表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 最終章 それはXXXの時間の檻
429/493

---146/XXX--- 時址の灰の演目 ~埃積の家・破~

「あら? 突き抜けちゃったわね」


 拳をとびらに突き刺したまま、少年の方を振り返り、そう言ったリール。再び前を向き、とびらを突き抜けた先の拳を開き、両足を前後に開き、こしを落とす。そして、


 バァグゥゥン、ミシッ、ミキミキッ、バガァァンンンン!


 引っ張り、とびらごと引き抜いた。次の瞬間、


 ブゥオウウッ、ムゥワァァァーー


 風圧と共にほこりが舞う。


 リールはあっという間にほこりの弾幕に包まれ、目をつぶる。


 後方にいた少年の方までそれは飛んできたが、少年は目をつぶらず、少しうつむき気味になることでそれをやり過ごす。リールがほこりで見えなくなるのを視認した直後、軽く目をつぶって、自身の方まで飛んできたほこりの風を、しのぐ。


 リールは感じる風圧が弱くなるのを感じ、薄く少しずつ、目を開く。


 そして、徐々に薄くなってゆくほこりの先に何があるのかが分かるのを、二人は、待つ。


(一体、何があるんやろうか?)

(どうか、悲惨ひさんな何かじゃありませんように)


 そして――それが姿を現わす。


 少年が一足早くそれを視認した。


 まるで、もいだとびらを盾みたいに持っている(持って、いるではなく手を、もいだとびらに貫いたままにしているだけである)リールの後ろからであるから、全容が見えた訳では決してない。ない。が、もう、それだけで、判断するに十分だった。自身の想像した、悪い側に入る光景が、そこには広がっている、と。


「っ! ……」


 ギリリッ。


(()()……こういうやつかぁぁぁぁっっっ!)


 そんな、切迫せっぱくしたように殺した少年の悪い意味での驚きの声。そして、沈黙と、歯をきしる音。


 リールは、それを耳にするや否や、


(嘘っ……! 見誤った……? でも、危険は…―いや! この、ポンちゃんの反応っ!)


 義手に通したままの、もいだとびら


 カコンッ!


 その下側を、引き気味に地面に押し付けるように、したままの義手で押さえ置き、


 ブゥン、


 ひざで、


 バキィィン!


 り割った。そうして、リールは、少年の声の理由を知った。


「っ! ……」


 まだ薄く埃舞ほこりまう視界の中、流れて、落ちてゆく、ほこりの合間に、リールはそれを視認した。リールは目を見開いて硬直し、かなしそうな表情になった。


 少年は、いつの間にかリールの前方にいて、背を向けたまま、リールの部屋への進行を妨げるように右手を出して、立っている。


 リールには、少年のさえぎる手の先にある光景よりも、少年がそうしていることそのことが心にきていた。


(ポン……ちゃん。それ……。駄目ね、私は……。本当に、駄目、だわ……。それは、私の役目よ……。私がしなければいけないこと……。苦しむのはお姉さんな私であるべきなの……。……。そっか……。そうよね……今更ね……。私が頼りないから……。ここまでずっと、情けなくて、頼りなくて、みっともなかったから……、私は、涙を見せるくらい弱っている筈のポンちゃんに、空元気のポンちゃんに、こんなことをさせてしまっているのね……)


 背中越しに見えて、分かった。震えている。その背は、震えている。恐怖によるものではない。怒りと哀しみによるものであることは回り込んでその顔を見るまでもなく分かった。


(やめて、すら、私には言えない……。言う視覚なんて、ないんだから……)


 少年は感じていた。背中からの視線を。リールが見ているのは、自分の先ではなく、自分の背中だ、と。


(()()()()()にはなれた……んかな……)

 

 そうやって、少年とリールは二人して動かず、沈黙することとなった。






 ほこりけむりが、止んだ。


 風の通りが無い屋内であるが故に、それには数秒で終わるものではなかった。しかも、ほこりは積もりに積もっていたのだから、数十秒を要した。


 そして、二人は、視界に映った、その先にある部屋の光景を、もうそういうものとして受け入れざるを得なくなった。


 リールによって、貫かれ、もがれたとびらのあったすぐ先。その部屋の入口からわずか数センチ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それが、リールの放たれた拳から、右へ、れた位置にあったから。


 そこには、絶望を浮かべ、ひざをつき、とびらの部屋側面の取っ手があったであろう位置に向かって助けを求めるように手を伸ばそうとして、そのまま固まって石になったかのような白磁の少女が、在った。


 異様に完成度の高い彫刻ちょうこく


 そんな言い逃れような現実逃避はもう、できはしない。


 そのことをもう二人は知っている。この街や、至るまでの道で見知った。そして、ここ自体にも痕跡こんせきは残されていた。


 それは、そんな形でそんな一瞬の時に閉じ込められるかのように固められてしまった、とある、人の末路。


 そんな末路が、役割を強制されて動いていることすら、二人は見てきた。それが遺した言葉。その中で、一際強く残る、とある文言。呪縛じゅばくのようにまとわりついている。


『石の奴隷どれい


 このように、今この時に、目の前に在る、ということは――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ