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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第四章 船長の覚悟と新たなる目標
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第六十五話 へこむな!

 辺りはすっかり夕方になっていた。少年は夕日の中を駆けて、向かう。実験用水槽へと。そこで準備をしているらしいと店長から聞いていたからだ。


すっすっすっすっ、

ずさあああ!

キッ。


「皆さん、お騒がせしてすみませんでした!」


 少年はまず、頭を下げた。彼らは少年がお願いした以上のことをしてくれているのだから。


「いや、そんな気にしなくても。私たちにとって非常にお得な取引でしたし。」

「そうだぜ、ボウズ。代価払い過ぎだっつうの。」

「君は、私たち全員の研究成果足しても足りないほどのものを齎してくれたわけですから。」


 研究者たちは少年に気さくに言葉を返した。問い詰められたときとは異なり、毒気が全くなかったためあっけにとられた少年は、口からすっと疑問が飛び出した。


「え、じゃあ、なんであんなに強く理由聞いてきたんです?」


「決まっているでしょう。」

「決まってるだろ、そんなの。」

「もちろん当然でしょう。」


 そして、研究者たちは口を揃えて、

「興味! ただそれだけ」

と言った。


 その後に不揃いな語尾が聞こえてきた。


「ですよ。」

「だよ。」

「です。」


 少年は心の中で呟く。この人たちはきっと好奇心で動いてる人種なんだろうな、と。少年は呆れと安堵の溜息を吐いた。

 それなら間違いなくこの人たちは今回最後まで手伝ってくれるだろうからである。


 少年は気が抜けて笑い出した。釣られて研究者たちも笑い出した。しばらく彼らは笑い続けていた。






「お、もう意識取り戻したのかい。随分早いもんだねえ。」


 少年たちが笑っているところに学園長が顔を出してきた。


「学園長。ご無沙汰しております。」


 少年は笑いを止め、堅苦しく挨拶した。さっきまでも無邪気な子供っぽさは消え去っていた。


「そんなに硬くならなくてもいいよ。お前さん、そんな固っ苦しい喋り方疲れないかい?」


「まあ……、いいえ、大丈夫です。」


 礼儀を通しただけのつもりだったが、かえって気を遣わせてしまうことになってしまった。それに気づいた少年は少し言い詰まりながらも丁寧な言葉遣いを続けることにした。


 少しばかりは学園長の言葉に効果があったようで、謙遜し過ぎのレベルから、丁寧過ぎ程度のレベルまで落ち着いた。

 それを感じ取った学園長は満足げだった。


「組合長にあの後こってり絞られたんだよ。ガキにあんな態度は幾らなんでもないだろう! ってね。」


「いえ、いきなり無茶なお願いしに来たんですから、こうなるのは当然です……。理由もいわずに要求突きつけるなんて最低じゃないですか……。」


「お前さんにも理由がしっかりあったんじゃないか。それで慌ててたんだろ。私らがやりすぎたんだよ。大人げないことしてしまって済まないねえ。」


「いえ、頭下げるのは俺ですから。」


 少年は急いで頭を下げる。







 お互い頭を下げるのが済んだ後、学園長は少年に厳しく対応した理由を話し始めた。


「昔ねえ、この学園の知識欲しさに要求を突きつけてくる汚い奴らが湧いてたんだよ。で、ある時から、理由と対価を求めることになったのさ。誰が来たとしてもね。」


「なるほど、そういうことでしたか。大切な研究材料貸せって、ただ言われても、悪用されるかもしれないのに何に使うか全く俺言いませんでしたもんね……。」


 理由はあったのだ。やはり全面的に自分の対応が悪かったのだ。そう感じた少年は、しょんぼりとした顔になった。


「もういいから! へこむな、いちいち! 先は長いんだから。」


 突然の学園長の怒鳴り声に少年はとてもきれいな姿勢で気をつけして

「はいっ!」

と、大きな声ではっきりと返事をした。


「今晩中には準備できるから、お前さんは休みなさい。1Fの保健室のベットで休めばいいから。」


 学園長は柔らかい笑顔で少年に優しくそう提案した。


「え、もう準備できてるんです?」


 少年はあっけに取られたのだ。自分が考えていた準備期間よりもはるかに早いのだから。数日分早いのだ。


「お前さんが気失った後に、ぽろぽろぽろぽろ、今後どうするかの算段こぼしてたんだよ。だからその通りに準備したんだよ!」


 誇らしげな学園長。少年から見れば、目が光り輝き、口角がしっかりと上がり、歯が見えていた。おまけに後光っぽいものも見えるようだった。


「えっ……。」


 しばらく泣かないと決めたはずなのに、少年の目からは涙が溢れてきてしまう。ただ、それは冷たさ、悲しみではなく、暖かさ、喜びが篭った涙だった。


 少年は一つ学んだ。心の底からの想い。それはきっと相手に伝わるものなのだと。


(これならきっと、リールお姉ちゃんにも、俺の想いは、伝わる!)


「では、後、は、よろしくお願い、します。」


 深いお辞儀をした後、少年は校舎へと駆けていくのだった。

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