第九十五話 デザインフィッシュパンデミック
「『2021年――月1日』」
「『とうとう、初めて、実験に成功した。私が長年、最弱であると思ってきた魚。この魚を強者として進化させることに成功したのだ』」
「『記念すべきその魚とは、もちろん――――』」
「『2026年3月――日』」
「『愚か者共にしては随分、気が付くのが早かったようだ。ここいらが潮時らしい。まあ、逃げ延びるならそうだろう。だが、私はそうする気は一切ない。私は何としても、今ある秩序を粉々に砕いて見せる! そして、――――』」
「『2023年3月22日』」
「『手始めに放った標識した私の手による人工魚。そいつが無事海流に乗り、目的地である日本の九州の南沖へ到達し、うまく群れへ紛れ込んだらしい。』」
「『こいつは日本近海にしか生息していない。だから、明瞭に成果が出ることだろう』」
「『2024年――月――日』」
「『ここまで思い通りになるとは思わなかった。私が紛れさせた標的魚が、群れを進化させ、一族の生息域を大きく広げているらしい。そして、愚民共は呑気に我が愛し子たちを捕まえようとして、逆に海の藻屑となることが多発しているようだ。』」
「『どうやら、鼻の聞く奴が最近、私の――――』」
「『2024年――月――日』」
「『海の支配者は、海生生物。中でも、魚類よ。これこそが自然なのだ。これこそが摂理なのだ。食卓から――が消える? 当然だ。食卓に魚を容易くほぼノーリスクで並べられることが可笑しいのだ。食べたくば、己の命を賭けよ。それができない貴様らには、口を開く資格すら本来無いのだから』」
「『2026年1月1日』」
「『前日から行った仕込みにより、1月1日となった瞬間、新年が祝われることとなった瞬間、人類は恐れ無しに海に出る機会を未来永劫失った』」
「『これまで食用とされてきたあらゆる魚に梃入れした。ひっそりとこのときのために買い集めた世界各地の土地。数多もの自動制御の船。それらに積み込んだ、人に牙向く魚の種』」
「『新年の祝いで海に飛び込んだ者たちが最初の贄となった。私はその様子を今、この上ない感激を味わいながらじっくりと咀嚼している』」
「『我がいとし子たちよ、支配し、どこまでも繁栄せよ。私が見ていられる今も。そのずっと先もただ自然と――――』」
「『2027年7月20日』」
「『今日は、海の日。私の生まれた国で定められた、休日の一つ。この日を、私は塗り替える。』」
「『結果はすぐに分かる。海を伝って、世界全てにそれは影響を与えるのだから。そして、私が見届けるのはここまで。』」
「『願わくば――――……』」




