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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第四章 船長の覚悟と新たなる目標
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第六十一話 かき集めろ、ウイングエラガントユニコーンフィッシュ! 釣人協会編 後編

  少年が案内されることになるのは表向きには後悔されていない秘密の場所。地下二階。一階から地下一階に降りる階段の踊り場で受付が突然立ち止まる。受付が踊り場の端の先でしゃがみこみ、なにやら探している。


 すると、

「すみませんが、後ろの階段までちょっと戻ってください。」

そうお願いした。


「ご開帳ですよ。隠し階段です!」


 なんと、踊り場の床はぺらっとめくれ、その下には、妙に目立つ銀色の正方形の鉄板が。可動式の取っ手が取り付けてある。それを組合長がすっと動かし、板を除けた。じめっとした空気とともに、海の匂いが立ち込める。


 少年たちは順番に梯子を降りていく。薄暗い、じめっとした空間。少年は生唾を飲み込み周囲を見回す。着地点は狭い廊下になっており、片方は行き止まり。もう片方は重厚な赤黒い扉がそびえていた。扉中央には巨大な髑髏が妙に生々しく立体的に描かれていた。不気味な場所である。


「こけおどしですよ。こうしておけば、予期せぬ人がここに来てしまっても入ることはないでしょうからね。まあ、中はこの髑髏が示すような危険は全くありませんよ。」


 組合長が力を込めて扉を押して開いていく。見かけ通りそれなりの重さがある扉らしく、徐々に開き、光が差してくる。受付が言うような完全なハリボテではないようだと少年は感じた。少し身構えつつ少年は扉が開ききるのを待つのだった。






「蜘蛛糸水槽の作成方法は一応、協会の秘伝となっております。一部の優秀なモンスターフィッシャーのみその製法を伝えています。知らなくても、協会が大量に作って流通させているので入手には困らないですけどね。だから、よっぽどの状況にならない限り知っていても役に立ちませんし、雑学の領域になっちゃいますね。」


 少年たちは扉をくぐったすぐ先にいる。受付が部屋の説明に入る前に、手に持っていた作りたての蜘蛛糸水槽をそっとその傍の白い机の上に置いた。

 ほとんど知られていないが、蜘蛛糸水槽は作成後1時間程度経過しないと強度が弱く、形状が安定しないそうである。そのため、作成後、海水を入れて静置することによって、強度を上げつつ鉢状の形に安定させるそうである。


「この部屋は見て分かる通り、蜘蛛糸水槽の作成工場です。工場といっても何も自動化されてないですけどね。」


「そこの水槽の中にいるのがネバリトウメイマクシロイトグモです。モンスターフィッシャーであっても見る機会はほぼないですから、この機会にしっかり見ておいてくださいね。」


 モンスターフィッシュ、ネバリトウメイマクシロイトグモ。このモンスターフィッシュに限っては、モンスターフィッシュ大典においても表示されていない。特徴などは書かれているが、その姿を記すスケッチが載せられていないのだ。

 このモンスターフィッシュの有用性が桁外れであることと、その危険度の高さからそのような処置が取られている。姿が載せられていたら、これを追いかけて命を落す釣り人が続出するだろうと予測されたからである。

 実際、このモンスターフィッシュが発見され、スケッチが届けられたとき、モンスターフィッシュ大典の編纂を行う者たちがそれを見て、見た全員がこのモンスターフィッシュの毒牙に掛かって亡くなったからである。全員が凄腕のモンスターフィッシャーであるにも関わらずである。


 少年は目の前の無機質で透明度の高い板で直方体になるように形成されて海水が張ってある水槽を見つめる。その水槽の底には真っ白な砂の層があり、その上には少々大きめの石や水草などが置かれていた。その水草の林に透明なゼリー状の蜘蛛の形をした生物。それがところどころにいる。外見やオーラなどからは恐ろしさは感じられない。少年は時折首を傾げながらそれを見つめていた。


「では、蜘蛛糸水槽の作り方見せますね。解説しながら見ていきましょう。めんどくさかったら聞き流してください。」


 受付はそう言いながら少年たちを先導しつつ、ヴェールに包まれた蜘蛛糸水槽の作成方法を丁寧に語っていく。


「①蜘蛛を棒で突っ突きます。すると、このように、棒に向かって白い糸を絡ませてきます。」


「②棒を取り出します。そして、すぐさま海水よりも濃度の濃い塩水に浸けます。塩の飽和水溶液ですね。この蜘蛛の糸は塩分濃度が高い液体に溶けます。海水よりはるかに濃くなくてはいけませんが。溶けるといっても、バラバラになってしまうのではなく、ただ、糸の粘着性が一時的に失われるだけです。この段階の糸は透明で髪の毛よりも細い糸なんです。」


「③糸の端を見つけます。糸の断面は少し黄色いため、割とすぐに見つけられます。」


「④先端を棒に括り付け、徐々に塩水から出していきます。すると硬化し始めるので、頑張って筒状にして下さい。固まる前の糸が触れた部分は接着します。適当でいいので筒状に、口が一箇所だけの袋になるように、袋を糸で立体的に一筆書きして下さい。この際、糸は地面に置かないで、手も触れないで下さいね。棒しっかり持ってたら大丈夫ですから。」


「⑤最後に、全体が白くなったら水平な場所に置いて海水を注いでください。すると、あら不思議。がばがばなはずのその袋からは一滴の水も溢れません。見慣れたあの、透明な膜が張ってるからです。数時間安置したら完成です。」


「ふぅ、ざっとこんな感じです。皆さんばっちり頭に入りましたか?」


 そんな分量説明されて全部頭に入る人間なんてほとんどいない。目の前に大きく興味惹くものがある状況では。少年たちは彼女をねぎらう気持ちと、素直に全然頭に入っていないと言いたい気持ちを戦わせた結果、笑ってごまかすことにした。

 なぜか、蜘蛛糸水槽の製法をしっかりと頭に入れているはずの組合長までも同じように作り笑いを汗をかきながら浮かべていた。


 少年は世知辛さを感じた。


「後は固まるまで放置しておくだけですね。さて、ぼちぼち先ほど私が作成した瓶が出来上がっているでしょう。お、ちゃんと弾力を持っていますし、指で押してもすぐに形状復帰していますね。一本さん、どうぞ。」


 少年がその瓶を受け取った後、少年たちはその部屋を後にした。






「で、この後は学園へ向かうのじゃったかな? ワシも付いて行っていいかね?」


 少年はこくんと首を縦に振った。この男は頼りになる、きっと学園での取引でも助けてくれるだろうと期待しつつ。

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