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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第九十話 演説導入、実利という名の餌、夢という名の釣り針

 そこからは男はただ、語りかけるように話し続けた。目の前のやんごとなき人々や、東京フロートの各地の聴衆の様子など一切目に入れず、悦に入ったように、ただ一方的に、言葉を放ち続けた。


「皆はモンスターフィッシュを知っているだろうか?」


「ああ、そうだ、あれだ、」


「海に住んでるなんか強い生き物だ」


「海水面上昇後に現れた」


「生活の中で利用されるものもある」


「一匹捕まえるだけで諸君の大半が、生涯の賃金を遥かに超える大金を得ることすらある夢の存在であり、」


「一匹目の前に現れるだけで、諸君らの生を終わらすことすらある恐怖の存在であり、」


「一匹、その生態が解析されるだけで、諸君らの生活の水準を押し上げることすらあるかつての科学技術に相当、もしくは圧倒する、希望の存在でもある」


「まあ、一般的にはこんなところだろう」


 人々は今のところおとなしく男の話を聞いている。今のところ、特に何の変哲もない話。しかし、男の話術の巧みさ故、東京フロートの大部分の人々はその話に耳を傾けていた。






「もし諸君がモンスターフィッシャーであるとするならば、これらに加えて、さらにいくつか知っているだろう。」


「海水面上昇前の機械技術の代用品」

「これまで知られていた生物とは隔絶した生態系」

「異能、たとえば超能力としかいえないような力を持つ者の存在」


「さらに、諸君らがモンスターフィッシュの研究者、もしくは上位のモンスターフィッシャーだとすれば、さらにいくつか知っているだろう。」


「あるモンスターフィッシュの加工物による、ある程度の制限はあるが任意の記憶の定着法」

「人が食することによる極々低確率での異能付与、人としての一代突然変異」

「人との高度な意思疎通が可能な知能を持つ種」


「と、まあ、知らない者もいるだろうが、大雑把にはこういったところだ。」


 多くの人々が、それを聞いて驚愕きょうがくしている。そして、一部の聡い者たちは気付いた。モンスターフィッシュ。その存在は、あまりに人類に()()()()()()ということに。


「そして、今日、さらなる真実をこれらに付け足そう。」


「それは、モンスターフィッシュがどこから来たのか。そして、どこへ向かうのか。私が答えを与えよう。」


 モンスターフィッシュがどこから来たか。そんなことはどうでもいい、と人々は感じていた。男のその言葉にほとんど反応はない。ただ、男がその前に明かしたいくつかの真実に強烈に惹かれていたのだから。


 そこには実利があるのだから。


 より、かなり限られた者しか知らなかったモンスターフィッシュという存在の価値・利用法の存在が、ぼかされているとはいえ明かされたのだ。


 それは、人類の可能性を広げるもの。才能と呼ばれるものを後付けで得られる方法があるということを明かされたのだ。


 それも、全ての発言に責任を持つことが義務づけられており、その言の信頼性が揺るぎない、貴族による情報なのだ。


 それも、名前を晒し、一部の人々には姿も晒した上でである。






 とても人々が話を聞く状況ではない。人々の反応を今のところほぼ気にせずにいる男。男はこれも予め予想していたのだ。そして、人々の大きく膨れ上がった興味の方向を今からする話へと強く強く引き付けるべく、揺さぶりをかける。


「諸君、私が先ほど晒した真実なぞ、これから話すことと比べると価値なぞない。そもそも、私が今話してしまった。だから、もはや、先ほどの情報は全員が知るものと、つまり、常識となる。そうなれば、価値なぞもはや無い」


「だが、これから話すことは違う」


「私が話すのはとある真実。しかし、私以外誰も知らない真実。そして、それには証拠もある」


「そして、その真実は、先ほど述べた、知られざる実利なんぞとは比べ物にならない可能性を我々に齎すのだ。知って、それで終わりというものではない!」


「海面上昇以来30年、文明レベルを大きく落とし、最先端の技術の多くは失われ、後退することとなった我々が、先へ進むときがきたのだ。それも、今、この話を聞いている、我々が! 我々が、我々の手で、我々が最初に見ることとなる、未踏の領域へ足を踏み入れる、そんな機会が、この話を聞くことで訪れるのだ。」


「今こそが時代の転換点になるのだから。そして、この話を聞き、諸君らの一部は大いに心動かし、夢を抱くことになるだろう。それも、寝て見る夢ではなく、現実で見る夢を。それはこの30年、奪われたものだった」


「さて、ここいらで一度問おう」


「諸君、知りたいか?」


 男はそう尋ねて、しばらく口を閉じる。ここまでの話で、人々の熱量がどれほどのものになったのかを確認するために。


 人々の応呼がシュトーレンの周りだけでなく、フロートの他の島からも押し寄せて来る波のように、時間差で折り重なるように伝わってくる。


 各フロートから上がってくる熱、それが拡散し、どんどん広がっていく。話を聞く気があまりなかった者や、興味を持てなかった者まで巻き込んで、熱は膨張していく。


 声の波が最高潮になったところで、男は葬り去られたある一つの秘密の一部ではなく|体《・》を世に出すことを決心した。


 暴走気味の男であろうとも躊躇する内容がそこには含まれていたのだから。しかし、ここまで来たのだからと、自身も熱にほたされた男は自制を捨てた。


「ふはははは! では、応えようではないか!」

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