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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第七十八話 一日の猶予 侵入準備

「できる限り簡潔に話すよ。まず、君に与えられた猶予は一日。」


 彼女が告げた刻限は短かった。少年が想定していたよりも。


「え、二日はあるはずやろ?」


「島野家も、マークス家も、最近物騒なこの町を警戒してるのさ。だから、露出は当初予定していたよりもはるかに少ない。」


「前日には東京フロートを訪れたマークス家の面々は島野家の敷地に入るそうだ。極秘にね。そして、警備はガチガチになって、君は当然接近すらできない。そして、当のお披露目は、全部影武者で行い、本当のお披露目は身内のみでやることに決まったのさ。」


「え、ちょ、それって……。」


「その通り。君が島野家に接触する手段は、お披露目の前日には完全に消えるということさ。そうなれば君が割って入る術はない。リールお姉ちゃんだっけ? もう君が彼女をそう呼ぶことも、触れることも一切できなくなるのさ。」






 彼女は全部知っていたのだ。それもそのはず。彼女は、偽物と本物のお披露目両方と結婚式の警備を依頼されており、引き受けていたのだ。船長からの情報もそれに加わり、状況を完全に把握しているのだ。


 少年は港区フロートの東の港から再び小型艇に乗り込み、早速動き出そうとしていた。彼女の話を聞き終わってすぐに。時間はもう無いのだから。一刻も早く、接触しなくてはならない。


 少年が向かっているのは、リールの実家がある渋谷区フロート代官山地区ではない。その東隣にある恵比寿フロートである。そこにある、マークス家所有のマークスホテルを、一族で現在占有しているのだ。


 さっき情報を聞いた彼女、玉石ぎょくせきから聞いたことを思い出しながらそこへ向かっていた。ちなみに、彼女には名乗るべき名字は無いそうである。家を出るときに捨てたとのことでそれ以上は聞けなかった。


 少年が島野家ではなく、マークス家に接触を図ったのには理由がある。少年は島野家についてもマークス家についても玉石に尋ねたが、マークス家に関しての情報は、ほぼ無かったのだ。同然、あの門番から聞いた事実も含まれていなかった。彼女は誓って隠し事なく少年に全部教えると言っており、嘘をついているようには見えなかったため、間違いないのだろう。


 また、島野家がガチガチにガードを固め、誰とも結婚式が終わるまで接触しない状態になっていることを知ることができたからだ。

 玉石による警備の内側に、より強固な島野家独自の警備網が張られているらしく、玉石ですら、依頼を受けてから島野家の一族の者と顔を合わせることができていない。


 よって、マークス家に接触することにしたのだ。近くのホテルまではまだ容易に近づくことができるのだから。とはいっても、少年は警戒されている。そのことを少年も知っている。だから、正攻法以外の方法で事態を何とかすることにしたのだ。


 玉石は少年に情報は漏らしてくれたが、そこから先は協力できないらしい。それも当然である。彼女は両家の結婚式の警備責任者なのだから。釣人協会の日本本部の看板を背負っている以上、少年に直接手を貸すわけにはいかないのだ。

 本来、こういった情報を与えるだけでも大変不味い。ある意味、部分的にではあるが、警備の情報を漏らしたようなものなのだから。


 だが、幸いにも、少年には自分で考えて行動できる頭がある。必要最低限の情報は揃っている。となれば、行動を起こせるのだ。東京フロートに上陸した地点の、何一つ手掛かりのない状況と比べるとはるかにましなのだから。






 玉石から発行してもらった通行証を提示し、あっさりと渋谷区恵比寿地区に紛れ込むことに精巧した少年がまず向かったのは、服屋である。釣人協会本部で抜け目なく、お金を借りておいたのだ。借りたお金の代わりにモンスターフィッシュを協会に納めるという条件で。


 最上級のモンスターフィッシャーの証を持つ少年がそう言うということは、ブラックカードに等しい力を持つ。いくら必要か想像がつかなかったので、百万程度の現金をお札で。そして、クレジットカードを作成した。当然ブラックカードである。


 ヨーロッパ調の上品な店内へ、あまりに不釣合いな少年が入ってきたことで、レジに居た店員は即、奥に控えさせていた用心棒を呼ぶ。


「おい、小僧。ここは、お偉いさん専用の店だ。小汚いガキの来るところじゃねえ。帰れ、なっ。」


 上下黒のタキシードを来た筋肉筋肉隆々の大男が姿を現し、少年に警告する。少年はツいていた。ここで問答無用で追い出され、締め出されなかったのだから。あらかじめ、協会を出る前に風呂に入っておき、その間に服も洗っておいてもらったのがよかったのだろう。


「俺、わりとまじめに、客のつもりで来たんやけど、ほら。」


 少年は、通行証と、モンスターフィッシュ世界級と、協会で作ったクレジットカードと、むき出しの札束を提示した。説明するのがめんどくさかったので、全部出したのである。


 そして、態度を180度変えてぺこぺこし始めた店員にこの東京の、貴族階級クラスの服を一式用意してもらい、仕立ててもらうことにした。時間が少々掛かるとのことだったので、上流階級の身ぐつろいができる理髪店まで、先ほどの用心棒を借りて連れていってもらった。また一から説明するのが面倒だったからである。


 そして。髪型から、眉毛。それを綺麗に整えてもらった少年は店へと戻り、服を着た。もうすっかり、その立ち姿からは少年の育ちは感じられない。それほど上品に見え、様になっていた。


「お似合いでございます。」


「間違いなく似合ってるぜ、ボウズ。お前すげえなあ、……いや、ホント。」


 キャスター付きの、黒色の本革で覆われた数十cmの大きさの荷物用バッグに手持ちの荷物を全部積み込み、二人のお墨付きを貰った少年は、目的地へと向かう。

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