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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第九十一話 デザインフィッシュ 前編

 男はいきなり答えだけを与えるという気は毛頭ない。それをしたとしても、人々の心に大して響かないことが分かっているからだ。


 だから、まずは、人々が男の与える答えに深く納得できるような土台を作り始めた。これまでの前置きの話だけではまだ足りない。前置きが果たした役割は、男が答えまでに長い道のりがあることを示しても話についてくるようにするということだ。


 人々はその道を歩き始めた。だから、次にすべきことは背中を押すこと。その手段とは、自身の頭で考えさせること。


「まず、頭に浮かべてみて欲しい。モンスターフィッシュを。何でもいい。そして、一度考えてみて欲しい。こいつらを見て、皆はある疑問を一度は抱いたことがあるのではないか?」


 男は人々の反応を見る。男には目の前にいるやんごとなき人々しか様子は分からないがそれで充分だった。


 頭が固い代表であり、今回の最大の難敵であるこの者たちが自身に示す反応が望むべきものならば、東京フロートの大半で同じ反応が広がっていると容易に予想できるからだ。


 この時代は、かつてのように、どこにいても世界中のニュースが、人類全体のあらゆる知識が、得られる時代ではないのだ。


 だから、民衆は知識豊富で頭の回転の早い者の意図に簡単に誘因される。人々の中に、その者が発信した情報が正しいかどうか、妥当なものであるかの判断基準が無いのだ。


 今回の場合、ただ、男が貴族であり、比較的嘘はつかず、知的であるということが広く知られている。今回の結婚式のために男のことが大々的に東京フロート全域に広まっていたことも原因となっている。


「こいつらはなぜやって来たのか、どこからやって来たのか、もしくは、何が進化した、変異した生物なのか」


「私はその答えを知っている。」


 フロートの全住民がざわめき、フロート全域が騒然とした。たとえ無知であろうとも、モンスターフィッシュを知らない者などいない。だが、あるとき突然現れたそれが、どこから何のために、どのような経緯で現れることになったかなど誰も知らないのだ。


 そして、誰もが一度は疑問に抱きつつも、どうせ分かるわけがないと、すぐに意識の端に追いやったり忘れたりしたことなのだ。


 男の問いかけの効果もあり、疑問は大きく膨らみ、この時代、多くの人たちにとって、持たなくなっていたものである好奇心に火が灯ったのだ。






 フロートが鎮まりかえった。


 男は今このとき、核心に迫る発言をしようとしている。しかし、やはり緊張するのだ。これは大々的に長期間に渡って隠蔽されてきた情報だ。


 もしそれを話したら、男は自分の身に危険が及ぶかもしれないことは当然分かっている。しかし、男が抱いた夢の先へ進むには、この事実を人々が知らないということは邪魔でしかなかった。


(ふっ、ここまで前へ進んでも、まだ怖いのか、私は。恐れているのか、私は。決めたではないか。かの船から戻ってきたリールを見て決めたではないか、私は。)


 実は、男は少年に会う会わない関係無しに、今回の事を起こすことを決めていたのだ。


(彼女の横には、傍には立てない。ならば、彼女と対峙、比肩できるように。そうなろうと、自分に胸を張って生きていこうと決めたではないか。私は自分に満足して生きたい。これまではずっとそうだったが、あのときのリールを見て、私はそれが初めて叶わなくなった。だが、それなら、再度叶えればいいだけのことだ。)


 男はにやりと笑う。そして、品性の皮を捨てた。


「モンスターフィッシュはなあぁ、デザインフィッシュ、つまり、人工の、創り出された、決して偶発的でないある計画によって()()()()種群なのだ」


 男は手品のように、何もなさそうな場所からすっと数冊の古びたノートを取り出した。灰色の表紙のノート。それを地面に置き、一番上の一冊を手に取って開いた。


 中の紙は経年劣化により色あせているが、ぼろぼろになったり、よれよれになってはいない。男はそれをぱらりと捲った後、こう言った。


「計画名、デザインフィッシュパラノイア。おそらくこれの立案者は確信犯だったのだろう。計画書と実際行われたものが大きく乖離しているのだから。計画書のタイトルは、人造設計機魚創造計画。名は体を表す。皮肉にもその通りだったのだ。この場合、偽の名が人造設計機魚創造計画、真の名が、デザインフィッシュパラノイアだったわけだ。」


 目の前の一部の人々の顔色が蒼褪めたことを男は全く気に留めることはしなかった。


「作ったモンスターフィッシュの拡散までま計画に入っていたのだろう。まさに狂人というやつだ。偶然、ノートの断片を手に入れた私は、この狂人に興味をもった。そして力を注いで調べ、ある手がかりにたどり着いた。」


「著者不明でタイトルのない本。かつて南極大陸の異能海生生物資源開発研究所と呼ばれた、海水面上昇による厚い氷とその内部の低温の海水層による自然の不可侵領域となった忘れ去られた地。そこで見つかったものだ。つまり、断片が元々くっついていたノートがこれ、というわけだ。ふはははは、隠した奴、ざまないぜ! どうして塵にしておかなかったよ! ふはははあははは」

遅れてしまい申し訳ありません。これが昨日(8/6)の分になります。今日(8/7)の分も夕方以降になりますが本日中に投稿します。

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