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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第七十一話 益荒女の値踏み 前編

「ねぇっっっ。早いとこぉ、言ちゃいなよ~!。ホントは何がぁ知りたいのぉっ!」


 少年は大粒の汗を顔から噴出しており、自身の心中を吐き出すかどうか決断を迫られていた。


 少年の目の前に居るのは、一人の女性。サッカーボール四個分ほどの大きさの、黒っぽくて四角い御影石の上にに座って何度も足を組みなおしている。少年を煽るように。


 随分と気持ちが高揚している、底抜けに明るい妙齢の女性だった。少年は、四畳ほどの広さの整備された黄緑色の芝生が床になっている、青緑色の竹を敷き詰めて形成された壁と天井を持つ奇妙な部屋の中で、この女性と二人っきりになっていた。


 少年は困惑していた。彼女に問題を打ち明けるべきか。もし打ち明けたとして、事態を打開できるのか。そもそも彼女を信じてもいいのか。


 当然少年がこれだけ困惑するのには理由がある。困惑の理由を、彼女が重く積み上げたのだから。少年と会ってから、今にかけて。ほんの僅かな時間で。


 少年はその一つ一つを下から順に解きほぐそうとしていた。


 時間は少し遡る。






「はいっ! 今すぐ案内致します。」


 少年の見せた、最上位のモンスターフィッシャーである証。はじめはそっけなく少年に対応していた小鬼のような背の小さくて老け顔の門番は、それを少年に見せられると顔色を真っ青に変え、即座に、一切の躊躇なく、地面に頭を打ちつけるように土下座した。


 前もって一度、そのような態度の豹変を見ていた少年は、比較的焦ることなく落ち着いて対処することができた。あっさりと、あやしておだて、小鬼門番を立ち直らせた。


 これが、少年の持つ証の力だのだ。貴族相当の扱いに加え、貴族すら持ち得ないいくつかの特権がついてくるのだ。無礼は死に値する。モンスターフィッシャーと関わりがある者であれば誰もが知っていることだ。


 この証を持つ者は数えるほどしかおらず、持つ者は人格者揃いであるため、貴族としての力を誇示したり悪用したりした者は公式には一切記録されていない。


 まあ、人の出入りや外との交流のほとんどない田舎では力を一切発揮しないということもよくあるらしく、少年もそのことを船長からボヤかれたことがある。


 少年はその門番に先導され、中央の巨大な建物へと向かうのだった。






「どうです? 大きいでしょう。」


 すっかり調子を取り戻した小鬼門番。


(門番という職に就いてる人らってもしかしてみんなこんなんやったりするんかなあ……。)


「ああ、そうやなあ! こんな大きい建物、俺、今まで入ったことないわぁ! 全然大きさの検討もつかへんかったし。」


 少年はとりあえず大げさに答えておいた。この建物のあまりの規模に驚いているのは事実ではあるが。


 その建物はチョークのように真っ白で、とかく巨大であるとしかいえなかった。高さは天井高めの一階建ての建物程度の高さなのだが、正面から見て、右端から左端までが一度に全部は視界に入らないほどに大きいのだ。

少年は左から右へと視線を動かしていくことでようやく、それが直方体の建物だと理解したのだ。


「そうでしょうそうでしょう! ですが、まだまだ驚くことはたくさんありますよ。」


 二人はどんどんと建物へ近づいていく。そして、建物の入り口に到着したところで小鬼門番が足を止めた。


「この壁見てみてください。」


 少年は顔を近づけてそれを見てみる。どうやらこの建物は煉瓦を積み重ねてできているようである。だが、その煉瓦。孔がたくさんあるのだ。ぎっしり詰まっていない。全く丈夫そうに見えないのである。


 不思議そうにそれをじ~っと眺める少年の型を叩き、小鬼がにやにや笑う。そして、少年に尋ねる。


「これ何でできた煉瓦だと思います?」


 少年は首をかしげながら、

「石灰岩ちゃうの? 白いし。でも、なんでこんな穴ぼこだらけなんやろう?」

と、素直に答える。


「それはですね、なんと! 珊瑚でできているんですよ。」


「え? 珊瑚って色ついてるやん。」


 少年はすぐにそう切り返した。


「え? それ何って聞かないんですね。さすが世界級保持者は違いますねぇ。」


「いや、たまたま図鑑で見て知ってただけやでぇ。でも俺が持ってた図鑑には死んだ珊瑚乗ってなかったから。」


 珊瑚が死ぬと白くなるのは今の時代もはやほとんど知られていない。絶滅してしまったのだから。生きた珊瑚を見る機会すらないのだから。死んだ珊瑚。それは珊瑚ではなく、ただの白い石としかもはや見られなくなっていた。


 海抜の急上昇で一瞬で絶滅したのだから。珊瑚という言葉は、一部の博識な者しか知らないのだ。


「死んだ珊瑚は真っ白になるんですよ。それにある液体をかけることでこれだけ積み上げても重さで砕けない、丈夫な煉瓦の素材にできるんですよ。」


(ある液体? まあ、こんな言い方するってことは、身近なありふれた液体か、モンスターフィッシュ関連かどっちかやな。)


「ここの長が見つけたあるモンスターフィッシュ。それの唾液です。まあ、これについては直接長に聞いてみたほうがいろいろ知れていいでしょう。長はそのモンスターフィッシュを発見して捕らえて利用法まで見つけ出したことであなたと同じ世界級に認定されたんですよ。」


「ふーん、そうなんや。それは、楽しみやなぁ!」


 楽しみなのは本当ではあるが、それよりも、その長が少年にとって必要な情報を持っていて、それを引っ張り出すことができるのか。その長はどれほどめんどくさい人なのか。そういったことのほうがずっと気になっていたのである。


 小鬼門番に先導され、少年は、死骸でできたその箱の中へと入っていった。

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