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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第四部 第二章 悪徳者の軍勢

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第三百五話 深き処の謀議

―???―


 闇が広がっている。


 ォォン。ォォン。ゴォンン。ォォン――


 どんよりと響く、重い音。それ以外の背景音は無い。光は無く、そこの広さも、誰がいるのかも定かではない。だが、気配は数多く渦巻いている。


「では、報告を聞こう」


 その声は、不明瞭に淀んだ声だった。音としては聞き取れるが、人の声のそれではない。


「結論から言いますと、失敗です。()()()()()()叶いませんでした」


 同じような声が響く。この闇と同じ、個人の識別をさせないが為のもの。だが、明確に、それぞれに上下がある。


「構わぬ。此れまでよりは前進している」


 同じような声だが、恐らくはまた別の存在。


「彼が君のお気に入りであることはよく知っているが、今は彼に最後まで喋らせてはくれないか」


 報告を求めた者の声だ。その落ち着きと、二人に対しての言葉からして、現在発言を既に行っている三人の中では、その者が最も上の立場であるようだ。


「詳細を報告させて頂きます。かの者の軍勢のうち、精鋭といえる一角の凡そをほふることができました。近衛といえる最後の一角を、かの者から切り離すことに成功しました。ですが、かの者を捕えるどころか、た()()()()()()()()()()()()()というのが現状です」


「ふむ」

「あれはそう甘くはないとあれほど」

 ・

 ・

 ・

「仕方あるまい」

「私ならもう少しうまく――」

「虎の子の成功作を無為にしおって」

「捕えるという方針自体が――」

 ・

 ・

 ・

「放っておけばいいではないか」

「アレは我々に届く牙。この世界に残る現存最後の牙」

「主よ。貴方の身から出た錆に我々はいつまで苦しめられればいい」

 ・

 ・

 ・

「アレに対して徐々に優位を取れつつある。我は微かながら遠方に光を見た」


 多くの声が。同一の声でありつつも、確かに別々の存在らしく、各々の思惑で言い合う者たちの多きこと、多きこと。


「諸君。そろそろ話を進めたいのだが」


 落ち着いた声であるし、怒りも苛立ちもそこには無い。それでも、空気は緊迫した。重い圧に周囲が覆われたかのように。


 ぴたり、と静かになり、


 ォォン。ォォン。ゴォンン。ォォン――


 どんよりと響く、重い音。それ以外の背景音は無い。


「宜しい。諸君の聞き分けが良くて、助かるよ。手をわずらわされなくて良い」


 その言葉の意味を、ここに居る不特定多数は知っている。だからこそのこの沈黙である。


「報告者よ。次も君にとは、少々言い難い。流石の君とはいえ、疲れたかとは思う。だから、ゆっくりと休みながら、じっくりと次の策を練れば良い。実行に移すに足るなら、リソースを提供させてもらうとしよう」


 その声に、足の動く音がした。かしずくように膝を立てて首を垂れたのか、はたまた、両足を揃えて、背筋を伸ばし、軍人のように敬礼したのか。


「そういうところだよ。君には本当に、機会を与えやすくて助かる。君たちも見習い給え」


 同じように首を垂れる音と、それに混ざって、歯を食いしばる音がちらほらと。


()()()()()()、そんなに上ばかり見て、生きづらく無いのかな? だが、だからこそ、君たちの大半はここに居れているのかもしれないが」


 皮肉たっぷり。それでも、反論の声を上げるものは――


「主よ! お願いがあります」


 いた。


「確か君は先ほど、私の身から出たさびにここにいる皆が苦しめられているだとか云々口にしていたな。そんな君が、私に何をお願いするつもりなのかな?」


 意地悪な聞き方だった。


 この場で、最上たるその者の声には、圧がある。逆らえない圧が。それでもその者は口を開いた訳で。


()()()()()()。その何れかに、貴方様の意思の代行者として、私をつかわわせて頂きたい」


 彼のその言に、周囲がざわつく。


 最上たる者がきっちりと聞いていたことをもう分かった者々は、声を抑えて、小声で何やら言い合っている。


「ほぅ。君はどちらへ行きたい? 理由と、必要なものを言うといい。君が足ると判断できたなら、君の望む通りにしてあげよう」


 更にわざつく。前回、彼のようなことを言った命知らずは、返しの言葉すら無く、物言わぬむくろに変えられたから。


「私が向かうのは、()()()()()()()()。あの者に思うがままにさせるリソースを放置しておく理由などありはしません。一刻も早く、抑えなくては。その為の人員こそが必要なものです。東京フロートは放置で問題無いでしょう。あの場所であれば、何もせずとも、変わりは生えてきましょう。前任者には劣るでしょうが、必要十分かと。それでは温いというのでしたら、今回の功労者たる彼を、唯の休暇ではなく、バカンスと称して、送り出してやっては如何でしょうか」


 周囲のざわつきは無くなり、空気はこおっていた。彼らは思う。好き勝手に話し過ぎた、と。そうなればもう、ただただ、とばっちりが怖い、とだからこその沈黙と恐怖である。


「君の言う通りとするとしよう。ふふ。君たちも捨てたものではない。功労者たる彼のような者が君たちの中から出てくる。そして今、また一人、功労者が生まれた。私の用意していたものよりも、君のそれはずっと愉快ゆかいで、しっくりくる。やはり、こうでなくては。君たちは二人に感謝するといい。私の機嫌は無事上向いた」


 不明瞭に淀んだ笑い声が響き、それがどんどん遠くなり、やがて消えて、空気は温度を取り戻す。


 ォォン。ォォン。ゴォンン。ォォン――


 どんよりと響く、重い音。それ以外の背景音は無い。遥か遠く、透明なガラスのような半球の外に見える暗い、何処までも続く海。まばらに立ち尽くす、黒いローブを深く被った物々たち。その中で、同じ方向を見て、かしずく唯二人。その二人こそ、功労者とされ、地上につかわされることとなった、二人である。

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