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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第四章 船長の覚悟と新たなる目標
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第六十四話 かき集めろ、ウイングエラガントユニコーンフィッシュ! 釣具店編

「お、起きたかい。釣くん。」


「……、上州さん……。」


 目を覚ました少年の顔は暗い。少年はなんとなく事態を把握していたからである。あの場所で突然気を失った自分はここへ運ばれてきた。そして、上州さんが見舞いにきてくれているのだと。


 そして、先ほどまで居た場所とは違う場所に居ることに気づき、辺りを見回す。木造の六畳一間程度の大きさの部屋。少年と上州以外には誰も居らず、部屋にあるのは少年が横たわるベット一つと上州が座っている背もたれのない丸椅子のみだった。


「ここは釣具店の二階だよ。僕の仮眠スペースさ。」


 それを感じ取った上州が少年の疑問に答える。そして、謝る少年をなだめる。少年が布団から出てベットの上の座ったところで事態の説明を始めた。


「組合長に聞いたところによると、君、頭割れるまで土下座してウイングエラガントユニコーンフィッシュ貸しれくれってせがんだらしいね。焦るのは分かるけど、やりすぎだよ。そんなことしちゃったらみんなドン引きしちゃって交渉なんてできないだろ。」


 呆れ半分、怒り半分というところだろうか、そんな神妙な顔で上州は少年を叱り、諭す。


「はい……。」


 元気なく口からそれを認める言葉を出す。


「君、普段と非常時だと、全くの別人なんだね。話聞いたときは耳を疑ったよ。」


 言い過ぎたかと思った上州は、普段のひょうきんな調子に戻り、気さくに少年にそう言ったが、沈んだ少年の気持ちは当分戻りそうになかった。


「……。」


 返事できず、黙ってしまっている少年。下を向いており、上州からその顔は見えなかったが、少年の顔は青褪め、少し震え、申し訳なさで一杯になっていた。


「それとギルド長から伝言貰ったんだけど、交渉成立だってさ。学園の方で早速色々やってるそうだよ。もうちょっと休んだら行ってごらん。」


 上州は出来る限り優しく、自然な感じで少年に、交渉の結果を伝えた。


「はい、よかった……。俺本当に碌でもないことばっかりして……。」


 少年は顔を少し上げる。そして、その顔が上州にしっかりと見えてしまう。上州は少年に同情した。上州は少年の事情を他の者とは違う角度から割かし知っていたからだ。


「リールさん居なくなっちゃったんでしょ。それなら仕方ないよ。だって君リールさんにゾッコンだったしね。うんうん、それくらい返事されなくても分かるよ。でそのためにウイングエラガントユニコーンフィッシュ必要なんでしょ。」


 悲しみでどんどん重くなる口を頑張って少年は開く。


「……ああ、組合長が話通してくれたんですね。またお礼言っとかないと。」


「うん、だいたい話は聞いてるし、僕も君に協力するよ。池のウイングエラガントユニコーンフィッシュは全部研究者の人たちが学園まで運んでいったから。」


 上州は少年がここに運ばれて話を聞かされたときに少年を助けると決めていたのだ。リール関係の事情を少々知っていながら少年に伝えることができないことによる罪悪感もあったのだが。

 リールから少年についての相談を受けていたが、その内容を少年に言うことは口止めされていたのだ。リールが居なくなる二日前にも相談を受けていたのだ。


「本当に、ありがとう、ござい、ます。」


 少年はぽろぽろ涙を流しながら上州に謝罪の意を含んだお礼を述べる。途切れ途切れになりながらも。


「いいんだって。君とは長い付き合いになりそうだしね。それに見ていられなかったから。君、リールさんいなくなってから元気吹き飛んでたからね。」


「はい……。」


「へこんだら言葉遣い丁寧になるんだね。いつものはもしかして無理やりかい?」


 気遣い半分、疑問半分での質問だった。


「いえ、気持ちと連動してるみたいです。自然とそうなると言えばいいのか。心配かけて本当にすみませんでした。」


 涙をさっと払い、少年は再度謝罪した。突如来たその質問によって少し落ち着けたのだ。


スルっ、ピリっ。


「さて、血は止まっているようだね。一応包帯変えるから。それが終わったら学園まで送っていくよ。」






ブーーーーン!


 上州に包帯を替えてもらった後、外に停めてあった車に二人は乗り込み、学園へと向かう。


「君さ、ちょっと焦りすぎだよ。もうちょい冷静にならないと。」


「分かってはいるんやけど。」


 少年はもうすっかり落ち着いており、普段の調子が戻ってきていた。まだ少し顔色は安定していないが。


「お、敬語取れたね。ちょっとは元気戻ってきたかい?」


「そうみたいやわ。」


 空元気であっても、そのような返事ができるだけ上出来である。


「まあ、トーンまではそうすぐに戻らないよね、流石に。」


「わざわざ送ってくれてありがとうな、店長。」


 少年の顔にいつも通りの笑顔が浮かんだ。


「いや、いいんだよ。君のおかげでまたモンスターフィッシュの大きな秘密を知ることができたんだから。これくらいはしなくちゃね。」


「店長。俺やってること変じゃないかなあ? 会って一ヶ月の女の人を追いかけるとか。それもこんな大掛かりな準備してさあ。そこまでしてやることか、って俺言われちゃったんよ。」


「まあ、普通はやらないと思うよ。」


「だよね……。」


「でもね、そんな君だからこそリールさんは心開いて近づいてきたんじゃないのかな?」


「?」


「あの人のこれまでのこと聞いてない? ここに来た経緯とか。」


「いいや。全く。」


「そっか。じゃあ、会ってなんとしても聞かないとねえ。」


 上州は口止めされているため話せない。だが、リールは少年にそのうち腹を割って自分の抱えているものを話したいと言っていたのである。

 だから、上州としては少年からリールに歩み寄ってその秘密を共有して、受け入れてやってほしいと思っていた。リールの秘密というのはかなり重いものではあるが。だが、少年ならなんとかしてくれるような気がするのだから。


「おう、頑張るわ、俺! 変とか変じゃないとかじゃないよな。俺がしたいから何としてもする。それでええか、もう。考え込みすぎると空回りするし!」


「お、ガワだけ見ればだいぶ元気戻ってきたみたいだね。そう。君はその感じでいけばいいんだよ。」


「わかったで。何としてもリールさんに会ってくるわ!」


 少年がそう決意表明したところで、学園に車は到着した。


ブゥゥゥゥ、ピィィ!


「喋っている間についたね。じゃあ、頑張ってね! 応援してるからさ、色々な意味で!」


 崩れた気持ちを立て直した少年は勢いよく車から飛び降り、駆け出していくのだった。


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