ちなみにランクは
夜、ベッドに潜り込んでウルシュ君がくれた魔法道具の首飾りを手に取る。
首飾りに付いた親指サイズのクリスタルに魔力を込めると、クリスタルの中で水色に輝く蔦が広がって行き、私が潜っているシーツの中を明るく照らす。
「コール。ウルシュ」
呼びかけると、クリスタルの中で水色に輝いていた蔦がオレンジ色の光に変わり、点滅を始めた。
私は点滅している光を見ながら、応答を待つ。
暫くすると、オレンジ色に点滅していた光が水色に戻ると同時に、ウルシュ君の声がクリスタルから響いた。
『は~い。こちらウルシュだよぉ。通信が遅かったけど、何かあったぁ?』
「うん。マリエタが私の寮に遊びに来てたの。彼女と母子寮の門限ギリギリまで話していたら、こんな時間に」
『マリエタ嬢が来てたのぉ? 何しに?』
「再会を祝うのと、近況報告と、これから学院で注意するべき人物と出来事について、警告に来てくれたみたい。その中にはゲームの内容で知っていた人物や出来事もあったんだけど、その他にも色々注意するべき事が沢山あったから、そういう情報は助かるし嬉しいかな。ただ、時間が無くて簡単な箇条書きみたいな感じでしか教えて貰えなかったから、後日学院で詳しく教えて貰う事に成ったよ」
『そっかぁ。ところで、「取り替え子と悪役令嬢達」の答え合わせは出来たぁ?』
「残念ながら、後日学院でと持ち越されたよ。同じ部屋に関係者であるアンが居たからね。アンって闇ギルドで訓練を受けていたから、聴力良いし、読唇も出来ちゃうから、部屋の隅に居たとしても安心して話せなかったみたい」
『まぁ、彼女が何者なのかを知っていたなら、警戒するのは当然かもねぇ』
マリエタは自分がループしている事を沢山の人に知られるつもりが無いらしく、アンを横目で見た後、『(それについては)学院でね』と囁いた。
アンは自身が闇ギルドの『取り替え子』作戦の要だったという事を認めているので、居ても構わないかと思って聞いてみたが、よく考えればマリエタがループしているという前提を知っていない者からすれば、関係者では無いマリエタがその辺の事情や、起こったかもしれない出来事について語っていれば不審に感じるだろう。
それに加え、マリエタは例の『世界の崩壊を招く大賢者』を警戒している様子だった。
マリエタのループをその大賢者が知れば、邪魔者として目を付けられるかも知れない。目を付けられるだけでは無く命や生活を脅かされる可能性だって有る。
とりあえず今日の会話中に、マリエタから警告を貰った直後、私が転生者であることを知っている婚約者に、マリエタから聞いた話の内容を相談した事を伝え了承をえた。だけど、これからは他の人には秘密にしておく事を約束した。
『まぁ、それが良いだろうねぇ。大賢者の事は置いておくにしても、他人に言っても信じないだろうし、信じたら信じたで、未来の情報を聞き出して利用しようとする人も現れるかもしれないからねぇ』
「マリエタが言うには、すでにだいぶ未来が変わっているらしいけどね」
まず、第二王子のクリス様の婚約者が私ではなくアリスちゃんになった事で、学院開始時点で婚約しているはずの人物や相手が、だいぶ変更されているらしい。
これはループのたびに微妙に違っている事はあったそうだけど、今回ほどの大掛かりな入れ替わりでは無かったらしい。
なぜそうなったのかは分からないけど、クリス様の呪いが解けたり、婚約者がアリスちゃんになった事で、派閥的な事情とかが影響してきたのかもしれない。
ちなみにアリスちゃんは、アリスちゃんのお母様に代わって、王妃様が率いる冒険者パーティー『ペルソナナイツ』の次世代メンバーに成っている。
「そういえばマリエタに聞いたんだけど、冒険者に成ると国民では無くなるみたいな事を聞いたんだけど、そうなるとアリスちゃんや王妃はどうなるの?」
『冒険者でも、国に対して大きく貢献したりすると、爵位を与えられて国に囲われる事があるでしょ』
「そんな事があるの?」
『そんな事があるんだよぉ。で、国家的な立ち位置と言うか役職を持つと、冒険者でありながら国民として認められるんだよぉ。その分国民としての責任が発生するんだけどねぇ。大体の高位冒険者はその責任を嫌がって、国が爵位をあげるって言っても断るんだよねぇ。基本、冒険者って自由人の集まりだし。そして、王妃やアリス様は元々貴族の人間だから、国家的な立ち位置を持っているでしょぉ。だから貴族籍を抜けて平民にならない限りは国民のままなんだよぉ』
ややこしい。
そういう法律的な細かい事を理解するのが苦手なのよね。なんとなく貴族は冒険者登録しても自国の貴族として国民のままと理解しとけば良いかな。
「難しいね」
『諜報活動する人や、外交を担当している貴族はだいたい冒険者登録しているよぉ。冒険者カード持っていたら、国の行き来が簡単になるからねぇ。外交先として訪れていた国の情勢が悪くなって、国から出られなくなったときに、外交官ではなく冒険者として秘密裏に国から脱出する事もあるんだよぉ』
ちなみにそういう事が出来るのは、冒険者ギルドのカードだけらしい。
冒険者ギルド以外のギルドは、国民のまま登録するので、国越えには使用できない。
「冒険者カードって本来はそういう使い方する物じゃないと思う」
『使える物はなんでも使っておくべきだよぉ。僕たちが行商する時は、冒険者ギルドと商業ギルドに登録しておいた方が良いねぇ。販売で取り扱い出来る物が広がるからぁ。錬金術ギルドと薬師ギルドもあるけど、錬金術科に入った時点で両方ともギルド登録されるから、錬金術の授業が始まる初日に、ギルド会員のカードが渡されると思うよぉ』
「それって、授業の成績によってランクが上がったりとかするの?」
『D級まではねぇ。C級に上がるときはギルドで昇級試験があるよぉ』
なんか『工業高校で在学中に資格が取れるよ』みたいな感じかな?
頑張って授業の課題をクリアして、卒業までに最低でも両方D級に上げておこう。
「ちなみにウルシュ君は、錬金術ギルドとかのカードは持ってるの?」
『持ってるよぉ。持ってないと錬金術で創った物の商品化や販売が出来ないからねぇ』
「ちなみにランクは」
『錬金術ギルドと商業ギルドはS級で、薬師ギルドはCだよぉ』
ウルシュ君ってば、やっぱりチートだった。
錬金術科で習うべき事なんて、何もないんじゃないかな。
「なんでそんなにランクが高いの?」
『んーー。ステータス表示の指輪と、亜空間ポーチを創った事で錬金術ギルドでS級に成って、その販売で商業ギルドでS級に成ったよぉ。薬師ギルドはコツコツとあげたんだぁ、これ持ってると取り扱い出来る薬草や素材が広がるからねぇ』
ウルシュ君があまりにも簡単に創っていたから、全然意識してなかったけど、確かにあの二つの商品は歴史を変えるレベルの物だよね。
現地人チートキャラって、なんでこんなに人間離れしているんだろう。
実は転生者で女神からチートを何個か貰っていますって言われた方が、まだ納得できるんだけど。
ウルシュ君なら、いつしかマリエタの言う『大賢者』に近づける気がする。