててベラをしっかり抱き留めながら、マリエタに呼びかける。
「ちょっ!! マリエタ!? マリエタ!! 待って!! なに? なにがどうしたの? 」
しかしマリエタは振り返る事も無く、そのまま先輩達を押し分け、人ごみの中に消えていく。
ちょっ!! 一体なんだ?!
私も人ごみに突っ込んで行こうかと思ったが、腕に抱いたベラが潰されるかも知れないので躊躇してしまう。
人ごみに入れず、ベラを抱っこしたままホールをウロウロと彷徨い、考える。
出入り口は先輩達で塞がっている。外に出たいけど、閉棟時間なので正面入り口しか空いて居ない。
どっから出れば良いだろうか?
ベラを抱いたまま、安全に出られる場所は? と言うか、そもそも外に出て大丈夫なのか? ベラが居るからあまり危険な事はしない方が良いのでは?
っていうか、私、ベラに対して余り意識を向けないようにっていうか、あえてスルーしていたのよね。
だって私!! 赤ちゃんと、どう接して良いのか分からないから、乳幼児は苦手なんだよっ!!
前世も今世も、身近に赤ちゃんが居なかったからさ!! 対処法や、声かけ方が分からない!!
今も、抱っこの仕方がコレで良いのか全然分からないし、腕の中で蠢いているのをほっといて良いのか分かんないし、何より泣き出したらどうしようっていう焦り感から、全然考えがまとまらない!!
オロオロしながら立ち止まり、腕の中のベラの様子を窺う。
今の所泣きそうでも無く、大人しくしているけど・・・
静かだと思ったら、なんかベラ、私の髪の毛を食べてるーーーーーっ!!
「だだだ、駄目だよ~。髪の毛、食べちゃだめだよ~。口から出しましょうね~。止めましょうね~」
声のかけ方が分からず、赤ちゃんに対して敬語になる私。
しかし、そんな私の声が届いたのか、ベラは私の方を向いた。
そして、私に『にぱっ☆』と笑顔を向けると・・・視線を戻し、私の髪を食べる作業を再開した。
伝わってなーーーい!!
止めてーーーー!! 私の髪の毛食べないでーーーー!!
香油とか付けて無いけど、髪の毛を口に入れたら汚いからっ!!
それと、ドンドンよだれでベチャベチャに成っていく私の髪の毛に、ショックが隠せない。
マリエタが、ゲームと違ってベリーショートに成っている理由の一端を、垣間見た気がする。
ベラが私の髪の毛に気を取られていて、泣かないだけ良いのかもしれないけど、その内ママが近くにいない事に気付いて泣き出すかもしれない。
赤ちゃんに対するスキルを、何一つ持っていない私は、ベラが泣き出したら詰む。完全にお手上げだ。
赤ちゃんは可愛いけど、時々チラッと見かけて『わぁ。赤ちゃん可愛いですねぇ』ってコメントするくらいの距離が、今の私的には丁度いいんだ!!
マリエタを追いかけよう!!
ベラには防御を何重にもかけて、バフもかけられるだけかけて、マリエタを追いかけて外に出よう!!
そう決めると、私は外に出られそうな窓を探して、図書棟内の移動を開始した。