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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第七十七話 包み隠すな

「はは、照れますね!」


 彼女が言うあいつとは、少年の船の船長のことである。彼女と船長は旧い知り合いなのだ。自己紹介から始まり、そして、手紙で船長が少年のことをべた褒めしたことを少年は聞かされているところだった。


「リラックスしたみたいだし、本題に入ろうかぁ。」


 促音そくおんや濁音を無駄に混ぜ込んだ彼女の喋り方にも違和感がすっかりなくなっていた少年は、それに応じ、船長から預けられていた手紙を渡す。 例えば、"っ"。これだけだと、どう足掻いても発声できない。そのような音を促音という。


(やっぱり濃いなあ。まあ、会う前からそんな予感はしとったけどな。)


 少年は胸に忍ばせた封書を彼女に渡す。彼女はそれを受け取り、その辺にそれを放り投げた。そして、目を瞑り、首を横へ振った。


「違うでしょぉ。そうじゃない。こんな御使いが君の目的じゃあないでしょ。この島で起こったことは基本的に私に伝わってくるのさ。賢い君になら、もうここまで言えば分かるでしょぉ。はぁ。ったく、小賢しいね。」






 これらが少年が彼女にあのような煽り言葉を浴びせられるまでに起こったことである。彼女は、東側にある、サッカーボール4つ分くらいの大きさの黒い御影石の方へ移動し、座って、先ほどの言葉を浴びせたのだ。


 そして、彼女は立ち上がり、その上に立った。少年の方を向いて。そして、大きく息を吸い、彼女はこう叫んだ。


「たったと用件言えやあ!!! てめえが何したいか、こっちは知ってんだよぉぉ! はぁ、だんまりか。てめえはなあ、今すんげぇマークされてんだよぉ。大注目だぁ。っ、はぁ。」


 叫び終わった彼女は、あきれるように溜息を吐いた。






 少年は気づいていなかったのだ。徐々に演技が解けてきて、素が出てきて。そして、そこかしこから何か隠し事をしているような、何か伺っているような態度が出てきていたのだ。落ち着いて話していると、時折変な間があったのだ。少年ほどの頭の回転を持つなら、そのような間が生じるのはおかしいのである。彼女はそのことに気づいていた。


 そして、いつまでも用件を切り出してこない少年にしびれをきらし、つついてみたのだ。


「ああ、お姉さん、すまんなあ。ちょっと嘗めとったわ、あんたを。」


 少年は立ち上がり、膝を地面に付く。これが少年にとっても最も誠意ある頼み方なのだ。


「どうか、島野家かマークス家の力持つ人か、強い繋がり、直通の伝手持ってる人。それらの居場所と、関係。教えてくれへんか。」


「ほう、そうきたか。君、マークス家のことどこで知った? 島野家と婚姻結ぶ相手の情報で、その家名については一切明らかにされていない。当日までのサプライズってことでね。それに君がマークス家のことを調べているなんて情報もこちらにはないね。」


「頼む。」


「まあ、いいだろう。私はね、君のとこの船長からある頼み事をされていたのさ。『そのうち釣一本ていう名前の、化け物がお前んとこになんとかして辿り着くだろうから、気に入ったら手伝ってやってくれ』ってね。」


 彼女は立ち上がり、放置していた手紙を拾い上げ、封を開ける。そして、それを読み上げ始めた。


「『そのうち釣一本ていう名前の、化け物がお前んとこになんとかして辿り着くだろうから、気に入ったら手伝ってやってくれ。この前の手紙で報せた通りだ。俺への借りの山を全部返すつもりで全面的に協力してやれ。だが、何を手伝うかは、辿り着いたそいつから聞け。』」


 少年は顔を上げ、放心していた。自分は船長の掌で踊っていたのだと気づいて。だが、その情けなさと怒りは、船長が自分にそこまでして手を貸してくれたことへの感激で相殺されていた。だからこその放心である。


「いや、まだ続きがあるよ。『あとなあ、前渡した手紙に書いた通り、そいつに封書持たせてあるから。俺が派遣した奴だという証明として、一応、な。なお、封書に開封の痕があったら、俺からの頼み事は何もなかったということで、そいつは追い返してくれ。何も言わずになぁ。』」


「は、はぁ?」


 少年は思わず声をあげた。一体なんのための封書なのだ、と。きっと大事な何かが書かれていると思って大切に持っていたが、中身はなんのこともない、場合によっては一切必要のないものだったのだから。


「ふふ、いい反応だ。まあ、これは君の船長の仕込みだったということさぁ。だけど、私の予想をはるかに上回って、君はおもしろい奴みたいだね。あいつが手紙を寄越してまで報せてくるんだからねえ。」


「で、どうなんや、教えてくれるんか?」


 すぐに少年は目的に立ち返り、自身の行動の成否を確かめにかかる。


「いいよ。全部教えるよ。君のおかげで、あいつの近況も知れたしね。もうすぐしたら、立ち直ったあいつ本人も見れるんだから、君には逆に感謝しているよ。だから、お礼なんていわなくていいし、しなくていい。君がこれから起こす行動が私にとっての愉しみになりそうだしねぇっ!」


 少年は三つん這いのまま、力強くガッツポーズした。

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