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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第七十三話 益荒女の値踏み 後編

 狭い通路を抜けた先に広がっていたのは、庭園だった。洋風の庭園。鼠色の煉瓦が敷き詰められてできた道。その周囲には、芝生が広がっている。四方を窓のない白く高い外壁で覆われている、一辺100mほどの正方形の空間。頭上には切り抜かれたような青い空が広がっている。


 壁の隅にも影はなく、四つの角にある正方形の小さな花壇にも光がしっかりと当たっている。花壇の花は、全て、黄色。距離が遠いため、花の種類までは識別できない。空から十分な量の光が空間全体に降り注いでいる。


 中央には噴水がある。噴水は、とんがった岩場の上に座り、釣竿をぶら下げ何か釣り上げようとしている瞬間の人をモチーフにした青灰色の像のようである。


 少年はそれに興味を持ち、中央へと歩いていく。そして、その像を見上げてみる。人の像と思っていたそれは、顔がなかった。顔どころか、服も。ただ、人の輪郭だけを形取った、人もどきだった。

 それに比べ、竿や岩場はとても精巧に作られている。色もしっかりと付けられていれば、実物と見間違えたかもしれないほど、質感がリアルだった。彫刻としては間違いなく、一級品である。


「どうです、それ? 変でしょう? よくわからないでしょう? ええ、私にもよく分かりません、それ。」


 小鬼が後ろからやってきて、首をかしげながらも目の前の像に見入っていた少年に話しかける。少年はただ首をかしげるという返答をするのみであり、小鬼も、自分にも分からないと答えるのみだった。






「ではそろそろ行きますか。噴水から目を一度離してくださいね。そして、向こう側を見てみましょう。噴水の奥に何があります?」


「あれ? あんなもんあったか?」


 少年は目をこすってもう一度前を見る。


「やっぱり消えてない。なんで俺、あんな大きくて違和感出してるもんに気づかなかったんや?」


「それはですね、あの噴水の像のせいですよ。あれの存在感があまりに強すぎて、その向こうに焦点を、意識を合わせられないようになっているんですよ。」


「?」


 少年は依然として混乱している。実感が湧かないのだ。少年は普段から物事を引いた視点で見ている。目の前の風景を見るときも、同様だ。一箇所に集中せずに全体を俯瞰する。


 だが、今回はそれができていなかった。四辺の壁と、空と地面。それを見て部屋の大きさを把握した後、四辺の隅を見て、中央の噴水に目を移した。

 少年が噴水の奥の建造物に気づく機会は二度あった。四辺の壁を見るとき。噴水に目を移したとき。だが、気づけなかったのだ。

 小鬼の説明ではその半分しか説明できない。


「例えばですけど、人が数人集まった中で、一人だけ物凄い派手な人がいるとするじゃないですか。じゃあ、その人意外に誰が回りにいて、どのような格好をしていたか思い出そうとすると、結構難しくありませんか? それと同じようなことが起こるようにここは造られているんですよ。」


「……。」


「はぁ。納得していませんね。ここを造ったのは長です。あの像含めて。気になるなら、あとは本人に聞いてしまえばいいでしょう。」


 噴水の奥には、見え難いが、緑色の建造物があった。噴水の反対側へ回り込み、見たそれは、若竹で覆われた円柱形の庵だった。壁に接する、直径15メートル程度の、何本もの若竹で作られた覆いのようにも見える。


「長~、出てきてください。とっても重要なお客様ですよ~。あれ通して見てたでしょう、あなた。たったと出てきてくださいよ~。」


ドンドン、ドンドンドン!


 小鬼は、目の前の竹の壁を何度も何度も、蹴る、蹴る、蹴飛ばす。中にいるはずの長に呼びかけながら。


 すると、目の前の竹の、地面から2m程度の部分が、突然正面に向かって倒れてきた。どうやら、地面から2m程度で切れ目が入っており、そこが入り口になっているようだった。


 小鬼は倒れてくる竹を平然と避ける。少年は、何かあると用心して、入り口の正面に立っていなかったため、難を免れた。


 入り口の左側にいた少年は小鬼を睨み付ける。死んだ魚の目で。これにはさすがにびくりとしたらしく、小鬼はぺこぺこと頭を下げた。その顔は少し怯えていた。

今日はあと二話投稿します。

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