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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第四部 第二章 悪徳者の軍勢

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第二百九十七話 不死の種類 後編

 それは、触手の一本を、上へと立てるように延ばし、垂らすように一度、重力に逆らうように、更に一度、曲げた。


「4?」


 少女ケイトは、それがどう見えたかを答えただけであったが、それは、クイズの類では無かったらしい。だから、溜めも感心も何もなく、話は続いていく。


「はい。4つ、です。我々が知る不死の種類はたった4つだけです。貴方様の知る数も同じでしょうか」


「同じ。けど、中身も同じじゃないと意味が無い。貴方たちは回りくどい。だからこうしましょう。私が言う四つ。違ってたら、教えて。そうじゃなかったら話を先へ。それでいい?」


 先ほどまで4を形作っていた触手は、にゅるっと、丸を形作った。


「一。不変による不死。該当例、島・海人。今ここにいない、私たちの長のこと」


 少女ケイトは、反応を見た。彼らに動揺はない。つまり、この場をもたれたのは、勢いだとはではなく、計画的なものであるということ。


「二。老化と若返りのサイクルによる不死。該当例、私」


 少女ケイトは、反応を見た。これにも反応しないということは、彼らは、足元のクーに聞かされるよりも前から、命の短さの改善の為に情報を集めていたということになる。それも、その辺のモンスターフィッシャーを越えて、命関係の情報を持つ、ごく一部の領主に肉薄する位に。


「三。死んだら記憶も体も赤子からやり直し。該当例、クー、ポー。……私たちの足元の()は、その片割れの、成れの果て」


 少女ケイトは、言おうか迷ったそれを結局口にして、反応を見た。足元のクーの、再生の失敗からの不死の喪失に、恐らく彼らは気づいている。なら、彼らとクーとの間に、どのような交渉が行われたのか。今のこの状況と、狙う着地点は?


「四。意識と体のバックアップ。動いているのは、常に、それらのうちの一組だけ。ダメになったら、他のものが次の一組になる。該当例、……私よりも貴方たちの方がよく、知っている」


 最後のそれは、彼らの感情を揺さぶる為に。こちらがこのようなことを言うだろうこと位、賢い彼らのこと。想定に入っている筈だ、と。そして、過去からの呪縛のようなその事実は、想定していようが、身構えていようが、決して、揺らがずにいることなんて、できはしない。


「えぇ。結果的な死の超越。我々たこに声帯を付け、オスのメスへの同化を失くし、人へ近づける、品種改良を行った、科学者と呼ばれた者たちのうちの一人がそれに該当することを我々は口伝として、祖先から引き継いでおります」


 代表者たる、虹色の殻のたこは、更に一歩前に出て、わざわざそう言った。他の者たちが、感情的になることを防ぐ為に。


「ずれは無いわよね。で、そちらの要求は何? 私?」


 少女ケイトは揺らがない。蛸たちの位置取りが、少しずつ動いて、こちらの逃げ道を失くす方向に動いていることに気づいていた。特に、足場となっている、この場の周りの海から離れて――少女ケイトが預かった部下たちがいる、海から生えた木々の周り。


 目視はできない。


 今、この巨大魚となったクーの背中にいる蛸たちよりも、それらは遥かに小さい。たこの、子供たちだ。気配は極小で。


 きっと、最初から仕掛けられていた。


 蛸の代表が、子供たちはこの交渉の場に直接的には関わっていないと遠回しに仄めかしていたのは、つまり、嘘。けれども、明白についた嘘ではない。だからこそ、直観をすり抜ける。


 更に、この巨大魚となったクーの背中にいるたこたちより、遥かに気配が小さく、これらのたこの気配を知らない、樹上の仲間たちでは、子供のたこたちを脅威と認識できない。


 そして、この距離。自分であれば、見えるし聞こえるが、一流のモンスターフィッシャーへ至れるほどの才能の無かった、樹上の彼らでは、こちらから声をあげようにも、見えないし、聞こえない。


 この巨大魚となったクーの背中のたこたちの殻を奪って、拡声器として使おうとしても、クーがそんな風に自分が動くことを許しはしないだろうということは明らかだった。


 唯の協力者としてではなく、明らかに、彼らの仲間として動いている。


(実行計画に線を引いたのは、クーね……。同じモンスターフィッシャーの中でもその実力の差は別物と言えるくらい開いてることを、利用、された。完敗ね。船長なら未だしも、私には、手遅れに気づくまでが限界。変われないのね。成長できない。この身と同じように)


「話が早くて助かります」


 そう。彼らのターゲットはケイト唯一人。最初からそういう手筈てはず


「貴方のタイプの不死だけなのです。現在の我々の特性を失わず、変化の可能性を絶えず残し、経験を蓄積できる、不滅ではないが、不老として寿命の問題を越えれる存在になる方法は。ライフサイクルそのものを伸ばすには、私たちの体というのは完成され過ぎています。元人間、クー。足元の彼のお蔭で、我々は、大幅にその数を増やすことに成功しました。ですが、意識も記憶も引き継げない。それが消えたなら、結局、最初からのやり直しなのです。私たちの目的。積み上げること。それを、十分に為せない。貴方の血肉で解決すれば一番でしょうが、きっと、そうはならないでしょうから、来てもらう必要が、あります」


「見返りは?」


「貴方の過去の一つの清算ですよ。祖先は、貴方様を恩人と口伝を残した。一方的に、理由も説明せず、仮にも納得すら無しに、連れ去る訳にはいかない。我々だけの話なら生まれたときから決まっていた運命、と終わりにもできます。ですが、我々に続く子々孫々までを含めるとその限りではないのです。貴方様によって直接解放された祖先から、我々はその意思を引き継いできたのですから」


「そこは、クーの入れ知恵じゃないのね。断る口実なんて、残らない」


「尤も、我々の中でも意見は割れました。貴方様に頼るかどうか。今も平行線ですよ。ですが、貴方様に会いに行く、というところは、同じとするところでした。貴方様に会ってみたい、という理由はそれこそ多種多様でしたが。ですが、機会が降ってきたなら、掴まない手はありません。我々の生は、今も変わらず、短いのですから。貴方様の気配を知る、今回の要たる、足元の彼に、私たちは背を押されたのです。そして、私が今、連れてきた仲間たちの一部から貫かれていないのですから、貴方様に頼るというのは、我々の意見としても、遅ばせながら、決定したのです」


 少女ケイトは思う。自分は納得してしまった、と。


「一つだけ、お願い。彼らに別れの挨拶あいさつをさせて」


 巨大魚クーが、しけをもろともせず、しかし大波立てないようにゆっくりと、少女ケイトの仲間たちのいる樹木の方へと、接近していった。

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