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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第四部 第一章 囚われの御姫様
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第二百八十九話 その先、虚空でない天上

 時が流れた。


 豪快な男は何も言うことなく待った。少年が言いだすのを。それこそ、冷静さを取り戻した合図なのだから。そして、その時はそう掛かることなく来た。


「で、どうするん?」


 少年は、何事も無かったかのようにそっけなく言う。ほんの数分前まで確かに泣いていたというのがまるで嘘かと思えてしまう位に。


 そう錯覚しそうになって、豪快な男は改めて少年を見る。まだ涙腫れの残った目をしている。見事なものだと豪快な男は思った。


 その切り替えの早さを。


 物理的な変化という、繕いようのない部分はどうしようもない。だが、意思でそうにかできる部分や、繕いが可能な部分については、やり方次第。


 それをやろうとしてすぐさまできているということ。やろうとすること。それを行うこと。切り替えというのは結局のところその二段階。それが、常識では考えられない位に、早い。


 弱くとも、強いのだ。


 矛盾するようで、矛盾など実はない。崩れても、立て直しが早い。常人ではありえないくらいに。どうしてそんなことができるのか。そう思えてしまう程の、ある意味恐ろしい切り替え。


 だってそうだろう? 少年が抱いた辛さは、それが大の大人であっても狼狽うろたえてまともでいられない程の類のものであるのは明らかなのだから。


 それこそ、最初から狂っている、それか、感情が壊れている。そんな類の破綻者のような切り替えだ。


 涙を抑えて、表面上冷静になってみせた。それだけであれば、理解も及ぶだろうし、やろうと本気になれば、常人であっても、できる者はいるだろう。だが、それを、一切の無理をしている風を感じさせずにやってしまえるとなれば――もう、常識の外。


(お前さんも、あのお嬢ちゃんも、()()()()()()()()()())



 豪快な男は、思うところがあった。受け取った役目と、はなむけの言葉のを思い出す。


『こんな世界で、貴方は長の一人になるのですから、一つ、心に留めておいてください。強くなければならないことは確かです。ですが、私や、父を辿る必要は無いのです。強さにも色々あるんですから。貴方は、貴方という長になればいいのです。きっと、少しずつ、分かるようになりますよ。だから私は貴方に後を託す訳です』


(本当、色々、あるもんなんだなぁ、座曳)


嘗て憧れていた座曳とは違う強さ。度々島を訪れる流れのモンスターフィッシャーたちの誰とも違う強さ。それは、角も珍しい、人らしい強さ。何度倒れても、すぐさま懸命に立ち上がってくるような、そんな強さを、豪快な男は今、知った。


「決まっているさ。声をあげて呼ぶんだよ」


「それ……俺やったやん」


「ふっ。こうするんだよ」


 そして、


「おーーーーーーーい! ()()()んだろぉぉおおっっ! ()をしよう! 何が望みか、話し合おうっ!」


 豪快な男が、得意げに、上の方を向いて叫び出し、少年ははっとした。そんな考え、自身の脳裏には()()も浮かばなかったから。


「俺ぁ、外では交易なんてやってるんもんでさぁ! モノもネタも集まってくるんだ!」


 豪快な男が、そうやって、()()へと訴えかける中、少年の中で、答えが浮かんでくる。相手は、自分たち三人のうち、一人を隠した。残った自分ともう一人には枷も掛けず、そして、姿も見せず。


 相手の意図。そこから逆算し、相手の望むものが提示できるかを考える。相手の行動からして、手口はある意味強引、ある意味緩い。


 相手の意図はだから様子見。


 なら、なぜそうする? 大きな縛りを一つつけた上で、行動を見る。幻影の操作からして、作為的であり、放置ではなく、殆どずっと手づから制御されていたかのような。


 まるで、あぶり出すような。


 何を?


 連れ去ったリールから何かを知りたいのであれば、こんな手口は採られない。だから、知りたいものがあるとするならば、自身と連れの男のどちらかあるいは両方からと絞れる。


 そうなれば、相手が何を知りたがっているか。そして、それは、こちらが言ってくれないであろうこと。それか、こちらでも気づいていないが備えている何か。


 形あるモノではない。もし形あるモノであるならば、脅しや強奪という手段こそ、手っ取り早い。そうしないということは――そう。判断材料は出揃っていた。


「あんたが俺らをここで観察しただけじゃあ分からねぇ、モノ、コト、沢山なぁ!」


(そっか。あんたも気づいとったんやなぁ。)


 豪快な男は、自分に負けず劣らず、鋭くて、自分よりもずっと、先を考えて動いていたのだということに、やっと認識が追いついたのだった。


 そして、少年がそうやって考えているうちに、長かった豪快な男の呼びかけは、締めへと差し掛かった。


「はっきり決まって無ぇなら、それこそすり合わせよう! 探すのは得意だ! 気づくのも当然、得意だ! 損はさせねえ! 無論、無駄な時間にもしねぇ! こうやって、ほら。()()()()()()()()()()?」


 そして、豪快な男は、言い終えて、隣の少年に、にぃ、と微笑んだ。


 どうだ? と言わんばかりに。


 思わずにやけ返した少年。良い意味で自身の見立てが裏切られたのだから。


(この人、俺が思っとったよりも、ずっと頼もしいやんか)

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