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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第八十一話 シュトーレン・マークス・モラー 後編

 席についたにも関わらず、少年とシュトーレンはお互い口を開かず対峙しているだけだった。男が何も発しないのは、おそらく自身を見極めているのだと少年は考えた。彼の視線は、真っ直ぐ、少年の顔へと伸びていたからだ、その視線はたまに少年の膝あたりにたまに移動するだけで、大部分は少年の目をテーブル越しに見つめていた。


 部屋の中央に置かれていた、1つのテーブルと2つの椅子に、2人は掛けていた。テーブル越しに向かい合うように。


 テーブルと椅子は、共通のコンセプトを持っているようだった。それも、大変珍妙なコンセプトを。透明なのだ。全て無色透明な硝子でできている。

 無色透明な直径1メートル程度の丸机。横から見た形状は、脚が長めで胴が短めのワイングラスそのものだった。

 机を挟んで、2人が座っている椅子がある。一辺50cm程度の、格子状の穴の開いた乱雑に割られた硝子の板を数枚重ねてたような座面と背面。座面の4つの角から伸びる4本の透明な円柱。不自然に直角で構成された椅子だった。


 かなり巨大な椅子で、少年は座っても、下に足が全く届かない。シュトーレンには丁度良い高さのようだったが。






「どうですか? その椅子の座り心地は。」


 椅子に座ってから幾ばくかの時間が過ぎ、ようやく、彼が口を開いたのだ。


 だが、少年は、

「良いとは言えませんね。むしろ、悪いとしか。」

と、素っ気無く答える。


「君は正直ですね。私と会う大概の人は、必ず、『快適です!』といったことを応えますよ。」


 男はそう言いながら上品か下品か判断しにくい笑いを浮かべた。顔による逆補正と言うのは恐ろしいものである。


 男は少年の反応を伺っている。それにどう返すのか。まだ見極めは終わらないらしい。少年は、彼の対応に早くも煩わしさを感じ始めていた。


 彼の言葉や仕草は洗練されていて上品である。だが、そこに含まれている悪意とまではいわないが、よくはない意図が流れていることを少年はなんとなく感じていた。


 彼はきっと、このように様々な人を試し、墜とすのだろう。正面から期待させて、背後から突き落とす。二面性のようなものが見え隠れしていた。


 少年はこの短期間、自身を品定めされる機会が非常に多かった。この場もそのうちの一つであるが、後ろから押されたとしても、死にはしない。命の掛かった取り返しの効かない場ではない。確かに、リールに会うという目的からは遠のくかもしれないが、それでも、東京フロートに来る前よりも進展しており、頼れる場所もあるのだ。


 だから、もうまっぴらだったのだ。相手のどうでもいい都合で試されるなんてまっぴら御免だ。そんな無駄な時間はないのだから。唯一少年が怖れているものは時間切れ。協会の力と自身の特権を使えば何なりと手は打てる。自分を信じているからこそここに来ているのだから。


「もう辞めませんか? そういうのは。」


 少年は、無表情に彼に向けて言い放った。

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