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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第七十九話 一日の猶予 敵地侵入

 石造りの巨大なホテル。警備員が大量にいるが、少年が止められることは一切なかった。少年が意識したのは、リールの立ち振る舞い。振る舞いに育ちが出るということを本の知識で知っていた少年は、できる限り、リールの普段の動きを意識したのだ。


 だいぶ上昇した少年の演技力のおかげで、あっさりとホテル前の石段を上がって、緑色の大理石で敷き詰められたロビーにあっさりと侵入する。


 さすがにここでは少年、止められる。上下黒のスーツのフロント係の一人がさっとやって来て、少年に丁寧に話しかける。そこには一切、子供扱いは含まれていない。


 少年の年からすればその扱いは、貴族なら当然のものであったが、少年はそのことは知らない。このような対応をされるとは思っていなかったのだ。だが、動揺を顔に出さず、行動する。


「私は、こういう者です。」


 さっと、通行許可証と、モンスターフィッシャー世界級を出す。


「お客様、申し訳ありませんが、現在は、このホテルは所有者一族の貸切となっております。」


「知っております。」


「できれば、結婚式が執り行われる前に、そちらの家の代表者と会わせていただきたいのです。両家の警備を担当する玉石から、伝言を預かってきております。直接会って伝えろとのことでして。私は使いを引き受けたんですよ。」


 少年はしれーっと嘘をついた。だが、少年の今の格好と立ち振る舞いから、そのことを疑う者はいない。そして、少年が警戒されていることをこの者は知らなかったようである。


「もし不安でしたら、玉石本人に連絡をとってみてください。その場合、確認が取れるまで私はここで待たせていただきます。」


 玉石が、多少融通を利かす程度はできると言っていたのを少年は利用したのだ。そして、その受付が奥へ引っ込んでしばらくして出てきた。


「ではご案内致します。当主は現在留守でして。後継者である御曹司に会っていただくことになります。」


 少年は黙って頷き、奥へと案内されていった。目指すは、最上階。7階である。






 この時代、高度な建築技術は失われ、高層建造物の高度は低くなっている。この建物はその中ではかなり高いほうだった。一つ一つの階層の天井が人一人分よりもかなり高い。そして、七層構造。この時代の事実上の限界高度の建物なのだ。


 当然エレベーターなどというものが存在しない……わけではない。人力で、歯車などを使って、人力エレベータをこの建物は数基備えていた。


 あらかじめ、客に付き添いの受付がエレベーターの利用を求めておくことで、エレベーターの床に、重みが加わると上昇していくのだ。

 重みが加わったことは、奥にスタンバイしている人夫に伝わるようになっており、彼らが、壁から出たロープを操作することで稼動するようになっているのだ。

 引くと昇り。引くのをやめると、エレベーターの自重でロープが引っ込んでいき、下がる。どこかの階で止まるときはロープを全体重かけて踏むことで行う。ロープにはところどころ赤く染めた印があり、そのすぐ傍には数字が書いてある。それがどの階層に今エレベーターがあるかを示している。

 ロープは太く、しっかりと脇に抱えることで持つことができる重さであり、複数人の人夫がその作業を行っている。


 エレベーターは木製である。木の板が幾重にも張り重ねられて造られているように見える。底は白色の大理石。天井は、木のアーチだった。それはまるで、木製の鳥篭のようだった。


 受付からエレベーター内で説明を受けていたら、ようやく7階へ到着した。扉はからくり仕掛けであり、スイッチを押すと開くようになっていた。


 扉が開いて、少年は7階へと足を踏み入れた。

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