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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 最終章 東京フロート
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第六十六話 リールを追って 前編

「では行ってきます。皆さんありがとうございました。」


 本拠地の港。そこで一同は集まっていた。まだ早朝であるが、少年は今回協力してくれたたくさんの人たちに見送られながら出発することになっていた。

 これだけ早い時間に出発したのは、どこかを中継するせず、休まず真っ直ぐ一直線に東京フロートへ向かうためだ。日があるうちでなくては進行は困難である。少年が乗る舟は二人乗りの木製小型艇なのだから。


ブゥ、ブゥーン!


「大丈夫そうだね。」


 学園長はその音を聞き、満足げにしていた。


「ええ、本当にありがとうございます!」


 少年は心の底からのお礼の言葉を述べた。


「一本君、やり遂げろよ。」

「しんどくなってももううじうじするんじゃないよ!」


「はいっ!」


 少年は元気よく返事をした。


 研究者たちからエールには普段は感じられない温かみ、人情を感じ取った少年。その頬が自然と緩む。


 ジェット機構は少年が目的を達せられるに十分に、見事に働いていた。海中に漬かっているため、半永久的に動かすことが可能である。24時間、休みなく進み続けられるだけのスペックがあるのだ。


 少年は時間を逆算して、これからの旅路をシミュレーションする。夕方までにはなんとか到着したいところである。予備も幾つか積んであるため、万全である。自分がやることは舟に取り付けられた操縦舵を時折操るのみ。


 この小型艇は、ただの木造の小舟の底部を改造して作られたものであり、舵もそのときに取り付けられたものだ。座ったままでも握れる舵。舵というよりは、ただ突き出た棒のようにしか一見見えないが。


(リールお姉ちゃん、今会いにいくからな!)


ブッオオオオオオオオオオ。

ブゥオーン!


 少年は門へと到達する。北の門へ。そこから出て、海流に乗りつつ上部から東京フロートへ向かう予定である。


ブゥ!

ブゥオオオオオオオオオオオ――――


 すぐに元いた島は小さくなって見えなくなった。






 ひたすら進み続けた少年の舟。全く勢いを落さないまま、順調に東京フロート近海へ辿り着く。


ブゥオー!


 もう周囲は夕焼け色に染まり、その夕焼けもどんどん弱くなっているところだった。


ブゥオウウウウウンンンンッ。


(ぎりぎり間に合ったなあ。早いとこ上陸してリールさんの家探さななあ。)


 広がる無機質の白い巨大な板。そしてその上に広がる住宅地。その向こうには、本で見たことしかないような、異常な高さを誇る建物が木々のようにたくさん生えている板が見える。


(うわー、なんやこれは? これが都会ってやつなのかなあ? こんなに広くて建物多かったら、どう探せばええんや……。)


 少年の視界には、見えないほど遠くまで広がる大量のフロートとその上にそびえ立つ建物の山が映る。心が折れそうになったが、出発前に言われたことを思い出す。へこむな! と。そう。そんな時間はもうないのだから。


ブゥ、ブオオオオオオオ!

ブオゥゥゥ


 フロートの船着場。そこだけ海面からの高さが低くなっている。海面からの高さは3mくらいしかないのではないだろうか。そんな、長方形の船着場。その奥には階段があり、市街地へと続いている。


「おはようございます。」


 とりあえず上陸しようとした少年に、そこの船着場にいる青いボーダーのTシャツに白いズボンを履いた人が笑顔で挨拶してきた。阿蘇山島のゲートみたいなものの代わりなのだろう。門番と書いた腕章を下げているので一目瞭然である。


「はじめまして、おはようございます。」


 少年もそれに会釈し、挨拶した。


「君まだ子供だねえ。それにずいぶんラフな服装だね。それじゃあ君の身分が分からないよ。はぁ。」


「身分ですか?」


「ああ、気にしなくて大丈夫だよ。これは職業病みたいなもんだからさ。」


「分かりました。」


 口から出そうな疑問を押さえて少年は常識的に振舞う。揉め事を起こすわけにはいかないのだ。そんなことで時間を取られるわけには。


 門番は表情を柔らかくして

「その歳でしっかり受け答えできるってことはきっといいとこの子だね。さてと。君は一人で来たのかい? お使いかな? それとも遊びにきたのかな?」

と、少年に質問する。


「いえ、大事な用事がありまして。」


「なるほど。服装とは違って本当にしっかりしてるね、君は。えらいねえ。」


 そして、少年が舟を寄せて上陸しようとすると、

「通行書を出してくれるかい?」

と、少年を静止した。

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