プロローグ
良くある話だけど。
私、公爵家3女の『イザベラ・アリー・ロッテンシュタイン』は、前世の記憶を思い出した。
前の世界では、コールセンターに勤める28歳、独身女性。日本人。
今の世界では、乙女ゲーム『ラブ☆マジカル』の悪役令嬢6歳。ロゼリアル王国人。
うん。良くある話よね~・・・って、あって堪るかよっ!!
なんで転生してるの!!私、死んだの?なんでっ?!
そもそも乙ゲーってフィクションでしょ?
そのフィクションとまったく同じ異世界が有るなんて、おかしくない?
そして、なんでお約束の様に悪役令嬢に転生してんだよ!!
創作物で日本人、異世界に転生しすぎだろっ!!
しばらく心の中で悪態をつき続け、もはや語るべき事は無くなった所で・・・
改めて、私が前世の記憶を思い出すきっかけとなった人物に視線を戻す。
テンプレ通りなら思い出すきっかけは、婚約者になる予定の王子との顔合わせや、頭を打つといった事故なんだろうけど、私は違った。
隣国に嫁いで行った一番上の姉へ誕生日プレゼントを贈る為、両親が呼び寄せた馴染みの商人。
その商人が連れて来ていた息子が、商家の馬車の近くでしゃがみ蟻の行列を見ていた。
私は彼を知っている。
9年後、ゲーム『ラブ☆マジカル』の舞台になる、王国立ロゼリアル魔術学院に出てくるキャラクター。
大商人の息子の、ウルシュ君だ。
ファミリーネームは知らない。
ちなみに彼は攻略対象キャラでは無い。
もう一度言おう。彼は攻略対象キャラでは、無い。
具体的に言うならば、彼はサポートキャラだ。
ミニゲームで稼いだポイントで、攻略やイベントに有利なマジックアイテムを売ってくれる。
ある意味モブキャラなので、容姿は攻略対象の様に整ってはいない。
だが、前世の私の好みにドンピシャだった。
ベージュに近い薄茶色の、モフモフした髪。
童顔で柔和な顔立ち。
そして、開いているのか、いないのかよく分からない、糸目。線目とも言うのか?
はじめはフニャっとした笑顔のせいで、糸目みたいに見えるのかと思っていた。
ところが、ガチャでSレアを出した時のビックリ顔でも糸目だったので、デフォで糸目なのだろう。
可愛い。癒される。なんか羊っぽい。らぶ。
もともとは、友人が招待アイテム欲しさに、登録だけでもしてくれと頼んできたから始めたゲームだった。
イケメンキャラの攻略には全然興味は無かったのだが、ウルシュ君に心を撃ち抜かれた。
その後は、ウルシュ君の為だけにログインしているようなものだった。
ウルシュ君からアイテムを買った時の「まいどあり~」の言葉と笑顔のイラストを見る為だけに、ミニゲームを繰り返しポイントを貯めた。
イベントごとのアイテムガチャで『レア』を引いた時に「おめでと~」のセリフと共に、クラッカーを鳴らして祝ってくれる2頭身のウルシュ君のチビキャライラスト、『Sレア』を引いた時のビックリ顔イラストおよび、使い回しのクラッカーを鳴らしてくr(中略)イラストを見るために、食費を削りながら課金ガチャをぶん回していた。
あ、このゲーム。基本は無料だけど、課金アイテムや課金ガチャなど一部有料です。
いつか、彼を攻略出来る日が来るんじゃないかと期待しつつ、給料の殆どを注ぎ込み、食費を削って激ヤセし、栄養が足りずにフラフラした挙句に、一人暮らしのアパートで倒れて・・・
助けを呼ぶ事も出来ないまま、2日程飲まず食わずで床に転がっていたのが最後の記憶で・・・
って!!私の死因が分かってしまった。
栄養失調で餓死だ!!飽食の時代の日本で!!
まぁ、ひとまずそれは置いておこう。
もはや前世の死因はどうする事も出来ない!!
だが!!コレはチャンスじゃ無いか?
乙ゲー転生を成した今!!目の前にリアルウルシュ君が居るのだ!!
命を削りながら、攻略する機会を待ち望み続けていたウルシュ君が!!
同じ世界に居るのだっ!!
あぁ!!もっと近くでウルシュ君を見たい!!
子供時代のウルシュ君!!
近くでウルシュ君と同じ空気を吸いたいっ!!
そうと決まったら接近有るのみ。
しゃがんでいるウルシュ君に近づいていく。
「ねぇ、そこで何を見ていらっしゃるの?」
蟻の行列見ているのは知っているけどね。
他に切り出し方が分からなかったよ。
私の声に顔を上げる幼ウルシュ君。
子供の頃から当然だけど糸目だ。可愛い。
突然声をかけてきた私を、不思議そうにキョトンと見ている幼ウルシュ君。可愛い。素敵。
そのままコテンと首をかしげる幼ウルシュ君。可愛い。好き。
首をかしげた勢いで、モフモフの髪の毛が「もふん」と揺れる。可愛い。とても好き。
「・・・・・蟻?」
返答がワンテンポずれてる。可愛い。大好き。
しかも、疑問形だ。可愛い。愛してる!!
「あぁぁぁぁぁぁっ!!可愛いっ!!愛しいっ!!私と結婚して下さいませぇぇっ!!」
想いが抑えきれず初対面でプロポーズをかます私の勢いに、ウルシュ君はポカンとする。
可愛さと愛しさに悶え、両手を握りしめ、激しく上下に拳をシェイクする私をしばらく眺めた幼ウルシュ君は、ふにゃりと笑って答えた。
「いいよ~。大人になったら、お嫁さんに来てね。絶対だよ?」