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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第四部 第一章 囚われの御姫様
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第二百八十六話 想定外へ踏み出す方法

―映像に映される少年たちの場―


「おいっ! おいっ!」


 そう、声かけしながら、少年の目の前を、豪快な男は掌を上下させてみた。叫びが止まった後、動かなくなった少年の目は、反応を示さない。意識なく、突っ立っているかのよう。


 しかし、そうではない。この少年に限ってそれはない。前進することも後退することもあっても、停滞はしない。なら、今はどちらなのか。それが肝だ。


 ふっ、と少年は目を閉じた。 


 ぱちり。


 少年は、生気と熱気を帯びた目が開け放たれていた。


「うおっ!」


 どすんと、尻餅しりもちをついた豪快な男。そんな豪快な男に、少年は、迫るように勢いよく顔を近づけて、言うのだ。


「いけるっ!」


「!?」


 当惑する豪快な男に向けて、少年は言う。


「ちょい、見てて」


 少年は釣り竿を出した。


 を少年は出した。


 そして、糸を、数十メートルの長さのものに変えて、釣り竿を思いっきり振るう。


 先端についた、特異なる疑似餌。それが、少年の前方、数十メートル先地面の砂を掠りながら砂に埋もれるかと思うと、何の抵抗もなく、空触るかのように弧を描きながら、戻ってきた。


 っ、スッ!


 得意げに、戻ってきた疑似餌を掴みながら、少年は豪快な男に向けて言った。


「ずっと考えとったんや。だまされてるようやって。どうなっとおんやって。俺らに都合悪く、色々急に出てきてさ。ほんだら、急に消えるんやで。何も無かったみたいに。全部、まるで嘘みたいやんか」


 豪快な男は口を挟むことなく、顔に大きな疑問を浮かべることもなく、ただ、黙って傾聴するつもりであることを態度で示した。


 なので、少年の口は勢いよく回る。


「そう! 嘘なんよ。見えてるもん。あるもん。全部、嘘。あの魚人ら。確かにあいつらからモンスターフィッシュの気配はした。けど、薄かったし、何より、弱い。おかしいんよ。見えたんと、感じたんと、なんかズレたんや。倒したときもそう。気ぃ失ったり、死んだりしたんやったら、気配って消えるやん。けど、それもズレてた。全部、ワンテンポ遅れとおんや。ズレる訳がないもんが、ズレてる。俺らが見てるもんに、後付けで気配つけてたみたいやなって、思ったんや。じゃあ、しっくりきた。引っ掛かってるんはそれやったんやなって。じゃあさ、イライラしてきたんよ。嘗め腐ってるみたいやんかそんなん! 後は、どういう仕組みで、どうやってるんか。これまでから、考えてみたんよ。ほんで、たぶん、当たった!」


「つまり?」


「多分、半径数十メートル。俺らが立ってるとこから俺らに、幻を見せとぉんや。重さのある幻。そういうモンスターフィッシュがおるんよ」


「それは俺も知ってる。『幻糸海月ゲンシクラゲ』だろう? だがよぉ……、」


 それは、自らが持つ万にも及ぶ糸のような触手を伸ばし、対象の皮膚へと触れて、その神経に干渉する。脳へと電気信号の送受信をするに至り、対象の記憶から、対象にとっての脅威を幻影として形成し、その五感をじわりと制圧することで無力化し、自身よりも遥かに大きな獲物を捕食するクラゲである。


 青白い体色。人が辛うじて可視できる程度の細く、長い長い数多の触手。その大きさは、人間の大人の男の拳程度の大きさでしかない。


()()()()()()()()()()?」


 豪快な男の言う通りである。かのクラゲの行うそれによる幻覚だというのならば、起こる自称は単純かつ、単調である。例えば、対象が人であったとしたら、こちらを一呑みできそうな位の大口を開けてこちらに喰らいついてくるサメの一撃。そんな、単純単調かつ、短くて数秒、長くても数十秒で終わる、一発屋のような幻覚しか、それは見せることができない。


 こんな風に複雑で、一度打ち破っても続く物には決してなり得ない。それに、一体が複数を相手にはしない。それは、自身に対して、必ず、一つの対象ずつしか、相手にできない。


 危険ではあるが、対処のしようは幾らでもある類のモンスターフィッシュなのだ。クラゲが複数いても、それ以上の頭数の人間がいれば問題ない。


 複数の『ゲンシクラゲ』がいても、それらが相互作用するように協力し合うことはできない。対策さえすれば、さほど脅威でないが故に、比較的、調査されているモンスターフィッシュである。


 だが、だからこそ、()()の可能性が生まれる。


 少年は、その概念を知っている。実例も見ている。あの腹の中の島でその幅の広さと可能性を知った。一度目の海底で、その何でもありな危険性を思い知った。


 つまるところ、想像できるなら、それを形にできないとは決して言い切れないのだ。寧ろ、想像できるなら、それが一見不可能であろうとも、形になる可能性は必ずあるのだ。


 起点となる材料、形に至るための想像がそろっているとするのならば、必ず。


「誰かが、改造したんやろ。俺らをこんな風におちょくって、お姉ちゃんをどっかにやった誰かがなぁ! あんたな。別に何も特別なことないんや。俺らが知っとる、モンスターフィッシュの体を使った色んな道具。ほら。いっしょやろ?」


 腑に落ちたらしく、頷く豪快な男。そして、


「よぉく分かった。で、どうするってんだ?」


「こうするんよ」


 そう言って、大きく息を吸った少年は、


「お姉ぇちゃぁあああああああああああああああああんんんんんんんんんんんんんんんん!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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